智徳の轍 wisdom and mercy

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増支部経典 

2005-02-13 | ☆【経典や聖者の言葉】
     『マハーヤーナ』No.40より

◇四集 第二十 大品

百九十七 マッリカー
一 あるとき、覚者はサーヴァッティーのジェータ林にあるアナータピンディカの園にとどまっておられた。そのとき、マッリカー王妃は、覚者がいらっしゃる所を訪れた。訪れると、覚者を礼拝して傍らに座った。傍らに座って、マッリカー王妃は覚者にこう申し上げた。
「尊師よ、この世に一人の女性がいて、容色が悪く、容姿が悪く、極めて邪悪に見えて、貧乏で、持ち物は少なく、資産は少なく、権力があまりないのは、一体どのような原因とどのような条件によるのでしょうか。
 尊師よ、また、この世に一人の女性がいて、容色が悪く、容姿が悪く、極めて邪悪に見えるが、裕福で、たくさんの財産があり、たくさんの資産があり、大きな権力を持つのは、一体どのような原因とどのような条件によるのでしょうか。
 尊師よ、また、この世に一人の女性がいて、容姿が良く、見た目が良く、感じが良く、最も優れた華麗な容色を賦与されているが、貧乏で、持ち物は少なく、資産は少なく、権力があまりないのは、一体どのような原因とどのような条件によるのでしょうか。
 尊師よ、また、この世に一人の女性がいて、容姿が良く、見た目が良く、感じが良く、最も優れた華麗な容色を賦与されていて、裕福で、たくさんの財産があり、たくさんの資産があり、大きな権力を持つのは、一体どのような原因とどのような条件によるのでしょうか。」
二 「マッリカーよ、ここに一人の女性がいて、憤激があり、悩みが充満し、つまらないことを言われただけで罵【ののし】り、激怒し、傷付け、抵抗して、激怒と瞋恚【しんに】と不満を明らかにする。そして、彼女は出家修行者や祭司に対して、食べ物・飲み物・衣服・乗り物・花飾り・香料・化粧品・寝具・住居・灯明を施さない。さらに、嫉妬【しっと】と慢があって、他の利益・尊敬・尊重・敬重・礼拝・崇拝に対してねたみ、憤り、嫉妬を併せ持つのだ。
 もし彼女がそこで死んで、女として生まれるならば、彼女はどこに生まれ変わろうとも、容色が悪く、容姿が悪く、極めて邪悪に見えて、貧乏で、持ち物は少なく、資産は少なく、権力があまりないのである。
三 マッリカーよ、また、ここに一人の女性がいて、憤激があり、悩みが充満し、つまらないことを言われただけで罵り、激怒し、傷付け、抵抗して、激怒と瞋恚と不満を明らかにする。しかし、彼女は出家修行者や祭司に対して、食べ物・飲み物・衣服・乗り物・花飾り・香料・化粧品・寝具・住居・灯明を施す。さらに、嫉妬と慢がなく、他の利益・尊敬・尊重・敬重・礼拝・崇拝に対してねたまず、憤らず、嫉妬を併せ持つことがないのだ。
 もし彼女がそこで死んで、女として生まれるならば、彼女はどこに生まれ変わろうとも、容色が悪く、容姿が悪く、極めて邪悪に見えるが、裕福で、たくさんの財産があり、たくさんの資産があり、大きな権力を持つのである。
四 マッリカーよ、また、ここに一人の女性がいて、憤激がなく、悩みが充満することなく、大事なことを言われても罵らず、激怒せず、傷付けず、抵抗せず、激怒と瞋恚と不満を明らかにすることはない。しかし、彼女は出家修行者や祭司に対して、食べ物・飲み物・衣服・乗り物・花飾り・香料・化粧品・寝具・住居・灯明を施さない。さらに、嫉妬と慢があって、他の利益・尊敬・尊重・敬重・礼拝・崇拝に対してねたみ、憤り、嫉妬を併せ持つのだ。
 もし彼女がそこで死んで、女として生まれるならば、彼女はどこに生まれ変わろうとも、容姿が良く、見た目が良く、感じが良く、最も優れた華麗な容色を賦与されているが、貧乏で、持ち物は少なく、資産は少なく、権力があまりないのである。
