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音信

小池純代の手帖から

日々の微々 250329

2025-03-29 | 歌帖

     春の雨と花


 ‘’空海と李賀‘’を‘’沙門と詩人‘’とす桜を花とするがごとくに

 長安の春は知らねどいや待てよ知らざればこそ長安は春

 固有名消してどこでもどこにでも名もなき鳥も主知らぬ影も

 ほそき雨花をとらへて落ちにけり春はいづこにとどまりをらむ

 月見酒
 雪見酒
 将
   将:はた
 花見酒
 風見に酒のなきは
 上善







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日々の微々 250312

2025-03-12 | 歌帖

     春の夜の雨


 雨粒を弾きつつ受け流しつつ空と夜との会話は続く

     弾:はじ


 春宵の雨やむまでのものぐるひうつつに隣るうたたねのゆめ


 浅煎りを喫み切るまでの待てしばししにものぐるひは吾事二非ズ


 春の夜のつめたきなかを訪ひくるるほどほどの雪しづしづの雨


 受け止めてしかし受け入れてはゐないほほゑみながら水を去る雨衣

                                  雨衣:うい







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日々の微々 250207

2025-02-07 | 歌帖

     寒冷口語歌〈新かな表記〉


 怖ろしいものは氷で思いきり固めてやってきれいに遺した


 なんだろう氷のなかで燃える火がなにも溶かさず燃えつづけてる


 ありったけの明かりを点けてなにごとか待ってる人が一家にひとり


 ひな壇の右や左のお大臣みずから首をはずしはじめる


 チョコレート凍るパイナップル凍るグリコのあいつ走って逃げる









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日々の微々 250204

2025-02-04 | 歌帖

     立春過ぎ


 小綺麗な端切れいちまい思ひかね棄てかね日々とともに旧りゆく


 目にすれば手にとればつと浮かびくる思ひ出の浮標なりし物象

                          浮標:ブイ


 きさらぎの雪から花へかはりゆく幕間ほどのほんのひととき


 二月の逃げ足迅きところとか日数足らずのところとか好き

 二月:ニンガツ         日数:ひかず       好:よ



 とりこぼしし沙金ひとつぶみうしなふ美々しき日々の微々たりし刻

                     美々:びび         刻:とき









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日々の微々 250122

2025-01-22 | 歌帖

     切り落とし 四首


 男文字さらりと脱いで風を浴むほそみかるみの蕉門少女


 損切りをされてうれしや凧西に東に神のまにまに

              凧:いかのぼり



 万骨を枯らしてなりし一将の一生涯の値ぞ万死


 ほんたうのことは扇でおほふもの言ひみ言はずみ都のほほほ






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日々の微々 241018

2024-10-18 | 歌帖

     夏過ぎて 四首

 褪せてゆくひからびてゆく欠けてゆくうるはしきかな薔薇の衰微

                              薔薇:さうび



 やうやくに過ぎてくれたかこれまでの夏とは違ふものすごきもの


 夏盛は笛を忘れて秋朝は筆を落としてやがて冬時

  夏盛:なつもり   秋朝:あきとも       冬時:ふゆとき



 くだもののいろともしびのかげ冴ゆる夜の籠こそ抱かまほしけれ








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日々の微々 240812

2024-08-12 | 歌帖

    初冬偶成       一九九八年作

  皓月空庭百草萎
  荒籬揺落葉埋池
  寒窓凭几孤灯下
  忘刻営営写古詩

    皓月の空庭百草萎え
    荒籬揺落して葉池を埋む
    寒窓几に凭るる孤灯の下
    刻を忘れ営営として古詩を写す


        §


     冬のはじめのおもひつき

  月白く庭はむなしく一斉に一切の草しなだれ萎ゆ

                 一切:いつさい   萎:しな


  葉時計といふものあらばこのやうに落ち葉にうもれてゆく池の虚

                                   虚:うろ


  ともしびはひとりにひとつ然は言へどひとつひとつに影の伴侶

                 然:さ              伴侶:ともづれ


  いまはいつ否いまはいまあたらしき墨もて写す古詩の一篇








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日々の微々 240809

2024-08-09 | 歌帖

     初夏       一九九八年作

  雨後逐時新緑肥
  薫風習習暑威微
  林亭一榻閑無事
  隣屋蕭然人未帰

    雨後逐時新緑肥え
    薫風習習として暑威微かなり
    林亭の一榻閑にして事無し
    隣屋蕭然として人未だ帰らず


        §


     夏のはじまり

  この森はいきづくごとにふとりゆくみどりご朝の雨をふふみて


