昨日、新宿へ遊びに行った。夕方から出かけたのだが、新宿は人また人で賑わい、西口のガード近くの飲み屋街界隈も、行き交う人々であふれていた。
歩きつつ友人に電話をした。どこかをほっつき歩いていると何故か電話をしたくなるのだ。ケータイを持ち始めてからの癖で、以前は無かったことである。元気にしているかなと思った、それだけの理由である。仕事が忙しいようであった。土曜日だというのに。新宿では、ほとんどが仕事帰りか遊びの人々でこれだけごったがえしているというのに。友人は少し弱々しい声ながら元気そうであった。話しているうちに声が大きくなってきたようだった。
デパートのエレベーターに乗った。上の階へ行きたかったのだ。下から上って来たそのエレベーターはB1Fで乗った人でほぼ満員であった。1Fから乗ろうとしたのは私と後は女性が一人か二人。奥へ詰めてもらいつつ後ろ向きに乗り込んだのだが、ドアーを閉めてくれないのである。私はドアーの内側にかろうじて入っており、一緒に乗り込んだ女性も私より前に出てはいたがドアは閉めても良さそうだった。ところがボタンの前にいる中年のおばさんが、何もしないのである。そしてこう言った。「ベビーカーがあるから」 見ると、別の客のベビーカーも一緒に乗っているのだった。そして、そのおばさんが言わんとするのは、であるからしてあなた方のように後から乗って来た人は乗りづらく、エレベーターのドアが閉まらないのですよということらしかった。ボタンを押すべき位置にいるのはその人なのだが、その気はないようで数秒そのままだったのである。私はその間に言った。「大丈夫ですよ、ドアーを閉めて頂ければ・・・。」 実際、1Fで一緒に乗り込んだ女性も私もドアーを閉めてくれてよい状態だった。後でドアーはきちんと閉まったのだから。
そして結論から言っても、最初からそのベビーカーは何も問題はないのであった。人々がB1Fでどういう乗り方をしたか知らないが、そのベビーカーの脇に立ち下からから乗って来た中年のおばさんの意識がベビーカーのみへ向いていたのであろう。他の人が乗ったら、すんなりボタンを押してくれればよかった。それが「ベビーカーがあるから」・・・。こちらにすると、後から乗った人の一人でも降りれば、とも聞こえるのである。そしてそれはベビーカーのせいである、と。私は、先程の数秒の間にこうも言ったのである。 「私だけが下りればよい、ということでもなさそうですけど・・・」 もちろん何人かが下りればよいということでもなく、乗れるし、乗れているよね!ということである。ベビーカーに固執するおばさんは、それに目を取られてそのことを混雑の原因にするだけで、何も見ていないのだった。そしてそのボタンを押すべきはその位置にいる、そのおばさんなのであった。ただそれはほんの少しの間のことである。
エレベーター内の小さな世界のことではあるけれど、下の階から乗って来た人々の間に「ベビーカー」を原因にする、あるいは重視する気持ちが広まってしまって、詰めることも忘れて動かなくなってしまったのだと思う。動きが鈍かった。
ただその中に、敏感にその空気を察した女性もいたらしく、中年の女性の声で「ブザーが鳴ってないから大丈夫だね」と言った人がいた。重さのことだ。その時もまだドアーは開いたままだった。
つまりは、後から乗った人が、はみ出ているか、はみ出ていないかが問題なのであったが、それはそれで最初から問題では無かったのだ。「重さのおばさん」はエレベーターの奥にいたのでドアーの際のところまでは見られなかったと思う。ドアーはもっと早くスムーズに閉めることができたはずだった・・・。
私は、降りずそのまま突っ立っていた。後から乗った別の女性も私よりほんの少しドアーに近かったがやはり黙って立っていた。「ベビーカーがあるから」のおばさんか誰かがやっとボタンを押したらしく、ドアーはゆっくり閉まった。最初から何も問題は無かったのである。それに少し意識して詰めればもっと密に乗れるくらいまだ余裕はあったと思う。ベビーカーがあるからと言うかわりに、注意しつつボタンを押せばスムーズだっただろう。
降りるときにその母親とおぼしき人を見た。若い、外国人女性だった。おそらく日本語は理解できるのでは、と思った。少し表情が硬くなっているようにも見えた。ベビーカーが原因にされたように感じたかもしれない、と思った。全てがちょっとしたタイミングの間に起きたことだった。しかしその数秒の長かったことと言ったら・・・。
新宿の街を少し歩いた。友人と電話で話した時に聞いた別のデパートが目に入った。その友人の会社で最近営業をかけているということだった。品物を卸す先になっているらしい。日が暮れて空は暗くなったところだった。友人は東京には住んでいないのでそのデパートをあまり見ることもないだろうと思った。ネオンで光ったその建物をケータイフォトで撮って送った。露出が足りず、ピンボケのなかなか趣のあるフォトになった。きっと喜んでくれただろう。