五 マッリカーよ、また、ここに一人の女性がいて、憤激がなく、悩みが充満することなく、大事なことを言われても罵らず、激怒せず、傷付けず、抵抗せず、激怒と瞋恚と不満を明らかにすることはない。そして、彼女は出家修行者や祭司に対して、食べ物・飲み物・衣服・乗り物・花飾り・香料・化粧品・寝具・住居・灯明を施す。さらに、嫉妬と慢がなく、他の利益・尊敬・尊重・敬重・礼拝・崇拝に対してねたまず、憤らず、嫉妬を併せ持つことがないのだ。
 もし彼女がそこで死んで、女として生まれるならば、彼女はどこに生まれ変わろうとも、容姿が良く、見た目が良く、感じが良く、最も優れた華麗な容色を賦与されていて、裕福で、たくさんの財産があり、たくさんの資産があり、大きな権力を持つのである。
六 マッリカーよ、この世に一人の女性がいて、容色が悪く、容姿が悪く、極めて邪悪に見えて、貧乏で、持ち物は少なく、資産は少なく、権力があまりないのは、このような原因とこのような条件によるのである。
 マッリカーよ、また、この世に一人の女性がいて、容色が悪く、容姿が悪く、極めて邪悪に見えるが、裕福で、たくさんの財産があり、たくさんの資産があり、大きな権力を持つのは、このような原因とこのような条件によるのである。
 マッリカーよ、また、この世に一人の女性がいて、容姿が良く、見た目が良く、感じが良く、最も優れた華麗な容色を賦与されているが、貧乏で、持ち物は少なく、資産は少なく、権力があまりないのは、このような原因とこのような条件によるのである。
 マッリカーよ、また、この世に一人の女性がいて、容姿が良く、見た目が良く、感じが良く、最も優れた華麗な容色を賦与されていて、裕福で、たくさんの財産があり、たくさんの資産があり、大きな権力を持つのは、このような原因とこのような条件によるのである。」
七 このようにお説きになったとき、マッリカー王妃は覚者にこう申し上げた。
「尊師よ、私は別の生において、憤激があり、悩みが充満し、つまらないことを言われただけで罵り、激怒し、傷付け、抵抗して、激怒と瞋恚と不満を明らかにしたために、尊師よ、この私は現在、容色が悪く、容姿が悪く、極めて邪悪に見えるのです。
 尊師よ、しかし、私は別の生において、出家修行者や祭司に対して、食べ物・飲み物・衣服・乗り物・花飾り・香料・化粧品・寝具・住居・灯明を施したために、尊師よ、この私は現在、裕福で、たくさんの財産があり、たくさんの資産があるのです。尊師よ、また、私は別の生において、嫉妬と慢がなく、他の利益・尊敬・尊重・敬重・礼拝・崇拝に対してねたまず、憤らず、嫉妬を併せ持つことがなかったために、尊師よ、この私は現在、大きな権力を持っているのです。
 尊師よ、さらに、この王宮の中には、武人階級の少女も祭司階級の少女も長者の少女もおりますが、私は彼女達に対して自在に支配しているのです。
 尊師よ、今日からこの私は、憤激をなくし、悩みが充満することをなくし、大事なことを言われても罵らず、激怒せず、傷付けず、抵抗せず、激怒と瞋恚と不満を明らかにいたしません。そして、出家修行者や祭司に対して、食べ物・飲み物・衣服・乗り物・花飾り・香料・化粧品・寝具・住居・灯明を施します。さらに、嫉妬と慢をなくし、他の利益・尊敬・尊重・敬重・礼拝・崇拝に対してねたまず、憤らず、嫉妬を併せ持つことをなくします。
 素晴らしいことです、尊師よ。素晴らしいことです、尊師よ。たとえるならば、倒れたものを起こし、また覆われたものを明らかにし、また迷えるものに道を示し、また『眼ある人は物を見よ』と、暗闇【くらやみ】に灯火【ともしび】をもたらすようなものであり、このように、覚者は様々な方便によって、法をお説きくださいました。尊師よ、この私は、覚者と法と向煩悩滅尽多学男出家教団【こうぼんのうめつじんたがくなんしゅっけきょうだん】に帰依いたします。覚者は、私を帰依信女【きえしんにょ】としてお認めください。今日から一生涯、帰依いたします。」

