何十年も前から家にあるバッハの無伴奏チェロ組曲の楽譜。チェロではなくギターでしか弾かなくなって久しいのですが時々使っています。
今日、あることに気がついてしまいました。右ページ右下の曲の最後。
クレッシェンドからの重音でmff。なんやこれ?
ffフォルティシモでもmfメゾフォルテとも違う未知の記号mff。
はじめは「誤植?」かと思いました。でも他の所でも普通に出てくる。これは1番クーラントのラスト。
2番のサラバンドのラストは、1かっこがmfで2かっこがmff。誤植ではなく確信を持って使っていることが分かります。
1段上にはmppまでありました。
mffもmppも楽譜の強弱記号としてはありません。あれこれ検索してみましたが強弱記号として紹介している例はありませんでした。
ありませんと言いながらここにあるのはどうしてか。作ったからです。楽譜の記号なんて特に決まりがある訳ではありません。あくまでも慣習です。
何か言いたいことがあった時に、それに合う記号がなければ言葉で書くか、さもなければ記号を作ってしまえばいいわけです。チャイコフスキーのffffffみたいに。
この楽譜はフランスの巨匠ポール・トルトゥリエが編集した版で、バッハの原典を元に自身の解釈とスタイルをみっちり詰め込んだガイドブックです。
演奏に際して弓のどこら辺を使えとか、弓をどのくらい使えとか、心を込める大事な音はどれだとか、他にも一般的でない記号がたくさん登場します。
それらは巻頭に凡例があって一応説明されているのですが、強弱記号に関しては特別説明はありません。
この記号についての私の解釈は「ffフォルティシモなんだけど、まあそうきばりなさんなや」ってイメージです。
6つのチェロ組曲が入っているこの楽譜にはmffは頻繁に見られますがffがほとんど出て来ません。
探してみたのですが5番のプレリュードのラスト4小節のみがmの付かない本当のffです。たったの一か所だけ!
気品に満ちたパリで育ったトルトゥリエには、ffを見たことで下品に強い音で演奏されるのがイヤだったんじゃないかな。たぶん。
それで頭にmをつけることで「まあまあ、そんなにきばらんと」という気持ちを込めたのだと思っています。
ということでmffのmは「まあまあ」のm。
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