ガラパゴス通信リターンズ

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「ラストサムライ」は終わらない

2008-08-11 09:12:26 | Weblog
 短い間でしたが、鳥取に帰省してきました。帰省中に鳥取市の歴史博物館である「やまびこ館」の特設展示「鳥取士族の西南戦争ーラストサムライの決断」をみてきました。私は鹿児島に長く住んでいたので、このテーマは非常に身近に感じられました。鳥取は大藩で明治維新においてもそれなりの貢献がありました。ところがその論功に報いられるどころか、島根県に併合されてしまう。鳥取の士族たちの憤懣がたかまった所以です。

 西南戦争ではたとえば庄内藩から多くの義勇兵が薩摩側に集まっています。新政府に不満をもつのであれば、西郷隆盛に呼応して挙兵してもよさそうなものですし、事実山縣有朋はそれを懸念していました。ところが、鳥取士族のなかからは、政府軍への義勇兵(結局戦地に赴くことはなかった)は出たものの、西郷側につくものは皆無でした。そこに意外の感をもちました。鳥取士族が大挙して西郷側についていれば、この戦争の行く末も違ったものになっていたのかもしれません。

 すぐれた展示だと思いましたが、副題にはいささかアイロニーを感じました。同じ封建制といっても西欧の騎士は領土に根づいています。ところが日本のサムライは、藩主から俸禄をもらうサラリーマンでしかありません。「ラストサムライ」とはすなわち、倒産やリストラの影におびえる、今日のサラリーマンの始祖なのです。生活の糧を失った士族たちの周章狼狽ぶりを、町人層はどんな目でみていたのでしょうか。知りたいところです。

 展示のなかで興味深かったこと。明治初年に鳥取で出されていた新聞に、県外からの来訪者がこの地の印象を語っています。因伯の人は晴れた日にさえ蓑をかぶり、傘をさしていたとその来訪者は述べています。鳥取の人たちは小さい頃から「弁当忘れても傘忘れるな」といわれて育ちます。その教えを身体化するとこういう風になるのだなあ、と妙に感心した次第です。