最近たまたま見かけたのですが、8月に出たばかりなのでまだ新しい本です。どちらかというと、音楽業界に就職や転職を考える人向けなのでしょうが、それは別にして音楽を聞くこともコンサートに行くことも好きなものにとっては凄く勉強になりそうです。
著者の山口哲一さんは、音楽プロデューサーを経て業界の様々な要職も努め、人材育成や起業家の支援など大活躍の人のようですが、さすがに音楽制作の現場の話だけじゃなくて業界の課題や未来という話がかなり具体的です。まだじっくりとは読めてないのですが、目次の中で気になった部分は以下の通り。
第1章:音楽ビジネスの根本的構造的変化
1-2 CDからサブスクへ、音楽体験の変化
1-4 ストリーミングによる分配率変化
第2章:世界の音楽市場を知る
2-3 サブスク時代の変化と課題
第3章:世界で最もIT化が遅れた日本
3-1 CD長期低迷とコンサート伸長
3-2 テレビタイアップとCDバブル時代
3-3 iTunes普及を止めたレンタルCD店
3-5 ストリーミングサービス遅延の罪と罰
第6章:既存会社の現状と展望
6-1 レコード会社の機能は賞味期限切れ?
6-3 「事務所」の未来
6-5 DXが遅れるプレイガイド
6-6 DXが進んだファンクラブ事業
第9章:音楽業界の課題と業界団体の取り組み
9-2 チケット高額転売問題
9-5 違法アプリ天国日本
サブスクがあんだけ普及してCD売れなくなったらアーティストは生き残っていけるかとか、CDの時代と違って音楽家の取り分がもっと増えてもいいんじゃないかとか、私もちょっと前に書きましたが、そんなことは専門家は当然課題として色々現状分析とか今後のことは考えてるんですね。
中身をちらっと紹介すると、
「デジタル配信になって、分配率が上がったときに、レコード会社と音楽家がどういう割合で分配するのが適切か、少なくとも従来の業界慣習を大きく変える必要があることは間違いありません。」
「そのアーティストの熱狂的なファンでなければ、その作品がいつ録音されたかは、それほど重要ではありません。」
「ユーザーが存在を知ったときが、その楽曲の『リリース日』なわけです。」
などが特に気になった部分。また、2021年のアメリカ市場では、1年半以上前にリリースされた作品の売上比率が74.5%を占めたそうです。ユーザーに支持された作品を作れば長く収益を得られるものの、これまでに比べて初期投資の回収に時間がかかる側面もあるとか。色々面白いですね。もちろん、あの握手券や投票券目当てで何枚もCDを買わせるグループアイドルの曲がヒットチャート上位を占めた事にも触れています。
あとは、あの人気ドラマやCMでテレビがヒット曲を作ってCDが売れた時代の成功体験に拘ってストリーミングへの移行に抵抗した流れなども当然出てきます。まあ簡単な話ではないですが。
他に興味深いのは第6章で、コンサートチケットをプレイガイドを通じて入手する方法が、現状ではかなりユーザーの負荷が大きいことも指摘されています。コンサートに参加したい人の熱量が高いために多少の負荷は乗り越えているとも指摘していますが、確かにネットで予約してコンビニで発券してその際に手数料を負担するというのも当たり前のようにやってますが、問題だと指摘する人もいるのですね。
そして、この本では途中に「日本音楽の潜在力を知るための推薦図書」というコラムもあります。その中の一つに佐藤剛さんの「上を向いて歩こう」があって、佐藤さんのプロフィールとともに紹介されています。ビジネスの話ばかりじゃなく、この本を推薦するあたりで、日本の音楽文化や歴史を真剣に考える姿勢もうかがえます。
実は私はこれを図書館から借りてきたのですが、手元に置いておきたいので買おうと思います。結構難しい用語が多くて、色々調べながら出ないと理解できない部分が多いので、ちゃんと読まねばと。特にデジタルの世界の用語がわかりにくいのですが、今覚えれば将来は理解が深まるはず。
とにかく勉強になる本ですので、関心のある方は読んでみてはいかがでしょうか。発行は秀和システムで、定価1540円です。どーですか、お客さん。