弁護士早瀬のネットで知財・法律あれこれ 

理系で特許事務所出身という経歴を持つ名古屋の弁護士があれこれ綴る雑記帳です。

弁理士会での研究結果発表

2015-03-06 22:35:14 | 特許

弁理士登録してもうすぐ1年になります。

この1年目の今年度,弁理士会東海支部の特許委員会に所属しました。

昨年の7月から月1回の活動で,特許明細書の記載不備(特許法36条)に関する裁判例を研究してきました。

昨日はその研究成果の発表会。

聴衆は50人程度の弁理士の方々です。

 

発表会は,委員各自が担当した裁判例を発表するもので,私も発表してきました。

担当した裁判例は,知財高裁平成20年(ネ)10013号です。

やや古いですが,記載不備(特許法36条)の判断がされた侵害訴訟案件に絞ると,これでも比較的新しい裁判例です。

せっかく担当した案件なので,このブログでも,どんな裁判例だったのか取り上げようと思います。

 

さて,本件は特許権侵害訴訟の案件です。

クレーム(特許請求の範囲)の記載の明確性(特許法36条6項2号)が問題となりました。

記載が不明確であるから特許は無効と判断されてしまい,それだけで原告の請求が棄却されてしまったというものです。

 

では,何が不明確とされたのか?

 

原告が持っていた特許は,「遠赤外線放射体」(遠赤外線を放射する性質を持つセラミックス)に関するものです。

この遠赤外線放射体をどうやって作るかが特許になっていて,素材となる粉末材料の「平均粒子径」が10μm以下であることが発明要素となっていました。

 

ここで,「平均粒子径」というものの技術的意義は様々です。

ミクロン単位以下の細かな粒子というのは,丸い形ではなく凸凹していていびつです(目に見えないレベルでの話ですが)。

そうすると,粒子の直径というものは測れないので,ふるいにかけたり,レーザー光をあてたりと,いろんな測定方法で物性値を調べ,そこから粒子の径はこのくらいと計算して求めます。

それを平均したものが平均粒子径です。

測定方法によって数値も変わります。

なので,粉末の平均粒子径が何μmという数値があっても,それがどういう測定方法によるのかが分からないと,どんな粉末なのかよくわからないという状態になってしまう。

 

ところが,上記の案件では,その「平均粒子径」の意義が,明細書という発明を説明する文書に何も書いてなかった。

そのため,発明を理解できる程度の記載がないとして,不明確と判断されてしまいました。

原審の大阪地裁でも同じような判断がされていて,知財高裁でも覆りませんでした。

 

というわけで,発表では,

一つの用語について,様々な定義や意義があるという場合には,きちんと明細書中で説明する必要がありますね,

という話をしてきました。

 

粉末材料を買ってきて製品を作るような場合,その材料購入先は,物性値として,平均粒子径が〇~〇μmと公表している。

こういう場合,買ってきたものなので,「平均粒子径」がどういう方法で測ったのか知りません,という場合もあるかと。

でも,平均粒子径の物性値を発明の特徴としてクレームに記載するのであれば,やはりどういう方法で測定したのか,きちんと明細書で説明すべきということになります。

 

最近公開される公報を見ると,平均粒子径についてきちんと説明されている例が多いので,この判例紹介も今更感があるかもしれませんけどね。

ちなみに,高分子化合物の平均分子量だとか,表面粗さ等では,平均粒子径と同じことが言えると思います。

 

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