ガラパゴス通信リターンズ

3文社会学者の駄文サイト。故あってお引越しです。今後ともよろしく。

鳥だ!スーパーマンだ!!いや、学部長だ!!!

2006-01-28 07:46:36 | Weblog
 7年前の8月の20日過ぎ。大学病院に行くと、骨髄移植の日程が示されました。これまで病気のことは、大学関係者には伏せていました。しかしこの先、半年以上の休職はさけられません。私はその夜、学部長に電話をかけました。着任早々申し訳ないが、長期入院をすることになったと手短に用件を伝えたのです。着任してからの私は、ひどい貧血でドラキュラのような顔色をしていました。だから学部長も、長期入院ということば自体には、それほど驚いた様子はありませんでした。

 「どこが悪いの。消化器かい」と聞くので、「白血病です。骨髄移植を受けます」と答えました。彼は平素多弁な人です。その彼が完全にことばを失ってしまいました。「3千世界に沈黙がこだまする」という古風なことばさえ浮かびました。よほどショックだったのだと思います。学部長は大変な人情家です。入院する直前に町田のデパートのてんぷら屋で、お昼をご馳走してくれました。あなたはきっと治るはずだ、と私を励ましてくれました。大変に力づけられました。

 移植は成功し、私は無菌室を一月ほどで出ることができました。病状も安定したころ、学部長から見舞いに行くという連絡がありました。その旨を医師たちに告げると、彼らは何故か狼狽を始めました。「学部長が来られるのですか!こちらも学部長を呼びましょうか?」。医学部で教授といえば大変なステータスです。学部長ともなれば尚更でしょう。文科系は違います。年功さえ積めば誰でも教授になれるのです。学部長も、とりたてて特権はない。雑用係のようなところさえあります。カルチャーの違いを感じました。

 その日の午後、学部長が見舞いにきました。病室をのぞいた彼は、ぼくの名前を呼ぼうとしてそのまま絶句してしまいました。ぼくの頭に髪の毛が一本もないのをみて、びっくりしてしまったのです。恩のある先生を二度も驚かせて、悪いことをしたとぼくは思いました。彼が帰ってしばらくした頃、医学生が「いま学部長が来られましたね」といいました。どうして分かったのでしょうか。彼女はいいます。「エレベータを降りて来られた瞬間、あ、学部長だ!と思いました。あの方は絶対に大学教授以外にはみえません。きっとこの人がそうだと思ったのです」。そう、学部長は学者のイデアが服を着て街を歩いているような先生でした。その他の職業の人には絶対にみえないでしょう。