【解説】
 このマッリカーの経を読んで感じることは、覚者サキャ神賢【しんけん】の法はまさにカルマの理法であるということだ。そして、そのマッリカーも相当徳があった、やはり皇后だと考えられることである。というのは、この法を一回聴いて、自分の欠点を覚者サキャ神賢の前にさらけ出しているからだ。例えば、自分自身はそんなに美しくないということを平気で言えて、逆に自分の権力とか金とか財産、そういうものを所有していることについて、また平然と言える、とらわれのないところが見受けられるわけだ。さすがに第四天界、つまり除冷淡天【じょれいたんてん】へ転生なさった魂だと思う。
 そして、これはまさに「原因」と「条件」によって結果が出てくるという説法で、もう説明のしようがない。要するに感情的な乱れが表情をつくり、布施が財をつくり、そして称賛が権力をつくるということを表わしている説法なのである。

『全力』輪廻転生談 (ヴィサイハ・ジャータカ)

2005-02-13 | ☆【経典や聖者の言葉】


『マハーヤーナ』No.41より

◎――「布施をなした」と。
 これは、覚者【かくしゃ】がジェータ林にとどまっておられたときに、アナータピンディカについてお話しになったものです。この物語は、以前に『カディラ樹炭火輪廻転生談【じゅすみびりんねてんしょうだん】』の中で詳しく述べられました。
 さて、覚者はアナータピンディカに、こうお告げになったのです。
「長者よ、いにしえの賢者達は、『布施をするな』と言いながら空中にとどまって妨害した、神々の王である有能神【ゆうのうしん】を寄せ付けないで、布施をしたのです。」
 このように覚者は語られ、彼の懇願によって、過去世のことをお話しになったのです。

 その昔、バーラーナシーで、『神聖賦与【しんせいふよ】王』が統治していた頃、到達真智運命魂【とうたつしんちうんめいこん】は、八億の財産がある『全力』という名の長者でした。
 彼は五つの戒を具足し、布施をしたいという気持ちと、布施をする喜びとを持っておりました。そこで、彼は街にある四つの門と、街の中央と、自宅の門と、六つの場所に布施堂を造らせて、布施を行ないました。そして、来る日も来る日も六十万の富を差し出し、到達真智運命魂は乞食【こじき】と全く同じ食事を取っていたのです。
 かのバラリンゴの大陸の鋤【すき】を休めさせて、布施を行なうと、その布施の威神力【いしんりき】によって、有能神の世界が震動しました。そして、装飾された石でできた、神々の王である有能神の玉座からは熱が発せられたのです。
「私をこの住まいから落とそうとしているのは、一体だれだ。」
と、有能神は思案して、大長者に気付きました。
「この『全力』は、バラリンゴの大陸全体の鋤を休めさせてまでも、この上なく手広く布施をしている。おそらくこの布施によって、私を落として、自分が有能神になるに違いない。彼を破産させて、乞食にし、布施をすることがないようにしよう。」
 そう考えて、財産や穀物も、油や蜂蜜【はちみつ】や糖蜜【とうみつ】などもすべて、さらに奴隷や召使いまでも消してしまったのです。
 布施の監督者達がやってきて、こう告げました。
「ご主人さま、布施堂が隠されました。設置されていた場所には、何も見当たりません。」
「ここから賃金を持っていきなさい。布施を中断させてはなりません。」
と、妻を呼びにやり、こう言いました。
「お前、布施を続けなさい。」
 そこで、彼女は家中をくまなく調べましたが、豆の半分さえも見当たりません。
「あなた、私達の着る物を除いては、他に何も見当たりません。家中が空っぽです。」
と言いました。また、七宝を納めた蔵の扉を開けさせても、何も見当たりません。つまり、長者と妻を除いては、他に奴隷や召使いさえも認められなかったのです。
 再び、偉大なる魂は、妻にこう告げました。
「お前、布施は中断すべきではないのです。家中すべて、くまなく調べて、何かを探しなさい。」
 そのとき、一人のわらを刈る者が、鎌【かま】と天秤棒【てんびんぼう】とわらを縛る荒縄を扉の中に投げ入れて、逃げ去りました。長者の妻はそれを見て、
「旦那さま、これを除いては、他に何も見当たりません。」
と、それらを取ってきて渡しました。
「お前、私は今まで本当に長いこと、わらを刈ったことがないのだが、今日はわらを刈り取って売り、それに相当する布施をすることにしよう。」
 こうして、偉大なる魂は、布施を中断するのを恐れて、鎌と天秤棒と荒縄をつかんで街を出て、草原に行ってわらを刈りました。
「一把は私のにしよう。もう一把で布施をしよう。」
 そして、二把のわらの束を縛って、天秤棒にかけて持っていき、街の門の所で売り、小銭を手に入れて、一把分を乞食達に与えました。それに対して、多くの乞食が、
「私にもください。私にもください。」
と言うので、もう一把の方も与えて、その日は妻と共に食べ物もなく過ごしました。このようにして、六日が過ぎたのです。
 そして、七日目にわらを運ぼうとしていると、七日間食べなかった上に、元来虚弱なため、額の上に太陽の熱が当たっただけで、目がくらんでしまいました。彼は正気を取り戻すことができず、わらをまき散らして倒れてしまいました。
 有能神は、彼の行動に注意を払い、吟味していました。すぐさま、彼はやってきて、空中にとどまり、第一の詩句を唱えたのです。

