夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

ガラパゴス化する日本のメディア

2018-09-18 11:41:48 | 政治

日本のメディアの特徴は、新聞が支持政党を明らかにしないなどの「政治的中立」にあり、先進国の中では例を見ないものだったが、それは過去の話だ。全国紙で言えば、産経と読売が長年にわたる政権与党である自民党に限りなくすり寄ったことに始まり、朝日、毎日が政権といくらか距離を置き、新聞間の違いが明らかになったことで、「政治的中立」とはもはや言えなくなった。安倍晋三が朝日を攻撃するのも「すり寄って」はいないからだ。しかし、右と左という政治的立場で言えば、産経が極右で読売が右の中央、朝日、毎日が中道といったところで(朝日、毎日は経済政策では自由主義的で完全に右派の立場を取っている)、英国のガーディアンやドイツの南ドイツ新聞,フランスのルモンドのような左派ないし中道左派の新聞は存在しない。しかし、問題はそのようなことではない。問題は、第一に日本メディア全体が視聴者・購読者への「芸人なみの受け狙い」化していること、第二に政権への「忖度」をしなければならない状況に置かれていることなのである。そのことは携帯電話だけでなく、日本のメディアが独自の「進化」、つまりガラパゴス化していることを示している。

1.最も影響力があるのは依然としてテレビ

情報媒体としてのメディアには、新聞、テレビ、週刊紙などの定期発行誌、インターネットがあるが、その中で「世論」に最も大きな影響を与えるのは、日本に限れば実際にはテレビだと考えられる。朝日新聞の2018年7月の世論調査でも、政治や社会についての出来事の情報は「新聞24%テレビ44%インターネットニュースサイト26%」となっている。この場合の「世論」とは、政党支持率や憲法改変への賛否といったその他の政治的問題に対する一般大衆の意見の動向のことである。なぜ、テレビなのかと言えば、以下の理由による考えられる。

①紙媒体の新聞や週刊誌等の発行部数から推定する購読者数に比べ、テレビの視聴者数はその約2倍に達する(日本新聞協会等の公表と視聴率から類推すると紙媒体4~5千万人、テレビ8~9千万人)。インターネットの利用者は総務省によれば1億人を超えているが、電子メールやSNS,商品の売買等が多く、ニュースサイトや社会的情報の視聴はインターネット全体から見れば多くはない。。

②紙媒体は読もうとする能動性が必要だが、音と映像によるテレビはただ点けているだけで視聴者にとっては楽であり、頭に入りやすい。

③新聞は政治的論調がある程度はっきりしており、もともとその報道姿勢を支持しているからその新聞を購読しているのであり、それを読むことで意見が大きく変わることは少ない。アメリカでは、トランプの支持者がニューヨークタイムズやワシントンポスト、ポリティコを購読することがないのは明らかだが、日本でも同じ傾向があると考えるのは自然なことだ。例えば、極右の産経新聞の読者はそれを支持しているのであり、産経新聞を読んで、共産党や社民党の支持者に転ずるなどとは考えられない。インターネットはさらにその傾向が強く、自分の思想的傾向と同一のもの以外は見ようとはしないことが多い。それに対してテレビは、新聞に比べれば差は大きくなく「中立的」である。それによって、視聴者は「中立」とみなして視聴するので、報道されることがあたかも社会全体の「真実」の姿だと思い込みやすい。

2.テレビは何を報道しているのか?

しかし、テレビでのニュースが最も世論を左右していると考えるのは早計というべきだろう。ニュース番組よりも圧倒的に質量ともに大量の情報を流している番組があるからである。テレビ報道で近年目立つのが、平日の朝から夕方7時頃まで在京4局の民放で放送されている所謂情報番組である。この時間帯の視聴者は、中高年であり、「真面目に」最も選挙に行く層でもある。これらの番組の特徴は、最近では、スポーツ界の不祥事を繰り返し、繰り返し放送していることから分かるように、同じことを何度もかなりの時間にわたって放送することである。扱う題材は、テレビ局が視聴者がおそらくは最も関心があるであろうと考えたものである。これは、テレビ局側が1分毎に視聴率を調査しているので、「関心がある題材を放送している」というのはある程度はあたっていると考えられる。視聴率が下がれば、題材を替えざるを得ないからである。しかし、「最も関心がある」と言っても多くの題材を提供し、その中から視聴者が選択しているのでない。テレビ局側が視聴者の意向を「忖度」し、選んでいるのである。そこでは、相対的に多数派であろう人びとの意向を「忖度」し、放送するということが起こる。ある題材Aに興味のある人が2割いて、その他の題材B,C,…に興味のある人はそれぞれ1割程度だとする。そうすると視聴率では、題材Aを放送した時が最も高く出ることになる。題材B以下は、Aよりも相対的に興味のある人が少ないからである。当然、テレビ局は題材Aを選択することになり、何度も繰り返し放送される。スポーツ界の問題や不倫騒動もそういった仕組みから放送されると考えらえれる。