  かぐはしき風にまぎれて木木を打つ暑さ微力の力ならなくに


  なんといふことのなけれど一脚の椅子さらされて夏待つとなく


  うつむくといふは人待つ仕草にて夏の館のむね翳るかな








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日々の微々 240804

2024-08-04 | 歌帖

     初秋吟       一九九八年作

  天河淡淡入新秋
  眉月繊繊木末流
  梧葉飄来知節序
  西風瑟瑟夜窓幽

    天河淡淡として新秋に入り
    眉月繊繊として木末に流る
    梧葉飄り来て序を知る
    西風瑟瑟として夜窓幽なり


        §


     秋の初めのうた

  天の河はやあはあはとあわだちてあたらしき秋にそそぎこみたり


  かぼそかる末の向うをなほほそく月のひかりの流れてゆくも

         末:うれ


  散りおつる桐のひと葉はなにを知るなにもしらぬよ風よりほかは


  西風の顔ちかづきてふさぐかな夜の窓とふしづかな口を








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日々の微々 240720

2024-07-20 | 歌帖

     「ば・ぶ」四首

   ばぶる bubble

 割れてみて初めてわかるばぶるなる皮うすき実の空気の風味


   ばんぶう bamboo

 ばんぶうの筒より出づる姫黄金あはれうつつのゆめものがたり


   ばすたぶ bathtub

 ばすたぶはゆりかごにしてひつぎなれひとつで足りる極楽小舟


   ばぶわう babuwau

 芭蕪翁と誤植されにし芭蕉翁はるかなりけり昭和の写植

 芭蕪翁:ばぶわう

  

     「だ・ぶ」二首

   だぶすた double standard

 だぶすたと言はば言ふべしさぐられて痛くない腹滅茶痛い腹


   ぶつだ Buddha

 吾がうちの仏陀仏陀のうちの吾れウールムッター無たる仏陀よ

                           無:む









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日々の微々 240716

2024-07-16 | 歌帖

     つゆのま三首  

 涼しさや梅雨の出口の一呼吸このまま秋の庭の奥まで


 梅雨晴の「ば組」御頭おごそかに且つおだやかにバッハと芭蕉

           御頭:おかしら


 蕉翁の訓へ灼かピスタチオの殻はピスタチオの殻で割れ
     訓:をし 灼:あらた



     時計二首

 細雨の針に追はれてしくしくと長針ウサギ短針カメ
 細雨:ささあめ          長針:ながばり 短針:みじかばり


 倒れたら堂々巡りの ∞ 起きてください8の字達磨
            ∞:無限大









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日々の微々 240711

2024-07-11 | 歌帖

     試作数句  

 いくたびも地球もんどりうつ酷暑

 冷房の風極楽のいのちづな

 楯並而いざ鎌倉の夏野菜

  楯並而:たたなめて


          †

暑苦しい拙句だけではなんなので、
『おくのほそ道』から芭蕉の涼しげな二句を。

   有難や雪をかほらす南谷   〈羽黒〉

           ほ:(を)


   象潟や雨に西施がねぶの花  〈象潟〉








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日々の微々 240702

2024-07-02 | 歌帖

     半夏生すこし  


 梅雨の間にうぐひすが来てうるうると鳴くありさまをほろほろと聴く


 花白きところその都度たちどまりたちどまりして梅雨の坂道


 ものなべてこともなきなり半夏生死にたくもなく生きたくもなく


 けむりにも花にも化けてみせませうありやなしやの片白草の毒

                            片白草:カタシロ


 裾物といへどこの世はそらの裾そらよりほかによき衣なし








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日々の微々 240512

2024-05-16 | 歌帖
・大暑三首・


    桐始結花*きりはじめてはなをむすぶ

  桐の花でしたかあれは淡青の淡紫の薄影の嵩
            淡青:うすあを 淡紫:うすむらさき 薄影:うすかげ 嵩:かさ


    土潤溽暑*つちうるほふてむしあつし

  唐草と花綵まざりからみあふほどの動きもなき暑さかな


    大雨時行*たいうときどきにふる

  龍神の髭に尻尾におほあめとおほかぜ戯れて纏はり帰順ふ
                   戯:ざ 纏:まと 帰順:まつろ







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日々の微々 240509

2024-05-09 | 歌帖
・小暑三首・

    温風至*あつかぜいたる

  或るものは波のごとくに或るものは焔そのまま南の風
                       南:みんなみ

    蓮始開*はすはじめてひらく

  ほのかなり人の音せぬあかときのみほとけの手にしら蓮ひらく


    鷹乃学習*たかすなはちわざをなす

  少年の鷹の座学の選り好み「風の語学」と「気流の美学」








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