残照日記

晩節を孤芳に生きる。

政治風土

2011-06-14 18:35:01 | 日記
【岡目八目】
≪大隈でも板垣でも、民間にいたころには、人のやっているのを冷評して、自分が出たらうまくやってのけるなどと思っていただろうが、さあ引き渡されてみると、存外そうは問屋が卸さないよ。いわゆる岡目八目で、他人の打つ手は批評できるが、さて自分で打ってみると、なかなか傍(はた)で見ていたようには行けないものさ。≫(勝海舟「氷川清話」より)

∇3月9日付け産経新聞「正論」に寄せた、日本財団会長・笹川陽平氏の「これでいいのか、政治家諸君」は、同日同紙に掲載された屁理屈攻撃だけの櫻井よしこ女史「菅首相に申す」に比すれば、“憂国の情”が迸(ほとばし)る真摯で爽やかな評論であった。当ブログではそれを取り上げ、彼の指摘する<政治が劣化した原因>について考察を試みているところである。今回で3回目、次回を最終稿とする。──笹川氏は冒頭、<見るに堪えない政治の低迷と混乱が続き、国民の憤りと怒りは今や頂点に達している。>と書き初め、<政治が劣化した原因>を3つ挙げた。その1つが<小選挙区制度の欠陥>であり、2つ目が<国民・マスコミを含め社会全体が政治家を育てる努力を怠ってきたこの国の政治風土もある>こと、そして何よりも3つ目の次の点が一番の原因だとした。曰く、<政治家になって何をするかより、政治家になること自体が自己目的化した結果、政治家として国家国民に貢献する志より、権力の上にあぐらをかき、「自身の明日」を優先する独善的態度ばかりが目立つようになった。>と。笹川氏は、特にこの3番目の“政治家としての志の欠如”を痛烈に批判し、議員諸兄の士気作興を期待して、<政治の再生>を目論んだ、のである。

∇3番目の問題は、既に前回、マックスヴェーバー著「職業としての政治」を引き合いに、老生の考えを述べた。今回は「小選挙区制度」と「国民・マスコミの責任」について考究してみたい。さて、周知の通り、我が国の衆議院議員選挙は、平成6年の政治改革立法の一環として、比例代表制を加味した小選挙区制をとっている。一般的に小選挙区制は、二大政党制への傾向を助長するには優れた側面を持つ反面、第三党以下の少数政党に極めて不利に働く。国民の価値観が多元的に分かれている国においては、適切でない、とされる。そこで我が国では、少数政党も議席を確保しうるよう配慮し、比例代表制を加味した現行の「小選挙区比例代表並立制」が採用されることになったのである。(岩波「憲法」等を参考) 笹川論文では、現行制度の欠陥を具体的に明記してはいない。恐らく小選挙区制が第一、第二政党に有利なこと、加えて少数政党援護用に比例代表制が加味されてはいるが、候補者の順位が党幹部の決定に委ねられている等を以て、真の優れた人材を輩出し難い点を衝いているのではないかと思われる。いかなる選挙制度が万全なのか、老生には分らない。寧ろ、公明、共産、社民、そして、みんな、国民新、たちあがれ日本、減税日本、新党日本等々と、小数政党が乱立する状況は甚だ感心しない。政治信条の相違というより、「党首になりたがり屋」が多いせいではないか?

∇次に笹川氏の指摘する<国民・マスコミを含め社会全体が政治家を育てる努力を怠ってきたこの国の政治風土もある>を検討してみよう。今朝の朝日新聞に、当社がが11、12の両日実施した定例の全国世論調査(電話、有効回答は1980人)が載っていた。それによると、<「原子力発電を段階的に減らして将来はやめる」ことに74%が賛成と答えた。反対は14%だった。東日本大震災の後、「脱原発」にかかわる意識をこうした形で聞いたのは初めて>だそうだ。折りしも、イタリアが原発再開の是非を問う国民投票で、原発凍結賛成票が9割強を得て、新規建設・再稼動が凍結されることが確実になった。かくして、ドイツ、スイスに続き原発を拒否する世論が、さらに欧州での政治を動かすことになる。日本ではどうか。<自民党の石原伸晃幹事長は14日の記者会見で、福島第1原発事故後の反原発の動きについて「あれだけ大きな事故があったので、集団ヒステリー状態になるのは心情としては分かる」と述べた。表現が不適切との批判も出そうだ。>(6/14午後1時・時事通信)。本邦の原発事故がもとで、世界的に拡がっている原発反対の流れが報じられている最中の、自民党幹事長の発言である。<国民・マスコミを含め社会全体が>厳しく糾弾して訓導せねばなるまい。

∇当ブログのテーマに直結する部分を、今回の朝日世論調査から抜き出して箇条書きする。≪菅内閣支持率は、支持しないが56%、支持するが22%と、相変わらず低迷。又、菅内閣の福島第一原子力発電所の事故への対応も厳しく、評価しないが63 %だった。変化が見え始めたのが民主・自民の大連立について。同紙が6月3日に実施した時点では賛成が53%だったが、10日後の今回は42%へと10ポイントも減。支持政党は20%前後で民主・自民が拮抗し、支持政党なしが48%と、相変わらず支持政党不在のまゝであった。解散は急ぐ必要はないが69%、いまの国会で与党と野党は、もっと歩み寄って協力すべきが84%だった。≫ この調査結果を仮に「民意」とすれば、国民は現内閣を全く不信任、しかし野党側にも信が置けず、国民の半数がどの政党を支持してよいやら分らない。大連立構想も、始めはよさそうだと思ったが、こゝ数日の与野党の動きを見ているとおぼつかない。菅首相は退陣した方がよいとは思うが、先の政権イメージが全然見えないので、解散を急ぐ必要はない。兎に角、「政争」はやめて、目前の大震災・原発事故処理復旧のスピードアップと、復興諸政策・予算・財源問題等に向けて与野党がもっと歩み寄るべし、ということか。こういう世論をマスコミ・有識者は政治家にどう伝え、又、我々有権者がその情報を選挙にどう生かしてきたのか。最終稿の次回、今までの考察も含めまとめてみたい。今日はこゝまで。