 一 『全力』よ、かつて布施を行ない、
   施すにつれて、お前には破壊の法が生じた。
   もしも今後布施を行なわず、
   お前が自制すれば、資産は残るだろう。

 偉大なる魂は、彼の言葉を聞くと、こう尋ねました。
「あなたはどなたですか。」
「私は有能神である。」
「実に、有能神は自ら布施をし、戒を記憶実践して戒誓行【かいせいぎょう】をなし、七つの善行を実行して、有能神の位に到達しました。しかしながら、あなたは自らの支配の基である布施を妨害しています。実に邪なることをなさるものです。」
 到達真智運命魂はこう言って、三つの詩句を唱えたのです。

 二 千の眼ある者よ、
   極めて貧しいといえども、
   聖者は邪なることを
   すべきではないという。
   人々の王よ、
   資産のために
   帰依【きえ】を捨てるなら、
   まさに財産はないだろう。

 三 一つの車が行く所、
   それゆえに次の車も行く。
   『陶酔【とうすい】エキス』よ、
   昔捨てられた富を増大させた。

 四 もしもあるなら施そう。
   ないのに何を施そうか。
   このような生き物でも施そう。
   布施を怠ることのないように。

 有能神はそれを遮ることができずに、こう尋ねました。
「何のために布施をするのですか。」
「有能神や神聖天の位を望んで行なうのではなく、私は全智を望んで施すのです。」
 有能神は彼の言葉を聞いて喜び、手で背中に触れました。するとすぐに、到達真智運命魂は、まさに十分に食べたように体全体が満たされたのです。そして、有能神の威神力によって、彼の財産はすべて分配され、元どおりになったのです。
「大長者よ、今後あなたは、来る日も来る日も百二十万の富を使って、布施をしなさい。」
 有能神はこう言うと、その家の財産を無限にし、彼を見送って、自分の住まいに戻りました。

 覚者はこの教えを取り上げて、この輪廻転生談に当てはめられたのです。
「そのときの長者の妻は、ラーフラの母で、『全力』は、この私なのである。」


【解説】
 この中で、有能神が、『全力』が布施によって自分を落として自分が有能神になろうとしていると考えるところがある。やはり、供養値魂【くようちこん】の六神通【ろくじんつう】が完璧な六神通ではないということの証明である。サーリプッタですら完璧な他心通【たしんつう】を持っていなかったのだから、完全煩悩破壊していない有能神ならば、なおさらである。
 この経には、一つ大変な示唆があると思う。その示唆とは何かというと、必ず修行には壁がある。そして、普通はそれが破れないのだが、それを破ればその後大発展するということである。
 私は、『全力』はさすがに賢者だと思う。なぜならば、ここで破壊の法が生じたという有能神の言葉は正しいからである。破壊の法とは、今の自分の状態を破壊するということで、これが確実に破壊されていけば、次のフォームに変わっていくのである。だから、この破壊の法とは大いに結構なことなのだ。ところが、こだわりがあり愛著【あいじゃく】があると、それがなかなかそうは受け取れない。自分のフォーム、自分の型に執着のある人は、自分を新しいフォームに変えていくことができないのだ。
 私などは、何度も何十度も何百度もぶっ壊してきている。だから、自分が壊れることは全く怖くない。
 また、『全力』が有能神に語りかける言葉の中に「七つの善行」というものが出てくるが、『南伝大蔵経』の『有能神相応』という経典にその七つが挙げられているので、ここにご紹介しておこう。

三 それでは、七つの善行とは何であろうか。
四 一生涯、父母を養わなければならない。
一生涯、一族の徳の高い者に敬意を払わなければならない。
一生涯、穏やかな言葉を語らなければならない。
一生涯、両舌をなしてはならない。
一生涯、物惜しみの垢【あか】を離れた心によって、家で生活し、気前よく放棄し、けちけちせず手放すことを楽しみ、供養に応じ、布施を分け与えることを楽しまなければならない。
一生涯、真理を語らなければならない。
一生涯、憤激してはならない。もし憤激したならば、速やかに抑えなければならない。