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江美さん編『明日カノ』言いたい放題・その6。

2023年03月09日 | 言いたい放題
【絶望と希望の夕焼け】

前回(→・江美さん編『明日カノ』言いたい放題・その5。)の続きです。

単行本13巻、ケチ男(岩ちゃん)とベッドを共にし、連絡先は聞かれたけれど本名を聞いてこない。

その意味は嫌ってほど江美さんならわかるはずなのに、色んな気持ちが渦巻いているようです。

「レター先生の言った運命の人なのかも」

「お世辞なことわかってる」

「こんなのゼッタイ嫌だって思ってた」

「でもあんなに辛いことばっかりで、苦しくて笑ってられなくて、そんな時にお世辞だってわかってても甘い言葉で優しくしてくれる人にすがっちゃうのはそんなに悪いこと?」

「誰が私を責められるの」

作り笑いをやめて、お母さんがずっと取っておいてくれた学習机で、カリカリカリカリノートを書き込みます。

これがなんだったのか読者にわかるのは後で。

でも本当にここが大切な一歩なのだ。

そこからたったの4日で、幸子さんに

「お願い、ダンナの浮気調査のために張り込みするから一緒に来て!」

と頼まれて一気に話はクライマックスへ。

ぽんぽんぽんぽん話が進むし短いけど、ここ本当に面白い。

いやー本当に江美は運がいいよ。

最高の底付きじゃないですか、こんなに一気に片付くのは素晴らしい。

タケちゃんとケチ男(岩ちゃん)で張り込み場所へやってくる。
   ↓
タケちゃん、ケチ男に菜々美ちゃん(江美)が好きなの?とサクッと聞く。
   ↓
ケチ男には婚約者がいてそっちと結婚するし、江美は年上で後腐れなくセック○させてくれそうだから選んだ、とっくに俺あの女とヤってるんで!とマウンティングの道具にさえされているのが一気に暴かれる。
  ↓
それも辛いが、何より辛いのは幸子にタケちゃんがお店に着てることを黙っていたとバレてしまったこと。
  ↓
「もうダメ、幸子まで失うかもしれない」

と逃げ出す江美。

(ここで幸子が夫に

 「話し合おっか」

 と“本気で向き合う”のをさらっと描いているのが大事。

 これこそ江美が手に入れたい幸せへの必須スキルだから)

泣きながら走る江美の頭に、自分の信じていたスピリチュアル教義がこだましていきます。

「自分が嫌いな自分にならない。

 幸せってそういう人の元へ引き寄せられるものだから」

声は文字にしてませんが、この場面きっと江美は声出して泣いてるんですよね。

夕日を背景に、声を上げて涙をとめどなく流しながら上を向いて走る江美。

この場面のまあ、美しいこと!

底付き=依存症脱却のスタートライン。をこんなに的確に美しく絵にできるのいいよね。

江美自身は絶望している、どん底状態、だけどこの瞬間に美しい世界がある。

素敵ですわー。

【レターとの決着】

次に描かれるのが最後のオンラインセッション。

ここで初めて現在のレターの顔が描かれます。

この描写にはいくつかの意味があるんじゃないでしょうか。

実際のレターはふくよかな体なのに今までの顔が描かれないレターはかなり細身の体で描かれている=江美自身も崇拝していて、理想と妄想を合わせた虚像としてのレターと向き合っていたということ。

レターが旧スピリチュアルネームの青羽マリーだった頃は、最後の場面まで青羽はきちんと目を開いて色んな表情をしている=レターもかつては、ちゃんと江美と向き合っていた。

レターになって独立した時から、にっこり笑って目は閉じてて表情がひとつしかない=目を開いていないのは江美を見ていない証拠、信者を依存させ金を巻き上げるというたったひとつの目的の道具に自ら成り下がったこと。

江美の

「もう終わりにしてマトモになりたい」



「レター先生を信じ続けたい」

がせめぎ合ってるのがよーくわかる言葉・表情・態度は見所。

最初はかなり信じたい、が強いけど

「ああ、レター先生はやっぱり私に向き合ってくれないんだ」

と再確認してから爆発する。

(ゆあてゃに比べたらあまりに自責的で静かな小さい爆発だけどね)

「もうわかったんです!

 目をそらしちゃいけなかったんだって!

 このクソッたれな人生と向き合わなきゃいけなかった…!

