総務省幹部に対する東北新社の贅沢飲食接待に続き、農水省次官らに大手鶏卵会社「アキタフーズ」 の会食接待があったとマスメディアは報じている。信じがたいことに、代劇の悪代官とその権力の庇護の下、暴利を貪る豪商の「おぬしも悪よのう」という図式と変わらないことが、日本では21世紀でも行われている。
官僚個人と商人のお互いの利益が一致し、それが公にならないと本人たちが思っているから、このようなことが行われる。総務省の例で言えば、週刊文春が報じなければ、問題にされることもなかっただろう。また、官僚が職務と利害関係のある業者との会食自体が禁止されているわけではないので、官僚からすれば、情報交換、業務をスムーズに遂行するためのコミュニケーション等の理屈こねるか、挙句の果ては利害関係者とは知らなかったなどの言い訳をすれば、いくらでも可能になる。確かに、国家公務員倫理規程で、利害関係者からの「供応接待」は禁止されており、その飲食費の負担に関しては、原則自己負担(所謂割り勘)で事細かい制約が課されている。しかし、それを告発するのは誰かと言えば、公務員同士の身内である。役所の中で検察が見張っているわけではない。下っ端の役人なら、告発されるだろうが(だから、下っ端役人は、ほとんどこのようなことは、なくなったという)、人事権を持つ局長級や審議官など、それに類する幹部を、身内が告発できるはずはないのだ。下手をすれば、逆に飛ばされるのである。接待した側の競合他社が密告するか、今回のようにマスメディアにでもバレない限り告発されることはないので、その本人の「倫理観」しだい、なのである。
公務員に対する贈収賄は刑法で禁止されている。また、民間でも、会社法で「内967条、取締役等の贈収賄罪 」という法もあり、民間役員の禁止されてはいる。実態としては、さすがに、金銭を含む物品を賄賂として使うことは、激減しているし、また、賄賂の一部である接待もコストパフォーマンスの考えから以前と比べれば、減ってはいる。しかし、そこに見過ごされているのは、法以前の、人のカネで飲み食いするさもしい根性である。その「根性」は脈々と生き続けている。
山田真貴子内閣報道官は、一度に7万円もの飲食接待受けたのだが、自分のカネならそのような高額な料理と酒を注文するのだろうか? 2000~3000万程度の年収があると推定されるが、その程度なら余程の理由がない限り、飲食に一人7万も身銭は切らないだろう。人のカネだから、家族や友人とはめったに行かない高級料理店に誘われても、ホイホイついて行き、ただ喰い、ただ酒を楽しむのである。
接待する方も会社のカネで楽しむ
接待する方も、自分のカネではめったに行かない店だろう。実は、接待する方も高級料理、高級ワインを楽しむのである。それは、相手が公務員でも民間でも同じことだ。さらに、通常、接待が終わったら、そのまま帰ることはあり得ない。当然、酔いも手伝って、「反省会」があるのである。「反省会」も、身銭など切るはずはない。すべて会社の経費である。会社のカネなのだから、ケチな居酒屋などいく必要はない。銀座・赤坂・六本木の高級クラブ側も心得ており、会社の経費で落ちるように、うまく領収書を切ってくれるのである。(最も劣悪な例を挙げれば、接待する相手を性産業に連れて行き、自分も性産業で「楽しむ」というものだ。)
そこにあるのは、「役得」という意識である。業務上の権限がある接待を受ける側は、民間なら特に、その業務に携わる「役得」だと思う。その個人が美味しい料理や酒を味わったところで、会社の利益にはならない。むしろ、接待をしかけてくるのにはそれなりの理由があり、会社にとっては、何らかの不利益があるかもしれない。しかし、その個人にとっては「役得」だから、接待を受けなきゃ「損」なのである。そこには、不正義という倫理観はない。
江戸時代の悪代官と豪商と現代との違いは、豪商は個人経営なので、賄賂は自分のカネだが、現代の賄賂の出どころは会社のカネという点である。会社のカネで、相手を接待し、ついでに自分も会社のカネで楽しむ、ということである。接待する会社役員・社員は、その部門以外では、そのようなカネを使うことはできない。だから、目いっぱい会社のカネを使うのである。それが「役得」なのである。
賄賂・役得文化、それについて書いているマスメディアは、皆無である。おそらくマスメディアでも、それが行われているのかもしれない。だから、そのようことは書かない。そう考えたくもなる。