テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

リンドグレーン

2021-06-04 | ドラマ
(2018/ペアニル・フィシャー・クリステンセン監督・共同脚本/アルバ・アウグスト(=アストリッド)、マリア・ボネヴィー(=母ハンナ)、トリーヌ・ディルホム(=里親マリー)、マグヌス・クレッペル(=父サムエル)、ヘンリク・ラファエルソン(=編集長ブロムベルイ)/123分)


2018年のスウェーデン映画「リンドグレーン」を観る。「長くつ下のピッピ」でお馴染みの世界的な児童文学作家アストリッド・リンドグレーンを題材にした作品だ。
 子供の頃に多分「ピッピ」も読んだはずだが、僕の頭に残っているのは「やかまし村」とか「名探偵カッレ君」のシリーズだった。それと「ラスムス君」とか。
 小学生時分の愛読書を聞かれたらSFと共に「シートン動物記」や「ファーブル昆虫記」、そしてジャック・ロンドンの動物モノを挙げる僕だが、一方でリンドグレーンにも愛着があった。
 なので2年前にこの映画の事を知った時には必ず見ようと思っていた。リンドグレーンの人となりを殆ど知らなかったからだが、内容は僕が期待していた創作の秘密のようなものではなかった。
 原題が【UNGA ASTRID】。英語で表記すると【YOUNG ASTRID】。つまり若き日のアストリッドを描いた作品なのだ。
 映画配給会社は「若きアストリッド」では知名度に問題有りと思ったんでしょう、ただの「リンドグレーン」とした。本当は結婚してリンドグレーン姓になる前の彼女を描いているのにね。

オープニングは年老いたアストリッドが書斎で子供達から届いたファンレターを開封して読んでいるシーンで、屋内から窓側に向けたカメラに映る彼女がシルエットの様に描かれていて素敵だった。
 折々にその手紙が子供の声でナレーションされているのも雰囲気がある。時にエピソードとリンクしていると感じるものもあった。

ただねぇ。16歳から20代前半の数年間の彼女の人生を描いているわけだけど、上にも書いたように創作の秘密とか起源のようなエピソードではなかった気がするんだよね。
 確かに波乱万丈な数年間だし彼女の苦労がその後の糧になっただろう事は容易に想像できるけど、その対処の仕方に彼女なりの聡明さとか意外さみたいなモノは無かった。
 両親とのエピソードも物語の軸になりそうなものだったのに、今一つつっこんだ描写ではなかったね。もう少し感動的なウェットな描き方でも良かったと思うけどなぁ。

ウィキペディアには<スウェーデンの南東部のヴィンメルビューで4人兄弟の長女として生まれた。田園地帯の小さな牧場で家族と共に過ごした幸福な子供時代の経験が作品の下敷きになっている>と書いてあるが、映画は全然違う様相だった。
 女流作家の性格は大体がお転婆で常識にとらわれない奔放なものと言うのが通り相場だが、アストリッドもそういう風に描かれていた。
 敬虔なクリスチャンの農業家庭に生まれるも、毎週の教会通いも彼女にとっては退屈でしかない。父親は静かに見守ってくれるが母親にはいつも小言を頂戴するお姉ちゃんだった。
 16歳の時に友人の父親がオーナーで編集長でもある新聞社に雇われ、その文才を褒められた事から急接近、男女の関係になり赤ん坊を身ごもってしまう。
 地域の人に知られることは出来ないと、ストックホルムで秘書の学校に通いながら赤ん坊を産む。
 編集長には妻がいるので離婚裁判の終結を待って結婚するつもりだったが、長引いたのでアストリッドは赤ん坊を隣国デンマークの里親に預ける事にするのだが・・・。

 というようなお話でね。
 父親くらいの年齢差の男との情事が苦労の発端だけど、どちらかというと彼女の方が積極的だったし、その若気の至り感も何処かで観たような気がするし、そんなに興味惹かれるものでもなかったな。


▼(ネタバレ注意)
 なんやかやと裁判は長引き、赤ん坊はどんどん大きくなる。
 編集長は姦通罪に問われるもわずかな罰金でやっとのことで離婚が出来るようになるが、それを告げる彼のあっけらかんとしたモノ言いにアストリッドはカチンと来てしまう。
 先の見通しを厳しく見積もっていたにしても、母子離れ離れで暮らさざるを得なかったアストリッドには、彼が将来的に信用できない伴侶に見えたのでしょう。
 こうしていよいよシングルマザーとして子育てと仕事の両立に立ち向かうわけだが、いざ引き取った我が子は既に里親に懐いていてなかなか自分に馴染んでくれないというさもありなんというシチュエーションにもなっていくわけです。
▲(解除)


allcinemaの解説によると、<19歳で予期せぬ妊娠をしてしまう>と書いてある。
 全体的にもそうだけど、時の流れがよく分からないのが難点だよね。
 北欧の映画らしい厳しくも美しい自然の描写に合わすように、手持ちカメラによる観照的な描き方は理解できるが、人物像が表層的だったね。
 なのでお薦め度は★二つ半。

自分に懐かない我が子が病気になり、看病する間に添い寝をして物語を話してきかすというシーンが一番観たかったエピソードかも知れない。





・お薦め度【★★=悪くはないけどネ】 テアトル十瑠

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2 コメント

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弊記事へのコメント有難うございました。 (オカピー)
2021-07-25 09:41:04
>手持ちカメラによる観照的な描き方

セミ・ドキュメンタリーの手法を昔を舞台にした伝記映画に使ったわけですが、僕は伝記映画のような作品には落ち着いたカメラが望ましいと考えるほうなので、全体としては気に入った本作の中でどちらか言うとマイナス点でした。
 主眼はフェミニズムなので、現在にもまだ残る保守性を(現在的な視点で)動的に描き出すために導入したものでしょうか。

 フェミニズムの映画としては、アメリカ映画に目立つガッツポーズを最後に示すような作品になっていないのが良いと思いましたね。
 これから出て来る作品次第ですが、現時点で本年度ベスト10候補(上位はちと無理)。
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オカピー様 (十瑠)
2021-07-26 18:12:29
僕は物語に身を委ねてメッセージを受け取るという観賞法なので、テーマやモチーフは後から気付くことが多いんですよね。
「リンドグレーン」は作家の伝記としての興味を惹くエピソードが無かったような印象でした。

>セミ・ドキュメンタリーの手法

手持ちカメラながら意外に落ち着いた印象の画だと感じました。昔のお話だからかな?

いずれにしても今作は評価が分かれたようです。
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