図書館から借りてきて3日目に、新聞に「谷崎賞受賞」の記事が載っていました。良いタイミングでしたねえ。
この本を読み始めて暫くすると、他の本と違い、わりとゆっくりと読んでいることに気がつきました。
東京暮らしから、海と森に囲まれた土地へ。そこでの生活に順応しながら半島の日々を語る。
二十四節気の暦を使いながら、自然と一体化した「私」の半島での生活が、読んでいる私にも落ち着いたリズムをくれたようです。
「ここにいると、なにかが刻々と体の中を動き回っているのがわかる」
「ぼうっと空を見ていると、波動のようなものが体内をかすめていく。
体と空が一瞬にしてつながるような未知の感覚に襲われる」
「私はグールドの音楽の良い聴き手でもない。しかし、北国から人間社会に舞い戻ったグールドの心は、少し分かる気がする。 人もまた渡りのものだから。
不幸から幸福へ、その逆もあり、孤独から雑踏へ、ひとからひとへ、静けさからにぎわいへ、脳はせわしなく過去から現在へ、現在から過去へ、時に、はるか先の未来にまで行き来する」
「グレン・グールドの音だってそうだ。低音から高音へ、休止符と連音符の間を絶え間なく行き来していた。けして一ヶ所にはいなかった。
私はどこに行くのだろう」
「湧き水の音を聞いていると、暗い地底が浮かんでくる。
いま流れている水は、いつの時代のものだろう。長い年月をかけて、近くの崖から染み出したものが、土中でろ過され、目に見えない通路を通って行く。
それがまた海に戻るのだと思うと、水の旅のはるけさだけが、畏怖と憧れを伴って私の心を無心にする」
忍び寄る老いに備え、私自身の「半島」、「終の棲家」を見つけなくては、とあらためて思いながら読み終えたのでした。