夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

ウクライナは、NATOが直接派兵しない限り、ロシア軍に勝つことはできない。

2024-03-17 11:42:34 | 社会
NATO軍大規模訓練 2024年3月4日 NHKより

マクロン発言
 2024年2月26日、フランスのマクロン大統領は、西側の地上部隊をウクライナに派遣する可能性について「欧州諸国の間に合意はない。だが私は、情勢が激しく変わってきたときには、特定のオプションを排除すべきではないと考えている。フランスがウクライナに地上部隊を送る可能性はある」と述べた。 これに対し、NATO諸国の首脳からは、部隊派遣を否定する発言が相次いだ。アメリカホワイトハウスは 「バイデン大統領はアメリカがウクライナでの戦闘のために部隊を派遣することはないと明言している」という声明を出し、 ドイツのシュルツ首相は、派遣を全面否定した上で、ロシア領土への大規模攻撃を避けるため、長距離ミサイル「タウルス」のウクライナ供与を否定するなど、慎重な姿勢を表明した。NATOのストルテンブルグ事務総長、スペイン、チェコ等の首脳も地上部隊も派遣を否定している。

 マクロンの発言に、ロシア側報道官は「NATOとの直接の軍事衝突は避けられない」と応えたが、NATOの地上部隊派遣は、ロシア対NATOの世界大戦勃発の危険性が十二分にある。それでも、現実には少数のNATOの特殊部隊や技術将校が、既にウクライナに派遣されているという報道は散見されるが、それを表向き、NATOだけでなく、ロシア側も認めていない。ロシア側もNATOとの直接衝突は、ロシアの壊滅の危険性があり、避けたいからだ。

 しかし、マクロンは3月14日、フランスメディアに、地上部隊派遣は「排除しない」と改めて発言した。そして、「欧州全体の安全保障が危険にさらされていると認識すべき 」で、「欧州の安全を確保するには、ロシアの勝利を防がなくてはならない 」と付け加えた。
 マクロンとしては、ウクライナがこの戦争に勝利しなければ、次は欧州のどこでもがロシアの進攻を受けるという脅威が終わらないという認識を示したのだが、この認識は、アメリカも含め、NATO諸国に共通している。だから、現状での停戦に反対し、ロシア軍をウクライナ領土から排除するまで、戦争継続のため、ウクライナへの軍事支援を続けているのである。

兵力と弾薬不足
 多くの西側メディアは、2023年後半頃から、戦況はウクライナ側が劣勢であることを報道し始めた。そしてその原因を、西側のウクライナへの軍事支援が遅れた、また、足りないこととする報道が専らである。また、ロシアは西側が想像した以上に、兵器弾薬の製造能力が高かったとう報道もある。だから、もっと早く、F16などの西側最新兵器や武器弾薬を大量に供与していれば、ロシア軍を排撃できたはずだ、というのである。今後は、今まで以上に大量に最新兵器、武器弾薬を供与すべきだ、という。ウクライナ政府もそれに合わせ、要求した半分も供与されていないと不満を示し、さらなる大量の軍事支援を要求している。

 ロイター日本語版(2024年2月22日)は、ロシア軍優位にある状況を、実際の現場の将校たちの証言を通じて報じている。ウクライナ軍旅団の広報担当者は、「ロシア軍が圧倒的に優勢で兵力比率は1対7だったと認めて」いるのだ。 そして、不足しているのは、武器弾薬だけでなく、兵員が圧倒的に不足していると言うのである。

 兵員不足については、ウクライナ政府は頭を痛めていることが、メディアで報道されている。徴兵逃れの海外逃亡が後を絶たず、街中で徴兵担当者が
若者たちを、引きずってでも連れ去っていく姿が放映されている。ロシア側も、犯罪者を含め、強制的徴兵は難しいことが想像される。ごく一部の愛国者を除いて、誰も戦争で死にたくもないし、手足を吹き飛ばされたくはないからだ。しかし、1対4という人口比が、ウクライナ側には圧倒的に不利なことは、誰でも理解できる。

 兵員不足には、絶対的な兵員数不足と、ウクライナ側には、西側最新兵器を使いこなし、メンテナンス作業を行う技術を持った兵士もいないことも含まれる。ウクライナ軍は、もともと旧ソ連の兵器体系で武装しているのであり、言語も異なる西側の兵器体系を簡単には使いこなせない。さらには、コンピュータ制御の西側最新兵器の訓練には相当な時間がかかり、大量の人員を西側で訓練させるのは、ほぼ不可能である。

正直なマクロン
 マクロンは、これらの現状を踏まえ、NATOが地上部隊を派遣しなければ、ウクライナ軍単独では、ロシア軍に勝てそうもない、と正直に言ったのだ。だから、ウクライナ領土からロシア軍を完全排除することを諦めないのなら、勝てないウクライナ軍支援のため、NATO軍をウクライナに派兵させなければならない日がやって来る、と言ったのだ。
 
 ウクライナの勝利とは、東部のロシア側支配地域も含め、ウクライナ領土からのロシア軍完全排除である。それができなければ、欧州のロシアによる脅威はなくならない、西側首脳は言う。しかし、この主張は、仮にロシアがウクライナから排除されたとしても、ロシアの脅威がなくなるという論理にはならない。ロシアが、現状のような侵攻できる軍事力を持ち、西側の言う「権威主義」勢力が支配している限り、ロシアの脅威は去らないということになる。ロシアには、メドベージェフのようなプーチン以上に愛国主義的強硬派は大量に存在する。それは、ウクライナ同様にロシアも戦時下であり、ロシア側から見れば、NATOが空恐ろしいほどの脅威だからである。
 
 西側首脳の主張に従えば、ロシアから強大な軍事力を奪い、ロシアの「自由民主主義国」化がない限り、脅威は永遠に去らない。それは、第二次大戦のドイツ・日本と同様に、勝者であるNATOのロシア占領以外に不可能である。結局のところ、永遠にロシアとの戦争は継続する、そう言っているのに等しいのである。そうなれば、数百万人から数千万人の死は避けられない。

 マクロン以外のNATO諸国の首脳は、地上軍派遣は絶対にない、と明言している。ロシア側は、そうなれば世界大戦だ、と警告している。要するに、西側もロシアも、あまりに危険な地上軍派遣は望まないのである。しかし、地上軍派遣以外にウクライナの勝利が望めないことが分かれば、その時の選択肢は二つである。ウクライナ領土の一部ロシア側支配を認めた停戦交渉か、ウクライナに派兵し、第三次大戦の扉を開けるか、どちらかである。

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