テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

ミニヴァー夫人

2006-12-29 | 戦争もの
(1942/ウィリアム・ワイラー監督/グリア・ガーソン、ウォルター・ピジョン、テレサ・ライト、デイム・メイ・ウィッティ、レジナルド・オーウェン、ヘンリー・トラヴァース、リチャード・ネイ、ヘンリー・ウィルコクソン/134分)


 何だか最近、ブログの記事も書き方がマンネリ気味で『何とかならんかいな』なんて思ったりもしてますが、なにせボキャブラリーが乏しいもんでね。例によって、いつもの調子です。ちょっと間が空いてしまったのですが、初鑑賞は1週間以上前。その後チラチラと家人が寝ているときに見直しております。

 去年の大晦日に買った4枚の1コインDVDの一つ。なんとまあ、一年ぶりの鑑賞。いつでも観られると言う安心からか、オールドムーヴィー故軽んじたのか。しかしまあ、なんというか、ワイラー演出の細やかさは相変わらずウットリでありました。
 ワイラー監督は12回アカデミー監督賞にノミネートされていますが、5回目にして初受賞した作品がこの「ミニヴァー夫人」です。

 第2次世界大戦の真っ最中に作られた作品で、話は1939年の英国参戦前の夏から始まります。
 ロンドンにほど近い平和な村。建築士の父親にはオックスフォード在学中の長男ヴィンと少し年の離れた長女と幼い次男がいる。映画の解説では中流家庭となっているが、料理人はいる、メイドはいる、しかも娘にはピアノの家庭教師もいる、そんなミニヴァー家です。
 美人の奥さんは時々ロンドンに買い物に行っては自分の浪費癖を後悔しているが、決してお高くとまってなくて、地元のベルハム駅の駅長バラード氏は自身が育てた赤く美しいバラに「MRS. MINIVER」と名前を付けるほど。ソレを聞いた夫人も誇らしく感じるというよりは感謝するといった具合。まるで、武者小路実篤の本のような出来過ぎの善人たちばかりだが、全く不自然さを感じさせない作品でした。
 この村では毎年、元領主のペルドン家の老女が主催する花の品評会があっていて、バラ部門は主宰者の老女が優勝することになっている。村人が元領主に遠慮して誰もバラ部門にエントリーしないからだが、バラードは今年は出品するつもりらしい。それ程の傑作なのだ。
 いよいよ英国も大戦に参加し、ヴィンも軍隊に入る前に大学から帰ってくる。そんな折り、ペルドン家の孫娘がミニヴァー家を訪れる。“MRS. MINIVER”の評判を聞いて、祖母を悲しませたくないためにバラード氏に出品を取り止めてもらえないかとミニヴァー家へやって来たわけだ。階級意識に批判的なヴィンはそこでキャロルと論争となるが、その夜の村のダンスパーティーで二人は仲直りをしやがて恋に落ちる。
 幸せな話はこの辺りまで。やがて、村にもドイツ軍の爆撃機が飛んでくるようになり、ヴィンは空軍へ、メイドの彼氏も海軍へ入隊する。灯火管制が始まり、付近に墜落した飛行機からはドイツ兵が逃亡し、付近に潜んでいるという噂も出てくる。
 一週間の予定で帰ってきたヴィンに急に召集がかかり、その上真夜中の2時にミニヴァー氏にも自家用の船と共に緊急集会が開かれる。それは、ドイツ軍に追われてフランス、ダンケルク迄撤退してきた連合軍を助けに行くという民間人をも巻き込んだ事態だった・・・。

 平和な5人家族の長男が軍隊に志願し、村の人々と共に一家も戦争に巻き込まれるという話は後年の「友情ある説得(1956)」に似ています。南北戦争が舞台だった「友情・・」はヒューマニズムがテーマとして確立していましたが、コチラは戦争中のこと故、ヒューマニズムを前面に出すことは控えられたようで、戦意昂揚を押しだそうとした終盤のまとめ方が、戦争の影が全くない平和な村と幸せな一家を描いた前半に対してちぐはぐな印象となってしまいました。「友情ある説得」はワイラー監督の密かなリベンジだったのかも知れませんな。

 1942年のアカデミー賞では、作品賞ほか12部門でノミネートされ、主演女優賞(ガーソン)など6部門で受賞したとのこと。
 グリア・ガースンと言えば、オールドファンには良妻賢母の代名詞的女優さんだったと思いますが、データでは1941年から5年連続主演オスカーにノミネートされるなど名女優さんでもあったようです。口髭に名前を残したロナルド・コールマンと共演したルロイ監督の「心の旅路(1942)」が有名ですな。

 ワイラー演出は、例によってストーリーを追うだけではなく、個々のシーンでそれぞれの心の細かな動きを表す表情や動作の描き方が素晴らしく、何度も観てみたい気分にさせてくれます。
 ベルハムのパブで男達が酒を飲んでいる時に、ラジオからナチスドイツの英語放送が流れていたのが印象的でした。『フランスが降伏したから、お前らも観念しろ』みたいな話。この時代のイギリス映画、もっと観たくなりましたね。

 キャロルを演じたテレサ・ライトは、この映画でアカデミー助演女優賞を獲りましたが、昨年3月に86歳で亡くなりました

 封建的な精神を残したキャロルの祖母を演じたのは、デイム・メイ・ウィッティ。ヒチコックの「バルカン超特急」のミセス・フロイでした。そして、彼女に対抗して赤いバラの花を作った駅長は「素晴らしき哉、人生!」の落ちこぼれ天使ヘンリー・トラヴァースでした。

