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原初美術の誕生4 : 洞窟壁画の発展

2012年10月28日 | 連載完 原初美術の誕生


< ドイツ、ゲナスドルフ遺跡の女性線刻画 /「ゲナスドルフ」G.ボジンスキー著より >

前回は、氷河期最後を飾った動産美術(女形のブローチ、ライオンマン)を見ました。

今回からは氷河期の見事な洞窟壁画を見ていきます。

人類は突如として芸術を生んだかのようです。



最初に、前回の補足説明をします。前回示したネーブラのビーナス像が男根に見えるとの指摘がありました。ネーブラと同じビーナス像を作っていたゲナスドルフ遺跡の粘土板の線刻画を上に示します。これは同時代の遺跡から発見されたものですが、腕か乳房を有する二人の女性が交叉して描かれています。このようにビーナス像は女性像から発展したものと推測されます。貴重なご意見ありがとうございました。



< 馬 、 Chauvet洞窟>

洞窟美術は既に見た動産美術より少し遅れて現れます。それらは総べて洞窟内の壁画しか現存していません。最古のものは南フランスのシャーベット洞窟で、31000年前に遡る。この洞窟は鍾乳洞の部屋が複雑に繋がり、全長400mに達する。300点以上の彩色画、ほぼ同数の線刻画、多くの記号、手形が内壁に見つかった。馬、絶滅した牛(オーロックス)、バイソン、熊、毛犀、マンモス、トナカイ、フクロウ、またライオン、ハイエナ、豹らしい動物が壁面に描かれている。明確ではないが、シャーマンか女性を思わせる、頭がバイソンで下半身に脚と女性性器を有する図がある。顔料は木炭の黒とオーカーの赤が主で、それぞれの色で統一している部屋もある。群れをなし動きのある動物が連なるように描かれ、省略はされているが個体の輪郭線が力強く、戦う犀などは生き生きしている。



< 戦う犀 、 Chauvet洞窟 >

次ぎの時代の洞窟絵画はフランスの地中海に面したコスケール洞窟にある。27000年前に描かれた多くの手形と19000年前に描かれた動物群に分かれる。手形は他の洞窟でも多く見られるが、手を壁にあて、そこに顔料を吹き付けて描く。描かれている動物は他の洞窟と似て馬が多いが、ペンギンとアザラシはめずらしい。
 

17000年前頃、有名なラスコー洞窟絵画(フランス)が出現する。ラスコー洞窟は川が流れる石灰岩地帯の渓谷添い約30kmの間にある30近い洞窟遺跡の一つで、この一帯から10万点の石器や骨角器が見つかっている。生活の痕跡や遺物はあるが絵画のない洞窟はおおよそ半数ある。地下に長く伸びる洞窟は3部屋からなり、全長70m程で、最も広い所は幅9mの牡牛のホール、図1である。



< 図1 牡牛のホール 、Lascaux洞窟 >

洞窟の側面と天井面には、数百の馬・牛・シカ・バイソンと多く、山羊・羊・かもしか・人間・幾何学模様の彩画、刻線画が2000点あり、最大5.5mの牛の画がある。顔料を吹き付けた人間の手形が500点ある。赤土・木炭を獣脂・血・樹液で溶かして混ぜ、黒・赤・黄・茶・褐色の顔料を作っていた。顔料はくぼんだ石等に貯蔵して、苔、動物の毛、木の枝をブラシがわりに、または指を使いながら壁画を描いたと考えられる。



< 図2 牛と馬    、Lascaux洞窟 >
牡牛のホールにある図2は重ね描きされている。最初に描かれたのが下部の灰色の疾駆する馬群、次いで左中央の黒いたてがみと赤い胴体を有する一頭の馬、次いで黒の輪郭線で写実的に描かれた牛、最後に右下の赤一色の鹿が書き加えらえた。



< 図3 バイソンと人 、Lascaux洞窟 >
バイソンと人、図3は人物が登場する唯一の場面である。旧石器時代の美術に人物が登場するのはめずらしく、描かれていても稚拙である。この絵には、投げ槍が刺さり内蔵が飛び出したバイソンの前に、人物が倒れており、その下には投げ槍と鳥飾りを付けた棒(槍投器らしい)が見える。人物の頭はくちばしを持った鳥形で、指は4本で勃起した性器が見える。ほとんどの絵には物語や構図は見あたらないが、この絵にはメッセージがあるように思え、狩猟場面、シャーマンのトランス状態、儀礼目的などの解釈がある。

次回は、洞窟美術の最後を飾るものを見ます。








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