あるマーケティングプロデューサー日記

ビジネスを通じて出会った人々、新しい世界、成功事例などを日々綴っていきたいと思います。

松岡議員の死の向こう側

2007-06-02 18:34:19 | ニュース
こんばんは。

28日月曜日、松岡利勝農林相が首吊り自殺という衝撃的な形で人生の幕を閉じたことは、政界に波紋を巻き起こしました。

今週発売の週刊誌各誌は、その原因と遺書の内容について特集を組んで報道しています。大筋としては緑資源機構の談合調査、地元のプロジェクトの賄賂、韓国利権などが挙げられていますが、残念ながら“死人に口なし”で真相はまだ藪の中です。

そんな中、間接的な背景として東京地検特捜部の厳しい捜査体制が一部報じられていました。今回陣頭指揮を取る東京地検特捜部長の八木氏は1月16日の就任直後、元特捜部長の熊崎勝彦弁護士らとの会合で「頑張ります。熊崎さんとの時のように闘いたい」と決意表明したとのこと。

熊崎氏は現役時代、その取調べの上手さと部下の統率力で、89年のリクルート事件から大蔵汚職まで権力に屈することなく事件を解明にもっていった輝かしい実績を持つ人物です。その熊崎氏を師と仰ぐ八木氏が担当するだけに取調べは熾烈を極め、政権の中枢まで切り込んでいたのではというわけです。

私が以前読んだ本で、検察と時の政治権力との闘い、その捜査の厳しさを描いた『特捜検察』という作品があります。取調べにおける生身の人間と人間とのぶつかり合い、ぎりぎりの駆け引きをリアルに感じるシーンをちょっとご紹介します。

◆首相の犯罪~ロッキード事件~
(※中略)
※丸紅の政治部長と言われた丸紅前専務伊藤宏への取調べ

―本格的な調べは3日午後から、東京拘置所で始まった。後の法廷での松尾証言によると、松尾は否認を続ける伊藤の前で衆院予算委員会の議事録を広げた。伊藤は予算委の証人喚問で「私も日本国民の一人であり、宣誓した上で証言している。信じてもらいたい」と大見得を切っていた。

「こんなこと言って、良心に恥じないんですか。国会を侮辱している」と松尾が言った。

「何ら良心に恥じることはない。偽証してはいない、それならここで宣誓してやる」

伊藤は突然、椅子から立ち上がった。松尾も続いて立ち、伊藤の背後の壁を指して言った。

「その壁の後ろに国民の目がある。国民がじっと見ている。そのつもりでやって下さい」

伊藤は国会議事録を見ながら、宣誓文を読み上げた。

「宣誓。私は良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、また何事も…」

翌4日も伊藤の態度はかたくなだった。変化の兆しが見えたのは逮捕から4日目の5日夜だ。黙って下を向くようになり、時折、松尾の言葉にうなづいた。(※中略)

7日午後、松尾は中学一年のときの思い出を語り始めた。全国図書館協会事務局長だった松尾の父は、国会議員に現金を渡して贈賄の罪に問われ、自宅が東京地検の捜索を受けた。

「大変なショックだった。父の名前が新聞にも大々的に出たので辛い思いをした。伊藤さん、あなたの息子さんも同じ中学一年でしょう。だから私はあなたの家族の心境は他の人よりわかるつもりです」

伊藤の顔色が変った。松尾は続けた。

「伊藤さん。あなたは背負い切れない重荷を背負っている。私にはそれがわかる。重い荷を下ろしなさい。私も手伝いましょう」

伊藤の両目から涙がこぼれた。机に伏せ、激しく泣いた。松尾はそれをじっと見守った。やがて伊藤は顔を上げ、泣きながら言った。

「申し訳ありませんでした。偽証していたことは間違いありません」


※丸紅前会長檜山広への取調べ

―76年7月13日午前9時前、東京地検の取調室。その三日前、横浜地検から応援に駆けつけた安保憲治が逮捕状を読み始めると、丸紅前会長の檜山広は顔色を変えて立ち上がった。

「ちょっと待ってくれ。何の理由があって検察庁が逮捕するのか。身に覚えのないことだ。後で検察庁が困るぞ」

檜山は怒りをあらわにした。

「オレは暇人ではない。経歴書を見てくれ。あなた方のような一介の役人とは違う。オレが犯罪人ならここで射殺してくれ」

安保は取り合わず、72年8月23日の田中邸訪問のとき、誰と一緒だったか聞いた。

「誰と行ったとはどういう意味か。オレは一人だよ。検事さん、あなたには常識があるんですか。総理のような恐れ多いところに人を連れて行けるわけがない」

翌14日の取調べも檜山は「田中邸には一人で行った」と主張し続けた。安保が「いずれは二人だったと言うようになりますよ。あなたには良心があるから」と言うと、檜山はぷいと横を向き「言わせられるなら言わしてみろ」と吐き捨てるように言った。檜山の態度が変ったのは15日夜からだった。

「私が本当のことを話すと、大変なことが起きます…」

「何が大変なのですか」と安保が聞いた。

「いや、ともかく大変なことになる。検事さんを信用して聞くが、一つ教えてくれませんか。検察庁は本気で田中さんをやる気ですか」

「やる気とか何とかじゃなく、何が真実かを追究するのが検察庁です。偉い人かどうかは関係ない。真相を明らかにするのが、私達の仕事です」

檜山は迷いを吹っ切ったようだった。「これから全部お話します」と立ち上がった。


今回の事件はロッキード事件と犯罪の性格が同じではありませんが、どんな大物政治家や一流企業のトップでさえここまで追い詰める東京地検特捜部は、やはりすごいと思います。

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