(2008/キャスリン・ビグロー製作・監督/ジェレミー・レナー、アンソニー・マッキー、ブライアン・ジェラティ、レイフ・ファインズ、ガイ・ピアース、デヴィッド・モース/131分)
2009年のアカデミー賞で9部門にノミネート、作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、音響賞(編集)、音響賞(調整)の6部門で受賞した記憶されるべき作品ですが、この年はジェームズ・キャメロンの話題作「アバター」も9部門にノミネートされ、監督のキャスリン・ビグローがキャメロンの元妻だったこともあり元夫婦対決としてマスコミは面白がって書いておりました。
結果はご覧の通り、主要部門を今作品が獲って元妻の勝ち。しかしながら両作品を観た者から言わせて貰えば、劇場用映画としてのお薦め度は元夫の「アバター」に軍配を挙げたいですな。
フセイン大統領を失脚させるべくアメリカが軍事介入したイラク戦争の開始から1年を過ぎたあたりの、2004年のバグダッドが舞台。自爆テロも含めてバグダッドでは爆弾を使った事件が多数発生しており、この映画は、アメリカ軍の爆弾処理部隊の活動をセミ・ドキュメンタリータッチで描いた作品であります。
ドキュメンタリータッチの映画ということではカンボジア内戦が背景の「キリング・フィールド」を思い出しますが、あれに比べると明らかにこの映画の印象は弱い。というのも、「キリング・フィールド」には内戦状態に入った危険なカンボジアから米国のジャーナリストが無事に脱出できるかというスリルが前半にあり、後半にはジャーナリストの逃げ遅れた現地の友人のポルポト軍事政権下からの必死の逃避行があり、ドラマの軸がしっかり出来ているからです。観客もストーリーの流れを見失うことはない。
「ハート・ロッカー」が描いているのは、明日の予定も立てようがない爆弾処理部隊の日々で、あえてドラマチックな局面は作らないようにしている感がある。そういう意味ではドキュメンタリータッチの映像は狙いにマッチしているが、いかんせんそれだけでは2時間を超える上映時間を面白く見せるのは些か辛い。
シークエンスはあるがストーリーは無い。そんな感じの作品なのです。
ドキュメンタリー・タッチというのは主に映像の印象からくるものだと思うけど、一般ドラマで使われるドキュメンタリータッチは、この作品を観れば分かるように、概ねハンディカメラの揺れる映像で、激しいパンやズームアップ、ズームアウトが移動撮影と併せて多用されている。要するに、ニュース映像や個人的なビデオ撮影の映像に似ているから、生の事象の撮影に近いと感じるのでしょう。
主な登場人物は、オスカー主演男優賞にもノミネートされたジェレミー・レナー扮する爆弾処理の専門家ジェームズ軍曹と同じ部隊のサンポーン軍曹(マッキー)、それと同部隊の技術兵エルドリッジ(ジェラティ)。
冒頭で定石通りに爆弾処理の一幕があり、その時はガイ・ピアース扮するトンプソン軍曹が一般道路に仕掛けられた爆弾を爆発しないように処理するが、携帯電話を使った爆弾だったので、退避が間に合わずにトンプソンは死亡する。このトンプソンに替わってジェームズが赴任してくるわけです。「ダーティハリー」の冒頭の銀行強盗のシーンと同じく、主人公達を簡潔にして要領よく紹介しながら、併せて爆弾処理の難しさ、危険の大きさを感じさせ、その後の鑑賞者への影響を与える良いシーンでありました。
ジェームズ軍曹の爆弾処理は大胆だが、補佐するサンボーン達を無視するような態度をとるので幾度かは衝突もする。ストーリー的な楽しみを見出すとしたら、この三人の関係の進展具合でしょうか。そして、<ブラボー中隊、任務明けまで -○○日>と出る、時間経過の字幕。任務明けまでの日数が減っていくたびに、今日は彼等に何か起きるんではないか、そう思わせてしまう効果がありましたね。
ストーリーは無いと書いたけれど、中盤から後半にかけて、ジェームズが顔見知りになった基地の近くで海賊版のDVDを売っているサッカー好きの少年との絡みのエピソードがあって、ある局面だけ彼がまるでジャック・バウアーのような動きを見せる。ドキュメンタリータッチで描かれている中で少し違和感を感じさせるものでありました。
“戦闘での高揚感は、ときに激しい中毒となる。戦争は麻薬である”
ピューリッツア賞を受賞したアメリカのジャーナリスト、クリス・ヘッジズの言葉が冒頭で映し出されるけれど、ラストシーンは、任務明けから家族との束の間の休暇を過ごした後のジェームズが再びイラクで爆弾処理をしている所なので、つまりジェームズは中毒なのだといっているように見えます。
反戦映画には間違いないんでしょうが、ジェームズがヒーローに見えなくも無いので、作者の意図が何処まで実現できたのか疑問ではありますね。
いっそのこと爆弾処理班を取材したドキュメンタリー映画の方が面白いものが出来たんじゃないかとさえ思ってしまいました。現場の兵隊と、国際情勢を俯瞰で捉えたストーリーを絡めれば、反戦の意図も明確になったのではないかとも・・・。
2009年のアカデミー賞で9部門にノミネート、作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、音響賞(編集)、音響賞(調整)の6部門で受賞した記憶されるべき作品ですが、この年はジェームズ・キャメロンの話題作「アバター」も9部門にノミネートされ、監督のキャスリン・ビグローがキャメロンの元妻だったこともあり元夫婦対決としてマスコミは面白がって書いておりました。
