夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

ロシアのウクライナ侵攻で、世界は軍拡競争へ突き進み、日本は平和主義を投げ捨てる。(1)

2024-03-30 11:15:21 | 社会


歯止めがかからなくなった日本の軍拡
 2024年3月26日、日本政府は「英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の日本から第三国への輸出を解禁する方針を閣議決定し、国家安全保障会議(NSC)で武器輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の運用指針を改定した。(東京新聞2024年3月26日) 政府は「歯止め」という言葉を使うが、軍事力強化への歯止めはまったくかかっていない。
 日本政府は、武器輸出を抑制してきたのだが、2023年末の弾薬や弾道ミサイルなどの輸出緩和に続き、高い殺傷能力を持つ戦闘機の解禁で、武器輸出を含む軍事大国へと、さらに進んでいる。
 日本の軍事能力は、既に世界第7位にまでなっている(米軍事力評価機関 Global Firepower )。もはや、憲法の平和主義など、完全に空文化していると言っていい。憲法は戦争の放棄を謳うが、現実には、放棄しているのは平和主義なのである。

世界中を席捲する軍事力強化による侵略の「抑止論」 
 日本国際問題研究所の佐々江賢一郎理事長(元駐米大使)は、「 ウクライナ侵略『日本の武器輸出は紛争終結の手段として必要』」(産経新聞2024年2月25日)と述べている。その中で佐々江は、「日本など各国の指導者は自国民に対し、ウクライナが敗北すれば自国民の生活、安全、国益に影響がおよぶと説明し、ウクライナ支援に対する理解を得るための努力が引き続き必要だ。」 「ウクライナが軍事侵略を受け、領土を取られたままで決着が付いてしまうと、 日本にとっても明日はわが身となる。」と言う。その意味するところは、「西側は軍事力で、ロシアの軍事侵攻を止めなければならない。それには西側全体の軍事力強化が求められる。そのために、同盟国への軍事協力が求められ、武器輸出は必要だ。日本の場合は、ロシアと同盟関係にある中国からの軍事侵攻を抑止するために、もっと軍事力の強化が必要だ。」というものである。
 
 日本政府の軍事力強化方針は、ロシアによる軍事侵攻より、はるか以前からあり、戦後、長い間掲げられてきた日本の平和主義が、放棄されたのではないか、という懸念が、海外メディアで報じられて10年近くになる。英国BBCは、2015年には、「日本は平和主義を放棄したのか?」という記事を載せている。Is Japan abandoning its pacifism?
 2015年9月に、野党が戦争法と呼んだ「平和安全法制」が成立し、自公政権が「集団的自衛権の行使」や「後方支援・武器使用の拡大 」等の軍事拡大方針を法的にも明確にしたことからの記事である。そこには、極右・タカ派色の濃い安倍晋三が首相であり、過去の侵略戦争を肯定的に解釈する歴史修正主義への批判も含まれている。
 問題は、その日本政府の軍事力強化方針が、ロシアによる軍事侵攻により、さらに加速したことである。上記の佐々江賢一郎の主張は、その正当化であり、理屈付けの一例なのである。
 ロシアによる軍事侵攻で、アメリカと同盟関係にある西側諸国全体が軍事力強化に突き進んでいる。NATO諸国政府は、ロシア・ウクライナ戦争には、一切の和平交渉には反対し、ウクライナへの強力な軍事支援によってのみ、ロシア軍を排撃すべきだという方針を崩さない。そのため、ウクライナ支援と権威主義との闘いと称した自国防衛のため、GDP2%を超えの軍事力強化に邁進しているのである。
 その流れの中で、むしろ率先し、日本は軍事力強化を加速させている。ロシアの軍事侵攻が、「防衛力」強化に賛成する意見の増加傾向を加速させ、その世論の後押しを受け、自公政権は軍事力強化に邁進しているのが実態なのである。

