残照日記

晩節を孤芳に生きる。

政治改革Ⅴ

2011-06-30 17:58:58 | 日記
【福沢諭吉の勝海舟評】
勝氏は人傑なり。(しかし)独り怪しむべきは、氏が維新の朝(廷)に、さきの敵国の士人と並び立ちて、得々名利の地位に居るの一事なり。(「痩我慢の説」より)

【勝海舟の福沢諭吉評】
問:福沢は御存知なのですか。答:諭吉カエ。エー、十年程前に来たきり、来ません。大家になってしまいましたからネ。相場などをして、金をもうけることがすきで、いつでも、そういうことをする男サ。(「海舟座談」より)

∇≪<延長国会>1週間以上も審議進まず空転 被災地そっちのけ──8月末まで70日間の延長が決まった国会だが、延長を決めた22日から、審議は1週間以上も全く進まない状態が続いている。菅直人首相が自民党参院議員を政務官に引き抜いた人事に自民党などが反発しているためだが、被災地を置き去りにして重要法案の審議を放棄し、国会を空転させる与野党の姿勢にも批判が出そうだ。…3党の駆け引きばかりが先行する国会の状況に、共産党の穀田恵二国対委員長は29日の会見で「被災地と被災者そっちのけだ。政権与党だけでなく、自民、公明の野党側も大きな問題点をはらんでいる」と批判した。≫(6/30毎日新聞) 国会は相変わらず空転状態。その与野党対立理由が「一本釣り」問題に加え、「民主党も自民党も公明党も嫌い」と記者会見で発言した松本龍復興担当相発言を自公両党が国会で追及する構えだというから、もう呆れてものが言えない。「決着」は神のみの知る事実だが、新聞の投書欄では、<「議員たちにこそ、不信任案をつきつけたい。被災者のためにせめて首相が辞めるまでは審議に協力するべきだ」という指摘に賛同が集っている。>ようだ。(「6月の投書から」6/30朝日新聞)

∇さて、<政治家や政治のレベルは国民のレベルを超えない>。そこで老生は、「世論」形成に大きな影響を与えるマスコミにも、評論家・有識者たちや関係する科学専門家にも責任がある、として、前回はマスコミに対して、政府を単に批判・非難するだけの非生産的「評論」ではダメだ、とした。例題として産経・朝日の社説を「読み比べ」てみた。タイミングよく、今朝の朝日新聞「あすを探る」で、平川秀幸大阪大学准教授が「知のポートフォリオ」という発想の重要性を指摘する意見を述べていた。曰く、<この3ヶ月半の原発事故をめぐる報道で露になっているのは、何が正しいかが流動的で、政治的・経済的な利害関係や意図に対する専門家やメディアの「中立性」も疑わしくなっているということではないか。…知識・情報が不確定で政治的バイアス(偏り)も疑われる状況では、「知のポートフォリオ」という発想が重要だ。ポートフォリオとは、株式市場で安全性や収益性を高めるための分散投資の組み合わせのことだ。個人の情報収集にあてはめれば、論議が異なる複数の雑誌や新聞の情報を見比べることに該当する。その際重要なのは、どの知識・情報も多かれ少なかれ不確実性やバイアスを含み、過っている可能性(リスク)があるということだ。これを大前提にしたうえで比較的信頼できる知識・情報を多く集め、複数の可能性を考慮して誤りのリスクをヘッジ(低減)し、正しさの相場感を形成するのである。>と。

∇<どの知識・情報も多かれ少なかれ不確実性やバイアスを含み、過っている可能性(リスク)がある>という前提で、溢れる情報を可能な限り博く収集し、それを審らかに事実確認・比較し、自分の頭で冷徹に考え練った上で、情報の正否或は適否を弁別する。それを積み重ねて自分の意見や行動に反映させる。将に「中庸」の<博学・審問・慎思・明弁・篤行>こそが、「知のポートフォリオ」の実践である。「法句経」に<ひたすら非難をさるる人はなし。ひたすらに称賛さるる人もなし。いにしえも今も未来もしかあらん>(228)という名句があった。標記に掲げた福沢諭吉と勝海舟相互の評価を見比べてみればよい。福沢は「丁丑公論」で、西南戦争での“奸賊”の首領であった西郷隆盛を、政府横暴に対する抵抗であったと弁護し、「痩我慢の説」で、維新の際、幕府側にあって歴史的役割を演じた勝海舟を、その後、主家の廃滅をよそに、新政府で高位・富貴に安んじた三河武士の名折れだ、と非難した。一方勝海舟は、西郷翁を徹頭徹尾褒めたのは共通で、横井小楠、坂本竜馬らを認めていたが、福沢如きは「小僧っこ」「書生」程度くらいにしか見ていない。<十年程前に来たきり、来ません。大家になってしまいましたからネ。>と皮肉たっぷりに「人物評」している。あらゆることに関する評価、例えば関東大震災に於ける後藤新平論、阪神大震災と今回の大震災の政府対応比較評価、そして原発コストと他エネルギーの「安さ」の比較評価etc etcも然りである。マスコミ監視に関して、先ずは<論議が異なる複数の雑誌や新聞の情報を見比べること>を実践してみてはどうか。今日はこゝまで。