夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

日経平均株価の史上最高値更新は、世界的貧富の格差拡大と不平等を象徴している

2024-03-03 12:57:39 | 社会

NHK(3月1日)より

 日経平均株価は連日上昇を続け、3月1日にも最高値を更新した。海外でも、3月29日、アメリカのナスダックも、主要な500社の株価で算出する「S&P500」の株価指数も史上最高値を更新した。
 日本の平均株価の方は、多くの経済評論家から実態経済を反映していないと評され、実際、ほとんどの国民からも好景気という生活実感はない。アメリカの方も、「米製造業の景況、16カ月連続『不況』」(日経新聞3月2日)という実態で、日本同様に、庶民階層にとっては、好景気どころか、インフレに悩まされ、生活苦は続いている。では一体なぜ、このようなことが起こるのだろうか?

 日本の株高の要因
 日本の株高の要因は、多くの評論家によれば、直接的には、アメリカ半導体大手エヌビデアの大幅な増収増益を受け、日本の半導体関連株が軒並み買われたことによるという。その前提には、日本の円安と日銀が世界的には異例の金融緩和策を継続していることから、投資先を血眼で探している海外投資家の巨額の資金が流れこんだことから起きているという。
 そして、日本株売買シェアは昨年通年でヨーロッパの機関投資家が76.4%と最大で、日本を含むアジアが16.2%、北米7.1%(三井住友DCAA)という。
 
 これらの説明は概ね納得できるものだが、ではその投資家の資金はどこからくるのか? なぜ、生活苦にあえぐ庶民階層にはまったく縁のない、莫大な資金は、どうやって生み出されるのか?

「r>g」
 これは、トマ・ピケティの「21世紀の資本」の中の、最も重要な「公式」であり、rは資本収益率、gは経済成長率を表している。要するに、資本収益率は、経済成長率よりも高いことを表している。ピケティの「資本」には、土地などの資産を含み、capital資本というより、stock資産の意味が強い。だから、この著書をマルクスの資本論Das Kapitalと比較して捉えること自体が、本質的に大きな意味を持たない。また、ケピティは、多くの場合、マルクスを曲解している。
 しかし、それでも、「r>g」、資本及び資産の収益率が実態経済の成長率より高いことは、ピケティの実証的な研究を通じてだけでなく、国によって濃淡はあるにしても(r-gが国によって大きく差がある)、また、この不等式自体を否定する経済学者は皆無であり、実際の経済の状況から見ても明らかである。

 世界に出回っているカネはどのくらいになるのかは推定するしかないが、それが、実態経済を上回るペースで増加していることは確かである。
 日経新聞(2017年11月14日)は、その状況を「世界銀行の統計をもとに算出した2016年の通貨供給量は87.9兆ドル(約1京円)。世界の国内総生産(GDP)総額よりも16%多い。 」と記している。それは、「リーマン危機後に主要中央銀行が推し進めた金融緩和策 」で、「経済がしぼむ中でお金を流す蛇口を思い切り広げた結果、世界の通貨供給量は06年からの10年間で76%も膨らんだ。日米とユーロ圏の中銀が供給した資金量は10年前の4倍に達している。」「低金利に干上がったマネーの一部は金融商品や不動産市場に流れこんだ。09年春に30兆ドルを割り込んでいた世界の株式時価総額は、過去最大の約83兆ドルに増加。資産価格を押し上げ、自己増殖の色彩を強めてきた。」からだという。
 
 これらことは、2017年のコロナ危機の前の記述であり、この「しぼんだ」実態経済が、さらに「しぼんだ」状況に陥ったことは、想像に難くない。特に、世界平均の経済成長率に対しても、いわゆる先進国は、著しく低い。IMFの2024年予測では、「世界」3.2%、「先進国・地域」1.5%、「新興市場国・発展途上国」4.1%となっている。
 このことは、もともと、資本・資産が「先進国・地域」に集中しているので、その収益増加率と実態経済の収益増加率の乖離をさらに広げることになる。それ故に、投資先を血眼になって探す資本・資産のカネが、実態経済ではなく、少しでも有利な株式市場と判断された日本の株式市場に巨額のカネが流に流れこむという状況を生んだのである。

 国連は、2020年の報告書で、世界的な経済格差、即ち不平等の拡大を指摘している。「日本を含む先進国やアジア・アフリカ諸国など世界の3分の2の国で所得格差が広がり不平等が進行している」という。2019年の時点で、「10億ドル以上の資産を持つ富裕層2100人余りの資産の合計は、世界の総人口のおよそ6割に当たる46億人の資産の合計を上回っていた」という。 

 この所得格差の拡大は、「資本及び資産の収益率が実態経済の成長率より高い」ことを裏づけている。富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなることを表わしている。その富める者のカネが株式市場に流れこみ、株価の上昇によって、ますます収益を上げることが可能になる。

不等式の拡大を図る日本政府
 日本の経済成長率は、世界的にも低い。OECDによれば、2024年予想成長率は、世界2.9%、OECD平均1.4%、日本1.1%である。それを、ピケティの不等式に当てはめれば、実態経済の成長率の低さは、資本・資産の収益率の差からさらに大きくなる。それは、株式市場等に巨額の資金を投入できる大金持ちと庶民階層との経済格差は一段と大きくなることを示している。

 NISA等により、庶民階層のカネも、株式市場に入り込んではいる。一般に株の売買には手数料が発生し、売買金額が低いほど手数料の割合は高く設定されている。最大手の証券会社の野村証券の株売買手数料は、本支店の場合、20万以下で一律2860円であり、額が大きくなればなるほど、その割合は下がる。そして、その手数料は、利益が出ても出なくても発生する。もともと、庶民階層は経済情報を得づらく、それに対して、莫大な金額を動かす機関投資家は、情報収集にも多額の資金を投入できるので、庶民階層の投資は、極めて不利な状況に置かれる。
 それを考えれば、日本政府のNISA等による「貯蓄から投資へ」という政策は、庶民階層のカネを、富裕層有利の株式市場に吸い上げる政策に他ならない。


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