ちび犬・ハンナちゃん

昨日，駅前を歩いていると，前方からめっちゃ可愛い犬が歩いてきた。
柴犬の赤ちゃんらしく，リードで繋がれて散歩していたのだが，
なんせ，赤ちゃんなので，足取りもまだふわふわした感じ。
首にリボンをつけてもらい，まぁ，もう可愛いこと可愛いこと。
私は吸い寄せられるようにその犬に近づいていった。

犬にばかり気を取られていて，飼い主のことを全く見ていなかった。
私が，
「かわいい～～～～～」
と呟きながら近付くとその飼い主は足を停めてくれた。
その時，初めて飼い主を見た。
なんとガイジンのおっさんだった。

あちゃー，と思い，
「Ｍａｙ　Ｉ・・・」
と言いかけると，
ガイジンのおっさんは
「アァ，ワンチャンヲ触ッテモイイデスヨ。」
と，流暢な日本語で話してきた。

私は，その犬を撫でながらガイジンおっさんと話した。
「可愛いですねぇ。」
「ハイ。コノ子ハ『ハンナチャン』トイイマス。」
「ハンナちゃんですか！可愛い名前ですねぇ。じゃ，女の子ですね。」
「ハイ，ソーデス。」
「ちっちゃいですねぇ。まだ赤ちゃんかな？」
「ハイ。３カ月デス。」
「これは・・・柴犬ですよねぇ？」
「サァ・・・ドウカナ。１カ月前ニ拾ッテキタカラワカラナイ。」

拾ってきたのに，生後３カ月ってどうしてわかったんじゃいッ，
と心の中でツッコミつつも，あまりのハンナちゃんの可愛さに
私は撫で続けた。

すると，そのガイジンおっさんは，ハンナちゃんに向かって
「Ｓｉｔ．」
と言った。
ハンナちゃんはまだ赤ちゃんにもかかわらず，よく訓練されていて
すぐさまサッと「おすわり」をした。
おおッすげーッ
そしてガイジンおっさんはポケットからおもむろに
ドッグフードのつぶを取り出し，
ハンナちゃんの目の前でちらつかせぽいッと投げた。

しかし，ハンナちゃんは「おすわり」の状態のまま，じっとしている。
ガイジンおっさんは
「Ｓｔａｙ・・・」
とハンナちゃんに言う。
ハンナちゃん，待つこと数秒後，
おっさんの
「ＯＫ！」
の合図でサッとドッグフードを食べた！！

すッ・・・・すげーーーーーーッ

しかし，私はその時のガイジンおっさんの「どや顔」を見逃さなかった。
このおっさん，日がな一日こうやって街をふらふらしては
「可愛いーーー」と足を停める人をつかまえてはこの芸を披露しているのでは！？

しかし，その胡散臭さを差し引いても余りある，
ハンナちゃんの可愛さと芸達者ぶり。
私はハンナちゃんの虜になり，またひたすら撫でながら
「すごーいッ，かわいいーッ」
を連発させていた。

それに気を良くしたガイジンおっさん，
おもむろにまたドッグフードのつぶを取り出し，私に手渡した。
えッ，私にもやれってか？

私は，おっさんからドッグフードを受け取り，
さっき彼がやったのと同じように
「Ｓｉｔ．」
と言った。
ハンナちゃんはサッと「おすわり」をした。
そして，さっきの手順のとおり，ハンナちゃんの目の前に
ドッグフードをちらつかせた。

すると！！！！！！！
あんなに従順だったハンナちゃんが
「グルルッ」
とうなるやいなや，私の手からひったくるようにドッグフードを奪い取り
あっと言う間に食べてしまったのだ！！！

私はびっくりして，ガイジンおっさんの方を見ると
「Ｏｈ・・・」
とバツ悪そうにうつむいている。
さっきの「どや顔」はどこへ！？

おっさんッ，未完成の芸を中途半端に披露するのはやめんかーいッ