結果はご覧の通り、主要部門を今作品が獲って元妻の勝ち。しかしながら両作品を観た者から言わせて貰えば、劇場用映画としてのお薦め度は元夫の「アバター」に軍配を挙げたいですな。
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フセイン大統領を失脚させるべくアメリカが軍事介入したイラク戦争の開始から1年を過ぎたあたりの、2004年のバグダッドが舞台。自爆テロも含めてバグダッドでは爆弾を使った事件が多数発生しており、この映画は、アメリカ軍の爆弾処理部隊の活動をセミ・ドキュメンタリータッチで描いた作品であります。
ドキュメンタリータッチの映画ということではカンボジア内戦が背景の「キリング・フィールド」を思い出しますが、あれに比べると明らかにこの映画の印象は弱い。というのも、「キリング・フィールド」には内戦状態に入った危険なカンボジアから米国のジャーナリストが無事に脱出できるかというスリルが前半にあり、後半にはジャーナリストの逃げ遅れた現地の友人のポルポト軍事政権下からの必死の逃避行があり、ドラマの軸がしっかり出来ているからです。観客もストーリーの流れを見失うことはない。
「ハート・ロッカー」が描いているのは、明日の予定も立てようがない爆弾処理部隊の日々で、あえてドラマチックな局面は作らないようにしている感がある。そういう意味ではドキュメンタリータッチの映像は狙いにマッチしているが、いかんせんそれだけでは2時間を超える上映時間を面白く見せるのは些か辛い。
シークエンスはあるがストーリーは無い。そんな感じの作品なのです。
ドキュメンタリー・タッチというのは主に映像の印象からくるものだと思うけど、一般ドラマで使われるドキュメンタリータッチは、この作品を観れば分かるように、概ねハンディカメラの揺れる映像で、激しいパンやズームアップ、ズームアウトが移動撮影と併せて多用されている。要するに、ニュース映像や個人的なビデオ撮影の映像に似ているから、生の事象の撮影に近いと感じるのでしょう。
主な登場人物は、オスカー主演男優賞にもノミネートされたジェレミー・レナー扮する爆弾処理の専門家ジェームズ軍曹と同じ部隊のサンポーン軍曹(マッキー)、それと同部隊の技術兵エルドリッジ(ジェラティ)。
冒頭で定石通りに爆弾処理の一幕があり、その時はガイ・ピアース扮するトンプソン軍曹が一般道路に仕掛けられた爆弾を爆発しないように処理するが、携帯電話を使った爆弾だったので、退避が間に合わずにトンプソンは死亡する。このトンプソンに替わってジェームズが赴任してくるわけです。「ダーティハリー」の冒頭の銀行強盗のシーンと同じく、主人公達を簡潔にして要領よく紹介しながら、併せて爆弾処理の難しさ、危険の大きさを感じさせ、その後の鑑賞者への影響を与える良いシーンでありました。
ジェームズ軍曹の爆弾処理は大胆だが、補佐するサンボーン達を無視するような態度をとるので幾度かは衝突もする。ストーリー的な楽しみを見出すとしたら、この三人の関係の進展具合でしょうか。そして、<ブラボー中隊、任務明けまで -○○日>と出る、時間経過の字幕。任務明けまでの日数が減っていくたびに、今日は彼等に何か起きるんではないか、そう思わせてしまう効果がありましたね。
ストーリーは無いと書いたけれど、中盤から後半にかけて、ジェームズが顔見知りになった基地の近くで海賊版のDVDを売っているサッカー好きの少年との絡みのエピソードがあって、ある局面だけ彼がまるでジャック・バウアーのような動きを見せる。ドキュメンタリータッチで描かれている中で少し違和感を感じさせるものでありました。
“戦闘での高揚感は、ときに激しい中毒となる。戦争は麻薬である”
ピューリッツア賞を受賞したアメリカのジャーナリスト、クリス・ヘッジズの言葉が冒頭で映し出されるけれど、ラストシーンは、任務明けから家族との束の間の休暇を過ごした後のジェームズが再びイラクで爆弾処理をしている所なので、つまりジェームズは中毒なのだといっているように見えます。
反戦映画には間違いないんでしょうが、ジェームズがヒーローに見えなくも無いので、作者の意図が何処まで実現できたのか疑問ではありますね。
いっそのこと爆弾処理班を取材したドキュメンタリー映画の方が面白いものが出来たんじゃないかとさえ思ってしまいました。現場の兵隊と、国際情勢を俯瞰で捉えたストーリーを絡めれば、反戦の意図も明確になったのではないかとも・・・。
・お薦め度【★★★=一見の価値あり】
映画としては、ちょい弱い。
>シークエンスはあるがストーリーは無い。
そういう感じのが
ビグロー監督お好きみたいね。^^
ビンラディン暗殺もの扱った
「ゼロ・ダーク・サーティ」もそんな印象でした。
確かに観ている間“そこにいる。”感というか
その醸成は巧みで、絵的に優れた場面は
多くあるのですが観終わった後、1本の
映画の流れとして強いものがなんだか
伝わってこないのが惜しいのですわ。
話かわりまして
「私が愛した大統領」観ましたが
あまり暖かさを感じる映画ではなく
むしろあれは辛口よりでございましたよ。
>「ゼロ・ダーク・サーティ」もそんな印象でした
未見ですが、これはヒロインを追っていった本のようなのに、それでも流れが弱いのですか・・・。
同じ脚本家なので有り得るかも
>むしろあれは辛口よりでございました
そうなんですか。
コチラは予告編をある意味裏切る作りになっているのですね。それはそれで興味のレベルが上がりましたです。