動かない日本の平和運動
 2023年4月5日、ロシア・ウクライナ戦争に対し、日本の和田春樹ら学者・ジャーナリスト約30名が、即時停戦を呼びかけ、日本政府に和平交渉の仲介となるよう要請する声明文を発表した。これには、東京外大の伊勢崎賢治や岩波書店の岡本厚・元社長 、ジャーナリスト田原総一朗、東大の上野千鶴子名、法政大の田中優子らが名を連ねている。
 これに対して、長い間、平和主義に基づいて運動を行ったきた日本の平和運動諸団体は、ロシア・ウクライナ戦争には、「ロシアの即時撤退」を訴えるだけで、この声明を完全に無視している。原水協、原水禁、日本平和委員会、日本平和学会、9条の会等、すべて同様の立場を崩さない。
 これらの諸団体は、2022年2月のロシアの軍事侵攻直後、ロシアは「即時撤退」すべきと声明を出したきり、ロシア・ウクライナ戦争には、ウクライナへの物資と精神的支援をしているが、現実の毎日多くの人びとが殺されている戦争をどうやって終わらせるのかについては、一切言及していない。
 
 「ロシアの即時撤退」は、アメリカを筆頭に、イスラエルに大規模な軍事支援を行っているNATO諸国政府も要求していることである。しかし、ロシアがそれに応じないから、軍事力で戦争に勝つことで、ロシア軍を排除しようとしているのである。ただ単に、「即時撤退」と1億回叫んだところで、ロシアは応じる訳もなく、まったく意味をなさない。ではなぜ、このような意味を成さない立場をとるのだろうか?
 そこには、上記の声明を出した諸団体を牽引してきた日本共産党の方針がある。

曖昧さに終始する日本共産党
 2024年2月25日、日本共産党幹部会議長の志位和夫は、「『即時停戦』を主張するわけにはいかない 」と語った。そして、「『国連憲章守れ』の一点で、全世界がロシアの蛮行を包囲することが必要」「戦争を終わらせるには世界が団結すること」だと続けた。 志位も「現状でそうした団結がつくれているとはいえない」 と認め、その理由を「米国が、(1)『民主主義か専制主義か』という価値観で分断してきたこと、(2)ロシアの侵略を批判する一方でイスラエルのガザ攻撃に正面から批判せず事実上擁護してきた『二重基準』をとっていること 」だとしている。(以上、赤旗2月25日)
 しかし、米国の『民主主義か専制主義か』は、主に中国・ロシアを敵視し、西側同盟を強化して、そのための軍事力強化を図り、戦争も辞さないという態度を見せつける論理なのである。『二重基準』は、ウクライナへの軍事支援だけを続ける欧米への批判である。これらは、いわゆグローバルサウスから徹底して批判されていることであり、西側以外の世界のすべてが、欧米に同調しない理由の大きな要因である。これらのことは、「団結がつくれているとはいえない」理由なのではなく、西側以外の全世界が「団結」している理由なのである。
 志位の主張は、論理的に意味不明であるとしか、言いようがない。はっきりさせなくてはならないが、西側以外の全世界が求めているのは、ブラジルの大統領ルーラ・ダシルバ が言うように、「西側にも戦争の責任がある。戦争をやめろ」なのである。
 
 日本共産党は、ウクライナへの日本の軍事支援には反対していることは明らかだ。しかし、NATOのウクライナへの軍事支援については、否定も肯定もしていない。NATO諸国政府は、最新鋭戦闘機の供与など、さらなる軍事支援を続けている。現実の戦争は泥沼化しており、戦闘はエスカレートする一方で、NATOとロシアへの直接交戦も懸念される。第3次世界大戦を懸念する研究者もいる。その間にも、ウクライナ側もロシアも側も、とてつもない数の死傷者と生活の破壊は終わることなく続き、今まで以上に悲惨なものになる。
 
 それでも、「『即時停戦』を主張するわけにはいかない 」とは、完全に現実に起きていることを無視している。そうでなければ、「停戦」でなく、戦争継続を主張する論理を明らかにすべきである。欧米に同調し、ロシアを敗北させなければ、『民主主義か専制主義か』の闘いに負けると考えているなら、そう主張すべきである。
 
 赤旗には、ガザの悲惨な状況とイスラエルの蛮行を非難する記事は溢れている。しかし、ロシア・ウクライナ戦争の記事は、ほぼ皆無である。あたかも、そんな戦争は地球では起きていない、かのようだ。このことは、日本共産党の曖昧な姿勢を浮き彫りにしている。

 しかし、「ロシアの即時撤退」だけを振りかざしているのは、日本共産党だけでなく、実は、西側左派の多くは、その立場なのである。
    
 (続く)


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