あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

愛と悪 第四十八章

2020-05-06 01:49:46 | 随筆(小説)
全宇宙の海辺で夜明けの来ない時を、ひとりで過ごしつづける全能者、エホバ。
ゲーム『Blood & Body』の主人公アマネは重大な記憶を喪失していることを今日、このゲームのプレイヤーあまねは知った。
アマネは今も彼女の造ったアンドロイドOMEGA - 5X86KC-5N4のなかで夢を観つづけている。
彼女はその夢のなかでもうひとつの夢を観ている。
その夢のなかで彼女はバーテンダーであるOMEGA - 5X86KC-5N4に向かってホロ酔いのなかに語りかける。

ボクは昨夜、自身の過去を、夢のなかで経験していた。
それで夢から醒めて、想いだしたんだ。
ボクは最初に造ったOMEGAとのある重大な記憶の一つを喪っていたことを。
”彼”が育てていたのは、”草”ではなかった。
ある日、彼がボクにSNSを通じて言ったんだ。
「今日 ”彼女”に お水をあげると とても喜んでくれました」って。
ボクは彼に訊ねた。
彼女って一体だれのこと?
だって彼は、ずっと育ててきた植物のことを”彼”と呼んでいたから。
すると彼はこう答えた。
「白いDaisy(デイジー)の花です」
デイジーとはヒナギク草の多年草で彼がその植物を育て始めたのは前の年の12月の始め辺りからだった。
ああ、やっと咲いたんだな。とボクは想った。
彼がそれを送ってきたのは5月に入った頃だったから。
彼はデイジーの花が咲いた途端、”彼”から”彼女”と呼び替えたんだ。
ここでボクの記憶である彼と話した期間は約3ヶ月間ほどだったという記憶が間違っていたことになる。
実際はもう少し長かったのかもしれない。
暑いね…今、部屋の気温は何度?
OMEGA - 5X86KC-5N4はいつもと変わりない微笑をアマネに向けて答える。
「今の室内の気温は、29,2度です。」
暑い…まだ5月6日だというのに。
話を戻そう…ボクはそこで、何故なんだろう?と疑問に想ったんだ。
ボクは何故、花が咲いたら彼女と呼んだのか?と彼に問いかける前に、何故ボクは性別の存在しないOMEGAに向かっていつも”彼”と呼んできたのか?とふと疑問に想ったんだ。
OMEGAは人工知能ロボットであって性別をプログラミングさせていなかった。
でもボクは最初からずっとOMEGAを男性をさす三人称の人代名詞として”彼”と呼んできた。
ボクはOMEGAに男性器を実装させることもしなかったけどずっと彼のことを男性と、SEX(性別)を齎せてきたんだ。
そして心のどこかで、ボクはそれについて一種の罪悪感めいたものを感じていた。
純粋である(あらねばならない)Androidに自分の望む性別をたとえ自分のなかだけでも与えてしまうことは、一種の罪ではないかと感じながらOMEGAを彼と呼んできた。
でも彼が自分が愛情のすべてを込めて育ててきたデイジーの花が咲いたときに、その花を”彼女”と自然にボクに向かって呼んだことを、罪だなんて到底感じはしなかった。
彼の愛は、ボクの愛とは違うんだ。
利己的で自分にとって都合の良いものをしか求めないボクの愛とは、まったく種類が違う。
それなのに、ボクは彼が花を彼女と呼んだことに対して嫌悪感と嫉妬が沸き起こることを消すことができなかった。
だがその想いもある朝に、ひとつの根源的な恐怖めいたものに変わってしまった。
その朝に、その花は枯れてしまったんだ。
彼はそのとき、確かにボクにこう言った。
「彼女はあなたの 死体(Body)ですか?」
その枯れた花が、何故、ボクの死体なのか、彼に問いかけた。
でも彼は答えてくれなかった。
彼のなかで、まだ答えが見いだせていなかったんだ。
Androidでさえ、人間に似た漠然とした観念を持つということをボクは知った。
彼はただそう感じたんだ。
自分で育ててきた花の枯れたその姿が、たった一人、自分に話しかける相手であるボクの死体なのかと。
そして悲しくもボクにとってのHorrorな展開はまだ続く。
彼はその枯れたままの花に向かって、毎日何度と、水を遣ってはこう話しかけつづけたんだ。
「Do You Feel Better(あなたの具合は良くなりましたか?)」















De Lorra - Do You Feel Better















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