姉川からの融雪水がびわ湖に流れ込んでくる。
3月下旬、お彼岸頃に起こる風物詩でもある。
滔々と流れ込む水は、時として姉川の堤防を窺うくらいにまで増水することがある。
そんな姉川の上流に巨大ダムを建設する話がある。
ダムありき、として設置された委員会に呼び出された時に、私は何か違和感を覚えた。
冬季に姉川や安曇川から流入する濁流は、湖底に沿って深くもぐりこむ。
密度流と言われるこの流れは、周辺の湖水より密度が大きい場合に発生する。
融雪水の水温が低いことと濁度が高いことが要因である。
委員会の議論では、河川から流れ出る水の量は湖水の量と比較してさほど大きくないことから、ダムの建設はびわ湖に影響を与えないという結論を誘導していた。
ダムでは、雪解け水を貯めて春から夏の農業用水として使おうとしていた。
私がもった違和感は、冬に水を流さなくてもびわ湖への影響は本当にないのか、という素朴な疑問だった。
冷たい川の水は酸素を多く含んでいるので、湖底の酸素不足を直接緩和することができる。
それがなくなるのだ。
友人である医師がこんなことを言っていた。
「90%の確率で助かります」というのと「10%の確率で助かりません」というのはどちらも同じことを言っているのだが、聞いた感じは全く異なる、と。
「水の量が少ないから、影響は少ない」という論理が、本当に正しいのだろうか。
年にもよるが、1月から3月にかけて姉川から流入する水量の合計は、1~2億トンである。
びわ湖全体の水量275億トンから比べれば1%にも満たない。
この事実に反論するつもりはない。
ところがここに面白いデータがある。
その年に降った雪を水に換算した量(積雪水量)とびわ湖に溶けているリン酸態リン総量の間に有意な負の相関があるのだ。
つまり雪が多い年はリン酸態リンの量が少なく、雪が少ないとリン酸態リンの量が多くなる。
私は、びわ湖に流れ込んだ融雪水が湖底を覆うことによって、泥から溶出するリン酸態リンの量が減るからだと推論している。
つまり融雪水が湖底に膜を作るのだ。
仮に、1億トンの冷たい水を用いて湖底を覆えば、厚さが1mとしてびわ湖全体の15%を覆うことができる。
水深80mより深い部分なら完全に覆ってしまう。
これは無視できないではないか。
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