残照日記

晩節を孤芳に生きる。

国語力涵養

2011-07-27 19:22:09 | 日記
【フローベルの手紙より】 
≪「作家の文庫は、彼が毎日繰り返して読まねばならぬ源泉であるところの五冊か六冊までの本からなっているべきである。その余の本について云えば、それを知っているのはよいことだ。しかしそれぎりのことである。」繰り返して読む愛読書をもたぬ者は、その人もその思想も性格がないものである。≫(三木清「読書と人生」)

【国民的議論】
≪菅首相「国民的議論が必要」=脱原発依存──菅直人首相は26日午前、首相官邸で国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長と会談し、自身が表明した「脱原発依存」について、「福島第1原発事故を受けて、幅広い観点から国民的に議論する必要がある」と強調した。天野氏は、25日の第1原発視察を踏まえ、IAEAとして原発周辺地域の除染や、燃料棒の取り出しなどで協力する方針を伝達。首相は「(事故収束に関する工程表の)第1段階が終了し、第2段階に向かって収拾に努めている。IAEAと十分協力したい」と応じた。≫(7/26時事通信 )

∇一体我々は、日常必要な情報をどんな媒体を介して入手しているだろうか。大震災発生後一週間強が経過した3月19日から20日にかけて、野村総合研究所は、震災関連の情報を入手するに当たって、どのようなメディア(情報源)を重視したか調べるため「東北地方太平洋沖地震に伴うメディア接触動向に関する調査」を実施した。調査は関東(1都6県)在住の20~59歳のインターネットユーザー3224人が対象。その結果、「重視する情報源」は、NHKのテレビ放送が80.5%とダントツだった。民放テレビを重視する人は56.9%だった。一方最新の㈱バリュープレス、㈱チェンジフィールド共同調査(回答2625人)によると、主な情報源は「テレビ」が48%と半数近くを占め、「Webサイト(ニュースサイト、情報ポータルサイト)」が22%、「新聞」12%、「ソーシャルメディア(SNS、Twitter、等)」と「人(対面、電話、メール、等)」は共に4%、「ラジオ」は3%だった。尚、ニュースの信頼性を判断するポイントについて尋ねたところ、「媒体の知名度」が1位で40%、「媒体運営企業の信頼度」が38%、「伝える人物(知人、執筆者、専門家、など)」が37%と続いた。

∇我が国では、相変わらずテレビをニュースソースとする人が圧倒的に多い。そしてその情報の信頼性の尺度は「知名度」に一括される。世論形成に影響を与える情報種(例えば政治・原発・復興財源etc)にまで層別されて問われたものではないので、上記順位が即世論形成順位になるわけではないが、媒体としての「テレビ」、信頼度としての「情報媒体・組織体・人物の知名度」が、人々に大きな影響を与えているということだけは断言できる。尚、新聞・雑誌等の記述式情報媒体が、後日詳細を知るために重用されている事実も別アンケート調査で分っている。孰れにせよ、「国民的議論」を活発化するためには、国民が正しい知識を獲得し、洞察力、批判力、判断力、構想力等を身につけなければならない。先ずはニュースソースに信頼性を期待する。テレビ解説からワイドショーに至る番組の、解説者や出演者の厳選、そして彼らの真摯な研究態度が希求される。一方で、視聴者の我々は、出演者の「知名度」に惑わされず、彼らの識見を具に監視する洞察・批判・判断の目を不断に涵養しておく必要がある。そのためには、中勘助の「銀の匙」一冊を、中学校の3年間で読み解くという型破りの授業を実践し、灘校を全国一の進学校に導いたとされる元灘校の名物国語教師であった、橋本武氏の言葉に耳を傾けるのも一助になろう。

∇≪国語はすべての教科の基本。「学ぶ力の背骨」なんです。観察力、判断力、推理力、総合力などの土台になるのが国語力。国語力があるのとないのとでは、ほかの教科の理解力が大きく違ってきます。社会に出て表現する力も国語。国語は生きる力と置き換えてもいい。どんなに環境が変わっても背骨がしっかりしていればやっていけるんです。≫(7月22日号「婦人公論」)≪答は後回しでもいい。疑問を持つことが第一≫≪すぐ役立つことは、すぐ役に立たなくなる≫≪知りたいと思ったら、どんどん横道にそれよう≫≪徹底的に調べれば、やる気と自信が生まれる≫等々の名言も吐かれている。そういう意味では、最近当ブログで試みている新聞記事の深読みも、「国民的議論」の前提をなす「素養」を鍛える一助になると確信する。新聞を情報源とする媒体率は先のアンケートにもあるように、大概10%台である。しかし、報道内容・論説が虚実混交すと雖も、膨大な情報量を毎日安価に入手できるものとして、新聞くらい有難いものはない。しかも読み手の読み方次第というところがいい。上述の方式等で確固不抜な「国語力」さえ身につければ、下手な雑誌や単行本を読むより、余程≪観察力、判断力、推理力、総合力≫+洞察力、構想力が発達する。老生が新聞にこだわる所以でもある。余談になってしまった。次回こそ「閑話休題(文章で、余談をやめて、話を本題に戻すときに、接続詞的に用いる語。それはさておき。)」(「大辞泉」)──本題に戻そう。明日又。