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原初美術の誕生6: 氷河期美術の全体像

2013年02月09日 | 連載完 原初美術の誕生


< 振り返るバイソン : マドレーネ、2万年前 >

今まで5回にわたり、ヨーロッパで起こった氷河期美術を見てきました。

今回は、氷河期美術の特徴から、美術誕生の意味を考えます。




< ドルニーのビーナス:チェコ、約30000年前。 ネーブラのビーナス:ドイツ、15000年前。 >

氷河期美術全体の特徴

1. 描かれ造形されたもの
馬、バイソン、鹿が多く描かれたが、容易に捕れる魚、植物、トナカイなどは少ない。自然景観が描かれることもなかった。逆に希にしか捕獲出来ないマンモスや身重の雌、雌雄一対の動物が目立つ。また弓や槍が刺さった動物、罠や檻らしいものが描かれていた。

人が狩りをする場面が描かれることは無かった。男性は円に二点の単純なものと、生殖器の記号化だけだが、女性は体型が強調され、浮き彫りや丸彫りは女性像のみである。他の全身像は、半人間半動物や仮装、擬人化されている。

他に描かれているものに、指の欠けた多くの手形やシンプルで多様な図形がある。手形の指の欠け具合や刻みで数や暦を記録したと思われる。シンプルな図形の中には共通性のあるものもある。



< ハイエナ:ショーヴェ洞窟、32000年前。バイソン:アルタミラ洞窟、14500年前 >

2. 描画や造形の手法
 絵画表現は、一筆描きの単色の輪郭線から始まり、抑揚のある線画に進み、毛並みなど細部を書き添え、平塗りに伴って濃淡を表現し2色画から多彩色画へと進んだ。

動物像はほとんど側面観で描くが、蹄だけは正面を向いていることが多い。これは健康状態を示す蹄を重視した為だろう。エジプトの側面と正面が組み合わさった人物画に通じる。遠近観はほとんど意識されていないが、後期には三次元配置を意識したものも現れ始める。

顔料は非常に工夫され、油脂に酸化鉄や雲母などの鉱物を混ぜ流動性のある多色を得た。アルタミラでは黒を得る木炭を木の種類で厳選し、ラスコーでは、動物の骨を4百度で焼いた炭に方解石を混ぜ、さらに千度で熱し使用した。


3. その他
洞窟壁画は生活の場とした入口付近にはなく日の差さない奥所に多い。また住まわれたことのない洞窟にも壁画が描かれている。壁画の動物は重ね描きされており見映えを重視していない。

壁画は2万年の間に豊かな表現を持つようになっていったが、後期のビナース像はシンプルなデザインへと変化した。このビナース像は側面観で共通していたが、地域毎に特色あるデザインへと分化した。



< シューヴェ洞窟の手形:32000年前。フルート:ドイツ、約35000年前。 >

人々の何が変わったのか

1. 呪術観を持った : 希望するものや価値あるものを表現し、それに願いを託し祈った。
 
2. 数字や技術を操った : 組合せることにより数や暦などの記録を始めた。

3. 創作し、かつ形式を尊んだ : 描画は発展し対象もやや変化し、共通性を保ちながら地域性も有した。骨で作られたフルートも見つかっている。

4. 集団でこれらを育んだ : 絵画技法を伝授し、特定者に壁画を任せ、時には洞窟の奥で祭儀も行った。洞窟の入口や岩陰には集団で生活した痕跡がある。

5. 広範囲に移動し、さらに遠くとも交易した : 石器やデザインの共通性、石器材料から推測出来る。



< 3万年前頃の渓谷の岩陰で暮らす人々 >

人類に何が起きたのか

新人類(クロマニヨン人)は極寒の中、洞窟周辺で、家族以上の集団による定住生活を始めた。

それを可能したのが、季節移動するトナカイの集団による狩猟とその大量の肉の保存を可能にする寒さであった。


温すぎれば肉は腐敗し、寒すぎればトナカイも消え、防寒具が間に合わなくなる。

彼らは骨の針で体に密着する服を作ることが出来るようになっていた。

この生活スタイルによる家族、集団、他集団との交流が相互に影響し合って、言語、育児、技術を大いに発展させ、さらには文化と価値観(原初の宗教、芸術)を生みだした。


次回は、氷河期美術のその後を世界中から見ます。






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