Daily Bubble

映画や歌舞伎、音楽などのアブクを残すアクアの日記。のんびりモードで更新中。

母べえ

2008-02-17 22:03:05 | cinema
しん、と深く心にしみる映画でした。
予め書いておきますが、かなりネタバレあります。これからご覧になる方は読まない方がいいかもしれません。
でも、とてもよい日本映画です。ぜひご覧になってください。そして、またご縁がありましたらこのブログを読んでみてください。感想なんかを教えていただけると幸いです。



「かあべえ」という呼び名は、夫が家族に付けた呼び方なんですね。とうべえ、かあべえ、はつべえ、てるべえ。夫婦と二人の娘、一家四人の小さな家族。
広島出身の父べえと岡山出身の母べえが、どこでどんなふうに出会ったのかはわかりませんが、貧しいながらも明るく楽しい家族なんです。そんな明るさに溢れた呼び名なんです。

幸せな家族を引き離すのは、思想犯として父を捕える戦時下の日本。夫を失った妻は、夫を信じ家族を守り懸命に生きていくという、一言で言ってしまえばそんなお話です。
お話は次女のてるべえの視点から描かれますから、残された母べえの奮闘のみを描いているように思われるかもしれません。母と娘、娘である母とその父、父の妹の美しい伯母、父の教え子であるとぼけたインテリ、お金が大好きな人間くさい母の伯父、日本が起こす戦争を信じる普通のご近所さん、心優しいお医者さま…。
戦争により、どんどん生活は厳しくなり、みんなが暗澹たる気持ちになっていくけれど、家族は明るさを失わず、父の帰りを信じて生き抜く。
辛く貧しい時代を生きる母には、吉永小百合。清楚で正しい日本の母そのものですね。
サユリストなぁんて人たちがいるでしょ。ちょっとね、気持ちが分かってしまう気がします(なんて大それたことを言って気分を害してしまったら、ごめんなさい)。きっと、監督は吉永小百合という女優を撮りたくてこね映画を作ったんじゃないかしら。何をしたってどこから見たって、吉永小百合であり、母なんですら。それも静謐な完璧な美しさを備えた!
気丈に凛と生きる母を支えるのは、ただただ夫を愛する気持ちなんですね。なにもかも失っても夫を愛した。だからこそ夫を信じて生き抜いた。

一方の父は、酷い酷い獄中においてもどこまでも自分の信じる思想を捨てられない。いえ、捨てるなんて発想は微塵も無いのかもしれません。
自由を奪われ人間として生きるための最低の保障さえも持たない彼に残されたものは、自分自信と自分を愛する家族(とひとかけらの友人)だけ。
父の苦悩は、暗く惨めな獄中で狂おしい程にたぎっていたのです。食べるものも食べられず、垢にまみれ体中に湿疹ができ、髪も髭も整えることができない劣悪な中でも、彼は信念を曲げられなかった。嘘をつくことも出来なかった。
嘘でもいいから「自分は間違っていた」と言うことができたら、家族と会うことができたのに。また一緒に暮らすことができたのに。
でも彼はそれをせず、手紙やたまの面会でのみ家族とつながり、刑務所の中で許された読書に耽ります。
家族という大切な存在を犠牲にしてまでも自身の信念を貫いた彼もまた、妻を深く愛していた。だから二人の幼い娘を妻に託した。彼女を、信じた。
妻にとって、自分にとって、とげとげの茨の道を避けずに真っ直ぐに歩いた。妻へ大きな負担を掛けていることを分かって、そうした。
そんなストイックな父べえには、三津五郎さん。彼は獄中で死んでしまいますが、そのあともずっと家族を見守っていたんです。

吉永小百合、坂東三津五郎、浅野忠信、壇れい、笑福亭鶴瓶、大滝秀治、笹野高史…。キャストがまた素晴らしいのです。
ここには書きませんでしたが、それぞれがそれぞれの人生をそれぞれの昭和を演じています。
昭和は随分遠くなってしまいましたが、忘れてはいけない家族の物語をこんな素敵な映画にしてくれた監督に、ありがとう。


「母べえ」公式サイト


最新の画像もっと見る

コメントを投稿