 尚、この映画の日本初公開は49年5月だったようです。

・お薦め度【★★★★★=クラシックファンは、大いに見るべし!】 テアトル十瑠

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8 コメント

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ワイラー監督は・・ (十瑠)
2007-02-21 17:25:00
私も最も好きな監督です。
「女相続人(1949)」以前の作品はなかなか観る機会が無くて、最近廉価なDVDが出てきましたので幾つか購入して、ぼちぼち見ております。
『我等の生涯の最良の年』も買っておりますが、テレサ・ライトはこれにも出ていたんですねぇ。

ワイラー作品はこれ以外にも幾つか書いておりますので、ご笑覧下さい。
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この時代の日米の差 (アスカパパ)
2007-02-21 14:27:52
この時代の日本映画は戦意昂揚作品ばかりでした。
この映画も若干その匂いは感じますが、懐の大きさが感じ取れます。
国民性の違いから来るものでしょうか、、。

それとも、ウィリアム・ワイラーの力量から来るものか。
彼の作品を私は「重厚」の2文字で表現するのが癖になっていますが、どの映画をとっても見応えのある作品で堪能させてくれます。私のお気に入り監督の一人です。

テレサ・ライト、つい先日『我等の生涯の最良の年』でも見ました。若い頃は美人のお姉さんという感じで見ていました。
この時代の俳優が殆ど他界されて寂しい想いをしています。
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オカピーさん (十瑠)
2007-01-03 18:58:43
元旦の午後からPCの無いところへ行ってました。
改めまして、新年明けましておめでとうございます。
今年もカウントアップにはご協力させていただきますよ。
コチラこそ、宜しくお願いします。

ワイルダーさんは、私もあんまり書いてないですね。
最低一本はいきたいですなぁ。
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明けましておめでとうございます (オカピー)
2007-01-03 17:35:14
本年も宜しくお願い致します。

>未見の作品はタイトルと点数のみ拾い読み

おほん、自分では映画ガイドブックのつもりですから、それがわがブログの正しい扱い方であります(笑)。皆様もそうされると大変嬉しいと思っておるのですが、なかなか。

私も「ぼくの採点表」とはそういう風に付き合ってきましたので、涙が出るほど嬉しいコメントでした。ついでにカウントアップにもご協力ください(笑)。

好きなビリー・ワイルダーをまだ一本も取り上げていないので、今年は何本か行きたいですね。
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あぁ~anupamさん♪ (十瑠)
2006-12-31 17:01:16
いつもいつも褒めていただいて、「フォロー・ミー」以来、足かけ2年以上のお付き合いになりましたね。

今朝、「オペラ座~」の記事も読ませていただきましたが、素通りしてしまいました。相変わらず楽しそうなカップルですなぁ

来年も思わず『プッ』とこぼさないように、anupamさんちへいく時にはコーヒーは口の中にないようにしておきます。
コチラこそ、宜しくお願いしますねぇ♪
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今年もお世話になりました (anupam)
2006-12-31 14:36:47
十瑠さんがマンネリ気味だな~~なんて考えておられるなんて、意外・・
上質な名作を選択して、きちんとした文にされてるじゃない?

私のように「筋書き」ほぼゼロ、「解説」ゼロ、ただただ「好きだ、きらいだ」と感情のままに書いている者にとっては、大したものだな~と思っています

来年もまたよろしくね~~
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オカピーさん (十瑠)
2006-12-31 08:26:14
撮影はジョセフ・ルッテンバーグ。R・ワイズの「傷だらけの栄光」などで4度オスカー受賞の名カメラマンのようです。

今年の最初の記事が「ウィリアム・ワイラー」で、(多分)今年最後の紹介作品となるコレがワイラー作品。無意識だった分、自分でも可笑しくなりました。

著作権の話は今年初めの方に話題になりましたね。立法者の言葉の扱い方がいい加減なのがお役所的で、『またか・・』との感だけが残っています。70年に延びたんですか?マイナーな名作が世に出ずらくなった訳ですね。

今年一年を振り返る記事を最後に書こうかと夕べから考えているところですが、さてどうなることやら。ウディ・アレンを見直し始めたこと、オカピーさん、viva jiji姐さんとの出逢いがあったことが大きなニュースかな。

未見の作品のネタバレ記事は読まないようにしているので、オカピーさんの方もタイトルと点数のみ拾い読みすることが多いですが、来年も貴重な情報、解説を楽しみにしています。今年は本当にありがとうございました。
来年も宜しくお願いします。それでは、良いお年を。
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名人 (オカピー)
2006-12-31 04:07:21
ワイラーと撮影監督グレッグ・トーランドが組むと最強でしたが、これはトーランドではないらしいですね。観ていないので何ですが。

私も本年の頭に買ったグリア・ガースン主演の「高慢と偏見」を買ったのですが、何度目かのリメイク「プライドと偏見」と併せて観ることにしています。
映画に関する著作権が2005年から50年から70年に延長されましたので、1955年以降に作られた映画が安く買えるのは20年先になりました。マイナーな映画は早く開放したほうが名を残せるのに・・・馬鹿ですね。

愚痴はさておき、もう今年も暮れます。
色々とお世話になりました。来年も宜しくお願い致します。

良いお年を。
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