カマドウマ、現る

 みゆちゃんが、台所でひと跳び、ふた跳びし、何かを追いかけていった。閉めた窓のところまで追い詰めて、サッシュのレールの隙間に逃げ込んだその何かを捕まえようと、手で掻いたり鼻を突っ込んだりしている。ゴキブリにちがいないと思って、憂鬱になった。ニ、三日前に、みゆちゃんが浴室の前の洗濯かごやバケツなんかを置いてある場所に座り込んで、何かを見張っているような様子だったので、そこに隠れていたのが出てきたのだと思った。
 やがて、くるりと踵を返してこっちにやってきたみゆちゃんの口の端から、足とか触覚がはみ出しているのが見えた。どうしようかと思ってうろたえていたら、みゆちゃんが獲物をそっと床の上に置いた。またわざと逃がして、追跡ごっこをするつもりらしい。
 みゆちゃんの頭越しにおそるおそるのぞいてみると、それはゴキブリではなかった。コオロギかと思ったけれど、それも違う。ちょうど、ゴキブリとコオロギの中間みたいな虫だった。カマドウマである。はじめて見た。コオロギみたいに三角形に曲がった後ろ足に、弓なりにカーブした体、恐ろしく長い触角。体長の4倍も5倍もありそうなこの触覚は、いったい何に使うのかしら。
 カマドウマが窓の方へ向って逃げはじめた。追いかけようとするみゆちゃんを抑えて、急いで窓を少し開けたら、カマドウマはすぐにその隙間から庭へ出て行って、事なきを得た。
 密閉性のあまりよくなかった昔の家屋では、カマドウマはよく見られたそうである。それが、最近の住宅ではほとんど見られなくなった。そのカマドウマが現れた我が家というのは、どこかに虫の出入りする穴でも開いているのかもしれない。その証拠に、廊下をダンゴムシが散歩していたり、なぜこんなところにこんな虫が、というようなことがときたまある。
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コメント
 
 
 
ウチにも出ます。 (のり)
2007-10-17 19:50:26
カマドウマ。
ホンマどっから入ってきてるんだか…。
 
昔は社宅に住んでたので見たことはないですが、
祖父母の家に行くとその姿をよく見ました。
子どもながら「気持ち悪い」と思いましたが、
昆虫百科を見て正体が判明してからは然程驚かなくなりました。
確かに一瞬見た時はゴキブリに見間違う風体してますからね。
トイレや風呂の近くの湿った(?)場所で出没するし…。
優れた足なのか壁にへばり付いてるし…。
体の色が緑ならまた違った印象なんでしょうね。
 
カマドウマは釜戸の馬なのかなぁ?
昔の土間が厨だった頃に命名されたのかなぁ?
 
 
 
便所コオロギ (MasakondaMam)
2007-10-18 13:28:39
子供の頃はよくみかけた「便所コオロギ」は
カマドウマという名前があったのですね
意味がありそうな名前ですね、そして「釜戸馬」かも

散歩の途中に「マテバシイ」というドングリのような実をつけた木がありますがこれも何か意味がありそうな名前だと日々考えています「待てば椎」とか?
「とこぶし」は別名「ながれこ」と言ってあわびになれずに流れた子のようだと聞いています
名前っておもしろいですね
 
 
 
のりさんへ (チナツ)
2007-10-18 17:22:51
コオロギでもなんとなくゴキブリに似ていますもんね。カマドウマはもっと似た感じです。
漢字で書いたら釜戸馬でしょうね。馬にたとえるのはなんとなくわかる気もしますが、どこが馬なのかな、弓なりに曲がった背中でしょうか。それとも後ろ足?
湿ったところが好きで、トイレなんかによくいるから、便所コオロギとも呼ばれているみたいですね。「釜戸馬」のほうが断然いい名前です。
 
 
 
MasakondaMamさんへ (チナツ)
2007-10-18 17:26:00
「待てば椎」って、なんとなくロマンチックな感じがしていいですけれど、面白そうなので調べてみたら、「馬刀葉椎」とか「全手葉椎」って書くそうです。マテ貝(馬刀貝)に葉っぱの形が似ているからとか、九州の方言が由来だとかいう説があるそうです。
調べていたらマテバシイの画像も出てきたのですが、ときどき見かけるあのどんぐりのことを言うのですね。知りませんでした。勉強になりました。
 
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