池の東屋の隣にいるブラックスワンがわかるだろうか。
そう、「心配ない、心配ない」と保険会社のコマーシャルで叫んでいるあの鳥だ。
以前は悪役の代名詞のように扱われていたが、最近はよい鳥になっているのだそうだ。
しかし、経済学ではその意味は全く異なる。
ダレブという経済学者が唱えている「ブラックスワン理論(Black swan theory)」というのがある。
かつて、全ての白鳥が白色と信じられていた時代に、オーストラリアで黒い白鳥が発見されたことにより、鳥類学者の常識が大きく崩れさった。
この出来事から名付けられ、確率論や従来からの知識や経験からでは予測できない極端な現象(事象)が発生し、その事象が人々に多大な影響を与えることを総称してブラックスワン的事象と呼ぶ。
いわゆる「想定外」というやつだ。
東北沖太平洋大地震や福島第一原発事故などはこれにあたる。
最近は、どうもこの手のブラックスワン的事象が増えている。
沖縄県知事選挙で翁長雄志氏が36万820票を獲得し圧勝した。
4人の候補中3人が米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に反対している中で、翁長氏は一人過半数を超えた。
どうも沖縄の人たちは本当に怒っているようだ。
なぜ日本の防衛のために沖縄のみが多大な犠牲を強いられるのか。
1970年、私が大学へ入学した年、日米安全保障条約が自動延長された。
そして1972年に沖縄は日本に返還された。
学生紛争が渦巻く中で、多くの学生たちと「沖縄を返せ」を歌った。
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固き土を破りて 民族の怒りに燃える島 沖縄よ
我等と我等の祖先が 血と汗をもて
守り育てた 沖縄よ
我等は叫ぶ沖縄よ 我等のものだ沖縄は
沖縄を返せ 【返せ】 沖縄を返せ
固き土を破りて 民族の怒りに燃える島 沖縄よ
我等と我等の祖先が血と汗をもて
守り育てた 沖縄よ
我等は叫ぶ沖縄よ 我等のものだ沖縄は
沖縄を返せ 【返せ】 沖縄を返せ
***
この歌を歌いながら、何か日本民族の傲慢さを感じた。
「我等のものだ沖縄は」
このフレーズの中に、沖縄の人々は含まれていたのだろうか。
翁長氏と沖縄県民は本気なのだろう。
彼らには、お金で自分たちの自然と歴史を売るつもりはないのだ、ということを本土の政治家も官僚も国民もきちんと理解すべきだろう。
時代は混とんとしてきている。
何が起こるかわからない状況になってきている。
ブラックスワンが大きな影を落とすようになってきた今、私たちはどう生きていくべきなのか。
文庫「卑弥呼」の中で帚木蓬生が語っていることばが印象的だ。
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〈あずみ〉の一族の掟は三つある。
ひとつは、人を裏切らない、ことだ。
ふたつめは、人を恨まず、戦いを挑まないということだ。
みっつめは、良い習慣は才能を超えるということだ。
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報復の果てに生まれてしまった、イスラム国という得体のしれない集団。
他国から人身を拉致してくる前近代的国家の存在。
少数のグループが多数の人民を支配する巨大専制国家。
楽天的で、好戦的な太平洋の巨人。
こんな集団が有象無象する中で、国家的戦略を持たずに綱渡りを続ける我が国の事なかれ主義に、沖縄県人たちは嫌気がさしているのかもしれない。
彼らはもともと独立国家だったのだから、日本という国にそんなに思い入れはないのだろう。
ブラックスワンの影が、すぐそこまで迫ってきている。
何が我々を救うのかを、立ち止まって考える時期に来ているのかもしれない。