問題は、取り扱う題材の中でかなりのものが政治的な意味を含むことである。昨年の総選挙の後、麻生副首相が自民党の大勝は「明らかに北朝鮮のおかげもありましょうし」と発言したが、これは正直な思いから出たものだろう。その時に情報番組で繰り返し放送放映されていたのが北朝鮮のミサイルの発射実験だったからである。逆に麻生副首相について言えば、首相時代に未曾有を「ミゾユウ」と言い、これもテレビで何度も放映され、民主党政権誕生に貢献した人物でもある。麻生首相の読み間違いは、テレビ界では安倍、福田の短命総理とともに自民党の印象を悪くした最大の事柄だったのである。また、小池百合子の「排除する」という言葉も選挙結果に大いに影響したのは言うまでもない。

テレビ局が「忖度」するのは視聴率だけではない。テレビでどう扱われるかで支持率が大きく左右されることを政権側は深く学んだはずだ。放送法の免許制度による政権側からの脅しも、テレビ局は「忖度」しなければならないものの一つだ。政権はテレビを常に監視し、「政治的中立」という建て前を武器に、都合の悪い放送材料は流させないよう圧力をかけている。NHKにいたっては、権力を持つ政権側は幹部を阿部政権の同調者に入れ替えた。籾井勝人や百田尚樹のような思想的に極右を幹部に座らせ、その退任後も影響下にある人物を重要ポストに登用するという仕組みを作りあげた。民放もNHKも、テレビ局は常に政権の監視下にあると言っても過言ではない。

政治的な意味とは、上記のような直接的なものばかりではない。たとえばアマチュアスポーツに関することは、オリンピックを成功裏に終わらせるという前提にたって報道され、オリンピックがもたらす影響について掘り下げて考えることなどまったくない。ロンドンやリオのその後の昏迷については完全に無視されている。つまり、政権与党の敷いたレールはまったく問題はないという暗黙の了解のもとに放送されているのである。現在の自然災害でも、地方行政の遅れを問題にすることはあっても、根本的に国の施策を問題にするという態度はまったくない。国民の生命と財産を守るという名目で、5兆円以上の軍事予算を使っている事実がありながら、生命と生活を破壊する自然災害に対して、いくら使っているのかを考えるという姿勢はまったく見られない。これらの放送姿勢は、問題を深く追求することで安倍政権を怒らせずに、当たり障りがなく、かつ視聴率を取れるという放送内容を選択していることを表している。

ニュース番組も事件事故を手短に放送するばかりで、海外テレビのニュース番組のように、ひとつの問題を数十分にわたり追及するというようなことはない。また、公共放送のNHKは政権寄りの報道が目立ち、欧州のBBCやZDFような中立性はない。社会には様々な問題があり、不条理や矛盾に満ちている。それらが取り上げられられず、常にニコニコした笑顔をテレビで見せつけられれば、社会の現状はあたかもうまく廻っているかのように認識される。そのことは、政権を取った者にとっては非常に都合のいい状況なのである。

こういうメディアの状況で、阿部政権の支持率が一定以上、下がらないのは当然である。自民党の支持率は40%近くで推移し、野党は立憲民主党が6~10%程度で後はそれ以下であるが、それも自然なことだ。政権側がよほどの悪材料を与えることをしでかさない限り、このまま自民党政権は続くだろう。

 

代議制は、選挙民が真実である多くの情報を得て判断するという前提でのみ民主主義的なのであるが、そもそも代議制が採用されて以来、そのような仕組みはあったのだろうか? 今日、ネット等での私的な情報伝達があるとしても、最も影響力のあるマスメディアは直接国家が営むか、商業としてのものである。そこにおいて、国家の規制は非難される。しかし、民間で運営されている新聞テレビ等は、ジャーナリズムという精神があるとしても、本質的に商行為なのである。商行為は利益を出さない限り営業することができない。ノーム・チョムスキーがアメリカの「メディアコントロール」を問題にしているが、どこの国においても、多かれ少なかれ、メディアは完全に自由な状態に置かれているわけでない。少なくとも、選挙民が真実である多くの情報を得て判断する、そんな状況は今の日本にはない。

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