夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

マスメディアが新型コロナウイルス(COVID-19)について伝えないこと

2020-02-16 16:25:40 | 政治
 新型コロナウイルス(COVID-19)は、日本ではもはや誰が感染しても不思議ではないレベルに達したと言ってよい。明らかに深刻な脅威であることに間違いない。しかし、マスメディアは例えば次のような事実を伝えるのにはかなり消極的である。
 
 アメリカで2020年2月8日現在、今シーズンで感染者2,200万人、死亡者12,000人と米疾病対策センター(CDC)は明らかにした。新型コロナウイルスのことか? そうではない。インフルエンザの現状についてである。このアメリカでのインフルエンザの猛威については、新聞の片隅で報じられる程度で、テレビでは一切報道されない。日本でも、インフルエンザに起因する死亡者(極めて実態に近い「超過死亡」による)は毎年1万人前後である。世界では毎年感染者は1億人以上、死亡者は全世界では毎年30万人から60万人が死亡する(米CDC 2017年の報告)。では、新型コロナウイルスはこれほどまでの人的被害をもたらすことが予想されるのか? 答えは、100%ノーである。そのような予測をする日本の感染症学会やWHO,CDCの専門家は今のところ誰一人いない。

 確かに、新型コロナウイルスは、感染の拡大を阻止し、適切な治療環境を一刻も早く作り上げることが急務である。したがって、報道すること自体が「恐怖」を強調し、不安を煽っているとは言えない。問題なのはその報道の仕方なのだ。
 メディアはこのウイルスに何人感染し、何人死亡が確認されたかは、毎日報じる。そして一応、SARS,MERS,インフルエンザのとの致死率や感染力の比較をしている。これらの情報が嘘であるということはない。しかし、問題はその報道が画一的で、上記に挙げたアメリカでのインフルエンザの猛威がその一例だが、関連する事実がほとんど無視されていることだ。

 それ以外にもまったく伝えないか、僅かにしか伝えないことは山ほどある。WHOは中国の状況として、85%は軽症で終わり、残りの15%が重症、3%が死亡していると報告している。その中でマスメディアは、死亡した者については何度も報道するが、軽症者、退院した者の事例は極めて僅かにしか伝えない。さらに、在宅勤務を奨励し、社員が物理的に集合することを避ける企業の例は数多く挙げる。そして、「正しく怖がれ」と専門家の意見としてを伝え、決して「フェイクニュース」を報道してはいない。しかし、新聞の読者、テレビの視聴者は、具体的な事例としての死亡者の事例ばかりや犯人捜しのような感染経路を頻繁に見せられては、極めて恐ろしいこととが起きているという印象を持つのが自然だろう。人間は、理屈よりも感情で、論理よりも感性で、おうおうにして物事を把握するからだ。

 伝えられないことの中で、重要なことはさらにある。マスクの効果である。マスクは主に感染者が他人に唾液等の飛沫を遮ることで他人にうつさないためのものである。自分を守るために使用するなら、至近距離で会話をしながら相手に接する場合ぐらいのものだ。だから、医療従事者や接客サービスをする者には必須である。しかしそれ以外は、ほとんど気休めに近い。テレビで専門家がマスクについて話すのは、テレビ局に聞かれるから、一般の人はしないよりは少しはましだと答えているに過ぎない。事実、大規模調査では、マスクの着用がインフルエンザ等の感染率を下げる証拠(エビデンス)はない。

 もう一つのマスメディアの報道で見逃せないことは、この機に乗じた「中国叩き」である。例えば、武漢の病院の大混乱ぶりを何度も写し、医療体制が貧弱だと伝える。しかし、たとえ東京でも、一度に数万人が病院に押し寄せたら、同じような大混乱になるのは避けられないだろう。患者はCOVID-19の感染者だけではないからだ。特に、高度の治療が要求される大病院は、今でも従事者の過剰労働で溢れているのだ。中国の医療体制は、日本などの先進国より劣ると考えられるの確かだ。しかし、この大混乱は「進んだ」日本でも十分起こり得るのだ。逆に僅かしか報道されないのは、「国境なき医師団」始め、多くに団体から中国への物資支援が行われていることだ。マスメディアが言うほど、中国は孤立しているわけではない。
 昨年来、中国批判が激しい朝日新聞は「一党独裁」が初期対応を遅らせたという趣旨の記事を載せた。しかしその後の、WHOが称賛する都市封鎖などの封じ込めも、「一党独裁」の成せることである。しかし、これについては朝日新聞は何の論評もしない。これでは自分たちの主張に合わないことは書かないと批判されても仕方がない。また、朝日新聞に限らず、「WHOは中国からの圧力に屈しているのではないか」と西側先進国の記者の質問を書く。しかし、そもそもWHOやUNICEF、UNESCO等の国連下部機関は、人口の大多数を占める発展途上国に向けた対策が多い。WHOが初期に発展途上国の医療支援を呼びかけたのもそのためである。したがって、アメリカを筆頭に西側先進国から自分たちの利益にならないとたびたび批判される。それは、西側先進国の企業が莫大な資金で開発した医薬品を発展途上国に安く提供する行為が先進国の利益に反するなどという理由による。つまり、WHOと先進国との関係に触れなければ、本当のところは見えてこないのだ。

 ノームチョムスキーは、マスメディアが権力と巨大企業と結託し、いかに世論を操るのか、プロパガンダ・モデルを示したが、上記のマスメディアの報道ぶりはそれには当てはまらない。今の報道ぶりは、単にオオカミ少年のように、人びとを怖がらせることで購買者を、視聴者を増やそうとしているかのように見えるからだ。しかし、本質的な問題として、マスメディアが社会や出来事全般の真実を伝えているのではない、ということだけはノームチョムスキーの言うとおりなのだ。マスメディアが伝えるのは、一つ一つは「フェイク」ではなく事実(ファクト)である。だが、マスメディアが報道する事実が社会や出来事の全体像を表わすものでは決してない。他に報道されない多くの事実があり、報道の表現の仕方でも印象が大きく変わることがあるからだ。例を挙げれば、政府の失政を表現するのに、「…と野党は言っている」と付け加えれば、野党だけが言っていることで、真実とは限らないという印象を与える。産経新聞が「桜」問題を報道するのに使うやり方である。これは、民主主義は人びとが真実を知ることによって、言い方を変えれば、できる限り多くの事実を知ることによって、判断し、政治に参加するという前提が崩れていることを表している。それは、資本主義下の言論の自由や報道の自由が、国家が直接支配しようとしなくても、実際には多くの要素によって、大部分は商業的理由によって影響されるという事実を物語っている。マスメディアは現実には、経営という論理、平たく言えば「お商売」というくびきから逃れることはできない。また、現実社会において、世界で何が起きているのか、社会はどうなっているのかを知るのは、メディアを通じてしかできない。インターネットの情報も元々の発信される出どころはほとんどメディアである。だからこそ、ノームチョムスキーの言うように、良質なメディアを捜し出し、支援することが重要なのだ。(因みに、相対的にはまともな新聞、英国The Guardianは、独立を保つために常に少額からのカンパを募っている。)

 





 
 
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする