はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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臥龍的陣 涙の章 その82 長(おさ)の物語

2022年12月10日 10時05分07秒 | 臥龍的陣 涙の章


男がほかの仲間たちに決起を促すべく去ってしまうと、長《おさ》は襄陽城のほうに目を向けた。
その目線には、さまざまな感情が宿っている。
激しい恨みと憤り、それから侮蔑と、すこしばかりの感傷。

長はかつて、劉表のすぐそばにいた。
劉表が大物気取りであつめていた食客のひとりとして。
登用はされなかった。
長の本能が、聖人君子然とした劉表のなかに、腐臭を感じていたのだ。

『壺中』の存在を知ったのは、とある場所で、妹と再会してからであった。
さいしょは、妹とわからなかった。
幼いころに別れたきりであったから、あまりに美しく変わっていたので、まったくわからなかったのだ。
妹のほうは、長の評判を聞き知っていて、すぐに兄だとわかったという。

長は混乱した。
自分には腹違いの妹弟がいて、この二人は幼いころに、ともに熱病で死んだと家族に教えられてきていたから。
そうではなく、じつは劉表のために人質に取られ、『壺中』という組織に入れられていたと知り、長は愕然とした。
そればかりか、妹は自ら望まないかたちで苦界に沈められていた。
いったいどうしてこんなことになっているのか。
妹を通して、長は真実を知ろうとした。

妹は語った。
『壺中』のこと、その内容と、そこに押し込められた子供たちの凄惨な運命を。
流民の子をあつめて刺客に育てていること。
豪族の子らも人質にとって、集団生活させていること。
集められた子供たちが、どれほど悲惨な生活を強いられているか。

耳を疑うような話であったから、最初は妹がおかしくなって、荒唐無稽な話を思いつくまましゃべっているのではと疑ったほどであった。
しかし、妹の話に矛盾はなかった。
つづいて、妹とおなじく死んだとされていた弟がどこへ消えたのかも知ると、妹の話を信じざるえなくなった。

理解してくれるようになった兄に、長の妹は何でも語った。
妾腹の娘として生まれたばかりに、人質として『壺中』に差し出された悔しさ。
『壷中』の中にあって味わった、筆舌に尽くしがたい苦しみ。
押し殺されるような日々により、子供らしい純粋さは磨り潰され、だれも信用しない、芯からつめたい女になってしまったこと。
自分を生贄にした家族への怒りも消えなかった。

変わったのは、泥のなかでもがくような生活のなかでも、助けてくれる人がいるのだと知ったからだという。
悲惨なのは自分ばかりではない。
長の妹は、そう健気に語った。

妹の告白は衝撃だった。
長は身を落とした妹を責めたりはしなかった。
当然だ、彼女にはなんら落ち度はない。
憎むべきは劉表。
そして、劉表にそのような権限をあたえた、腐敗しきった漢王朝。

冷たい怒りをたぎらせる長の存在を、いつ曹操が知ったのかはわからない。
曹操の細作という男が接触してきて、『壺中』を潰す手伝いをしてやろうと申し出てきた。
そして、おまえの囚われの身となっている弟を助けてやろうと言った。
劉表の『壺中』により、曹操は何度も苦杯をなめさせられてきていたらしい。
渡りに船であった。

天下は乱れ、おさまる気配がない。
これほどの大きな悲劇が生まれたのは、漢王朝がだらしがなかったからだ。
なにが寛治《かんち》だ、と長は思う。
長も曹操と同じく、古い体制の象徴たる、劉氏の排除をのぞんでいた。
曹操の覇道を阻む者は、つねに劉氏なのである。

大切な妹を、そして罪のない子供たちを穢し続けていた劉表。
十年の長きにわたり、荊州にて鉄壁の守りをほこっていた襄陽城が、いま、内部から陥落せんとしている。
この機会を逃してはならない。
ほんものの落日が、いよいよ近づこうとしている。

つづく


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