ガラパゴス通信リターンズ

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ナルシシズムの時代

2009-12-26 00:00:00 | Weblog
 クリストファー・ラッシュは、エゴチストとナルシシストという興味深い区分をたてている。エゴチストは、は自己の拡大を目指す人たちで、金銭や地位や権力に執着する。他方、ナルシシストの名は、水面に映った自分の姿にみとれて水仙になったギリシャ神話の美少年に由来すしている。ナルシシストが執着するのは、外在する対象ではなく自己の幻影である。

 エゴチストは「尊大な自我」の持ち主だが、ナルシシストは「小さな自我」(ミニマルセルフ)であるとラッシュは言う。幻想の繭にくるまることによって、巨大な世界から卑小な自己を守ろうとするのが、ナルシシストだ。現代人の多くは、ラッシュによればナルシシストである。

 田中角栄はまさにエゴチストであった。金と権力にあくなき執着を示した。巨大な御殿を築き、ロッキード事件で失脚した後も死ぬまで「闇将軍」として君臨して、政界を支配したのである。外在的な対象に執着し、自我の拡大を目指すというエゴチストの定義に角栄は見事に合致する。

 ナルシシストの大成功者は小泉純一郎だ。彼のワンフレーズ・ポリティクスは、一世を風靡した。05年の総選挙では、「小泉劇場」の座長を見事に演じ、自民党を歴史的大勝に導いたのである。小泉は角栄のような巨大な御殿を築くことはなかった。「4代目」を指名するとあっさり引退してしまった。彼が求めたものは、「かっこいい指導者」という自己の幻影だった。郵政民営化も、靖国参拝もそれを得るためになされたのである。

 「豪腕」小沢一郎は、いまどき珍しいエゴチストである。水面下に潜んでいる時、彼は凄まじい指導力と調整力とを発揮する。しかし彼が表に出ると、バッシングの嵐が巻き起こる。それは彼の存在の反時代性によるものだと思う。ナルシシズムの時代の真正エゴチスト。多くの日本人にとって小沢は、いまに生きる恐竜のように映っているに違いない。