ガラパゴス通信リターンズ

3文社会学者の駄文サイト。故あってお引越しです。今後ともよろしく。

見果てぬ夢2

2006-01-25 06:55:37 | Weblog
 『ドン・キホーテ』を相変わらず読み続けている。とても面白い。ところで、ある人から驚くべき情報を提供された。中南米では相次いで反米的な民族主義政権が誕生した。その旗手ともいうべきベネズエラのチャペス大統領は、国民に『ドン・キホーテ』を読むことを薦め、なんと100万部もこの本を配ったのだという。ベネズエラの民よ。ドン・キホーテのように正義の闘いに邁進しよう。いまに甦ったシモン・ボリバルは、国民にそう呼びかけている。

 「憂い顔の騎士」の行動は、はた迷惑の極みである。そして誰の目から見ても彼は狂っている。しかし彼のなかに打算や邪心は一切ない。勇気はたいしたもの。騎士としての気位や美意識も大いにある。その学識たるや当代一流の学者に匹敵するものだった。彼に関わった人たちは、彼を馬鹿にし、あるいは憐れみながらも、決して軽んじることはできなかった。そして多くの人から敬愛すらされたのは、こうした人間的な美質によるものではなかったのか。

 ブッシュや小泉は打算や邪心の塊である。彼らには、美意識や勇気のかけらもない。そしてドン・キホーテに比べれば、こいつらは無学文盲の徒といわなければならない。世界の最高権力者の低学力はよく知られている。日本の総理大臣だって似たようなものだ。「ワンフレーズ」を発することしができないのだから。ツインタワーにつっこんだイスラム原理主義者たちは、憎悪に凝り固まっていた。憎悪ほどドン・キホーテに似つかわしくない感情も他にない。

 小泉も、ブッシュも、イスラム原理主義者も、妄想のなかを生きている点ではドン・キホーテの同類である。しかし彼らは、ドン・キホーテの美質とは無縁のまがい物だった。スペイン語圏の人たちは、幼い頃からドン・キホーテに親しんで育っている。だから彼らは、その美質をわがものとしているのであろう。いまに甦ったドン・キホーテは、グローバリゼーションというドラゴンにどんな戦いを挑むのだろうか。中南米から目が離せない。


6 コメント

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Marcos & Don Quixote (nariya)
2006-01-25 16:23:56
私がドンキを読もうと決めたのは、次のインタビューである。



Tom Mertes ed

A Movement of Movements

Is another world really possible?



のなかのマルコス副司令官(メキシコ)にたいする小説家G.マルケスのインタビュー

We didn't look out at the world through a news-wire but through a novel, an essay or a peom. というわけで政治学・教会ではなく、文学が政治の導き手になったのである。

さらに、

G.M。 Where does Don Quixote comes in all that reading?



I was given a book when I turned 12, a beautiful cloth edition. It was Don Quixote, I had read it before, but in those children's editions.(中略) Next came Shakespeare. But the Latin American boom came first, then CErvantes, then GArcia Lorca, and then came a phase of poetry. So in a way you are an accessory to all this.
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Don Quixote (nariya)
2006-01-25 16:30:21
Didn't you read any political theory?+

Not to begin with. We went straight from the alphabet to literature, and from there to theoreticla political texts, until we got to high school.



Don Quixote is always at my side, and as a rule I carry Garcia Lorca's Romancero Gitano with me. Dopn Quixote is the best book of political theory, followed by Hamlet and Macbeth. There is no better way to understand the Mexican political system in its tragic and comic aspects: Hamlet, Macbeth and Don Quixote.



この文章を読んでドンキホーテを読む決意をしたのでありました
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ドン・キホーテ、ハムレット、マクベス (加齢御飯)
2006-01-25 17:27:36
 なりやさん。興味深い情報をありがとうございます。「ハムレット、マクベス、ドン・キホーテを読むことで、メキシコの政治体制がもつ悲劇的・喜劇的側面をもっともよく理解することができる」。二点疑問が生じます。ひとつは、メキシコの政治体制のもつ悲劇的・喜劇的側面とは何なのかということ。そしてもう一つは、ドン・キホーテとハムレットの対比はツルネーゲフにもありました。しかしマクベスとドン・キホーテはどうつながるのか。この2点です。いかがでしょうか。
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私も知りたい (nariya)
2006-01-25 17:40:43
私も、知りたい。いったい、マルコスは何を考えていたのか。



ところで、社会学教育などよりも、優れた文学を読む時間のほうが大事かもしれませんよ。



私が授業でいつも取り上げるのは、イザベル・アジェンデの『精霊たちの家』です。

小説のほうと映画を両方取り上げています。



あと、ブラジルを舞台にした土地占拠逃走のすばらしいビデオがあるのです。

(ブラジルの労働運動とかも、非常に面白い)。



また、ブニュエルの一連のメキシコ時代の映画は、すばらしい。

解放神学とドンキホーテを思わせる神父の物語が最高です。

もちろん、「忘れられた子供たち」があります。

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Unknown (なりや)
2006-01-25 17:41:54
土地占拠「闘争」の過ちでした。



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はげしく同意 (加齢御飯)
2006-01-26 14:44:18
 マルコスの真意知りたいものですね。社会学を勉強するなら小説を読め。はげしく同意です。モンテーニュのエセーなんか心理学を勉強する人なら必読でしょう。高尚なことをやさしいことばで書いている。文章のお手本にもなります(フランス語はよめないけど、その精神において)。
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