ガラパゴス通信リターンズ

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冥土のみやげ(あれから3年・声に出して読みたい傑作選57)

2008-08-02 06:04:45 | Weblog
 母校N高の応援に甲子園に行ってきました。かの大親友ご一家も一緒です。アルプススタンドに来るのは32年ぶり。高校2年生の時以来です。その時は東北の強豪校に完封勝ち。その再現を期待していたのですが、相手は「黒潮打線」の異名をとる全国優勝経験校。往時をはるかに上回る難敵です。

 試合はN高が先取点を挙げ、幸先のよいスタートです。後ろの席にはご老人のグループがいました。うちの子どもが甲子園名物「かち割り氷」を買いました。ひとつ200円。おじいさんの一人が言います。「あっとろしだわ。200円もするだか。わしらの頃は30円だったで」。ご老人方の話題は友人の消息に移りました。「○○君はどうしとるだあ」。「あの人は病気でこれんだ。わしの生きとる間にゃあ、もう甲子園にはでれまいに、と残念がっとったわ」。

 N高のエースは頭脳的な投球で「黒潮打線」を中盤まで翻弄します。しかし7回につかまり、結局N高は大差で敗れました。応援団にあいさつに来たナインに、ご老人方が声をかけます。「ようやった!泣いたらいけんぜ!!」。やさしいおじいちゃんたちです。しかし厳しい批評も。「いかんせん非力だ」。「甲子園で勝てる日が来るだらあか」。「わしらが生きとる間にゃあ勝てまいで」。

 試合後。ぼくたちは球場近くのファミリー居酒屋に入りました。店内にはN高応援団の帽子をかぶった人たちが大勢いました。大半がご老人です。母校の応援に声を枯らした彼らの表情には少年少女の頃の輝きが戻っていました。しかし何しろお年寄りです。あちこちのテーブルから「わしらの生きとる間にゃあ」という会話が聞こえてきます。N高ナインはさわやかな印象を残して甲子園を去りました。そしてご高齢の卒業生諸氏に、この上のない「冥途のみやげ」をプレゼントしたのです。