彼は、かなり走ったところで振り返り、私が追いかけている事に気がついて更にパニック状態になっていきました。わたしはそれをみて、そのあまりのあわてぶりが彼の意識を病気のような状態にしていく事に気がつきました。これじゃ、あまり近づけないなと思って遠くから見ていましたがどうにも納得がいきません。でも見える程度の距離で様子をみていました。すると彼は人の家の戸をどんどん叩いて入れてもらおうとしていました。
ともかく、家に入れればパニックが収まってそのあとなら落ち着いて状況が変わるのかもしれない。私は待つ事にしました。しかし、その家の人は彼を入れようとしないのです。どうしてだろうとそこの人の気持ちを探って見ると、どうも、遠くからも私がいるのがその人たちにも見えてたらしく怖くてあけられないらしいのです。
私は腹が立ちました。『なんだよ、そこまで怖がるだなんて。おかしいじゃないか!』
『ともかく、ちゃんと収まった感じになった夢にしたいんだ。』わたしはイライラして、『僕はオバケじゃない、ただの子供なんだよ』と言う気持ちを彼に送り込んでいきました。しかし、届いてる筈なのに全く受け付けようとしません。
『もっと近づけば、気持ちをはっきりわからせられるはず・・・とりあえずは怖がってもそのあと誤解だと分からせられたら何とかなる筈だ。』そう考えた私は彼にちょっとだけ接近しようとしました。しかし、彼は前以上の悲鳴をあげてまた、次の家に走っていきました。
そして、その家の住人もドアを開けようとしないのでした。前と同じパターンです。私は、すっかり、そのあたり一帯の住人に気づかれて怖がられてる状況になってる事が分かってきました。道の真中でどうにも動けなくなって私はふてくされて立っていました。
横の家をちょっと見ただけで、そこの住人が慌てて窓を閉めるのが分かりました。中でガタガタ震えてる気配がしました。そこには、いとこやら知り合いもいるみたいでしたがその人まで恐れてるようでした。
『なんて変な夢になっちゃったんだ・・・もうこれやめよう・・・』でも待っていても他の夢になろうとしません。
そこから離れたらいいのでしょうがどうにも納得がいきません。『なんで、夢で遠慮しなきゃいけないんだ・・・夢の中の人物に気をつかって嫌な思いを残したままで去るなんていやだ。
思うようにしていいはずだ。どうだろうが彼にだけは分かってもらおう。』
私は決然と彼のそばによっていきました。三件目の家の前で彼はもう腰が抜けて動けなくなっていました。私は彼の顔を覗き込んで、悪意の無い思いを真心をこめて告げようとしました・・・でもその時、彼は白目をむいてとうとう気絶してしまったのでした。
私は『もう!』と思いましたがどうしても諦めざるを得ませんでした・・・そしてやむなく、気分の悪い思いを残したままその場を後にしたのでした。
わたしは嫌な感じの夢だったことで、印象が残り、この夢を覚えていたのですが、それからまた次の休みに田舎に遊びに行った時に、恐ろしい幽霊騒ぎがあった話をさんざん聞かされることになったのです。
そこら一帯の人が見たことや、余りの怖さで誰もドアが開けられなかったこと。幽霊の顔がこっちを向いたのであわてて小窓を閉めた話を・・・
その時は怖い話だなあとだけ思って聞いていたのですが、ふと、自分の見た夢と似た感じである事にも気がつきました。
「その幽霊は男だった? 」何か気になりだしてその時、私はいとこの少年にきいてました。
「女・・・」
「そう、女だったんだね。」
私はほっとしていました。『自分じゃない・・・絶対、違う筈だ・・・』
しかし、彼は続けていました。「いや、ホントは良く分からないんだ。怖すぎて確認なんてできなかった。こっちを見られたと思ったからもう、すぐに、窓を閉めてかがみこんでたから・・・」
「で、でも女に見えたんだろ? 子供じゃなかったよね・・・」わたしはどうしても自分ではない事にしようと無意識にむきになって言っていたのでした。
「わかんないよ・・・」彼は自信なげに言っていました。
でも『あれはただ、自分が光ってただけの夢だ。関係あるわけない』と、ともかく私は思う事にしました。『だってただの夢なんだから・・・』と。
ですが、今は思うのです。私は髪の長い子供として自分のイメージを捕らえていたために、そういう姿を見せてしまい、女のように見られたのだろうと・・・やはり、自分だと、つじつまが合ってしまうと・・・
そしてこの時点では極僅かな領域にしか影響が無かったのですが、(それでも、多くの目撃者がいますが・・・)その後にやらかした騒ぎではもっと大変な数の人に影響が出ることになってしまったようです。