 自分の意志で、自分の道を決めなきゃいけなかった…。

 先生には感謝してます…でももう…先生に頼らないで、私の責任で、これからは生きていこうって…思います…」


この後の江美の瞳がいい。

ここまでわかってても、先生はいい人なんだと思いたい、最後の期待が溢れる瞳。

(この期待にまつわる物語は、最終章の雪さんと太陽くんでまた受け継がれ描かれる)

んで。

レターは案の定ここまで江美が向き合ってくれと願って言葉にしても、目を開けない=向き合わないまま。

江美の決死の告白なんかなかったかのようにいつもの

「最後に一緒に笑いましょう」

江美を再び見て向き合ってくれることはなかった…。

江美が笑わずピッと接続を切る、あっけないなと呆然としながら。

なりたい自分ノートをパラパラ読み返す。

なりたい自分、つかみたい幸せ、あの時は頑張ろうと思ってた。

でもそれがなかなかできずに、落ちて落ちてぐちゃぐちゃの本音をここに書き連ねた。

一度は鎮火した怒りがわっと溢れ出し、ノートをビリビリにやぶって放り投げる。

わかる、わかるぞエミー(笑)。

このノート、急いで書いたような文字で

「ああ、あの時江美はこう思ってたんだ」

の答え合わせができる文章がたっぷり書いてるのでぜひ確認してみてね。

たくさん書いててすっごい熱量だし、をのさんのこだわりを感じます。

江美は本当は全部わかってたんだな、でもわかっててすぐ思考や行動を変えられる強さや冷淡さがなくて苦しんでいたんだなってよくわかる。

怒りを外へ出した江美は涙が溢れます。

「心のゴミ箱なんかに捨てないで、この嫌な気持ちだって認めるべきだったんだ」

…そうよー!!(小田切ヒロさん)

江美、よくここまで来たね…と拍手したくなる場面。

レターに

「あ、本当にこいつダメなんだ」

と底付きしたのね。

【本気で向き合ってくれる優しい人、素晴らしい世界】

私含め多くの読者が

「早く気付いて」

と願っていた真実に江美はちゃんと気付きます。

「お母さん、幸子、ちえママ、未来ちゃん…みんなみんなずっと優しかったのに。

 …世界はこんなにすばらしかったのに…。

 ちゃんとしたい…」

なりたい自分、つかみたい幸せの必須スキル“本音で向き合う”を実行していく江美。

まずは幸子に、ちえママに、そしてお母さんに…。

この回はおそらく『明日カノ』全編で一番美しく読者を泣かせる回になるんじゃないかな。

それくらい素晴らしいです。

一番人気は少女時代

「綺麗なうちに死にたいよね。

 一緒に死のう」

と話してた幸子が大人になって

「エミー、頑張っていきようね」

と言ってくれる場面でしょう。

美しい~…でも幸子がこう思ってこう言ってくれたのは江美だからなんだよ。

レターのおかげじゃなくて(しつこい)。

ちえママと未来ちゃんの場面も最高です。

やっぱりちえママならケチ男のことわかるよね(笑)。

エミーはちえママにとって娘のように大事な存在だし、一緒に働こうねと言ってくれる。

未来ちゃんだって心から心配して帰りを喜んでくれました。

「そうそう、菜々美ちゃんは笑ってる顔が一番かわいいわよ!」

の言葉がまた重くて大事なんですよ。

心からの笑顔が素敵。

泣きたい時、笑えない時に笑えなんて人間じゃないよ。

そして最後はやっぱり…お母さん。

東京で何の仕事をしていたのか正直に告白しようとした江美ですが、それは止められます。

「いいから食べなさい、冷めちゃうよ」

ご飯を作って待っててくれる、ちゃんと目を開いて自分と向き合ってくれる、お母さんの静かだけど揺るがない愛を感じた江美は涙がとめどなく溢れます。

「ちゃんと娘できなくて、ごめんねえ…」

世間的な正しいこと、娘の役割、大人になること、それを与えてあげたかったけど出来なかった、ってことかな。

この言葉をお母さんは穏やかな微笑みで受け入れてくれます。

「ほんとにあんたは子供なんだから」

…私はこの言葉と表情で、お母さんが欲しかったものは“自分とちゃんと向き合ってくれる家族”だったんだろうなと思った。

江美は上に書いた自分の理想を与えたかったけれど、お母さんは実はそんなのより今江美がやってくれたことが欲しかったのだと。

だからちゃんとお母さんの欲しくて欲しくてずっともらえなかったものを、ちゃんと江美は与えているんだと思う。

報われたんだよ、お母さんは。

だからこそ引越しの日に家族写真を抱きしめていけたのだ。

さりげないけどいいのよ~。

【現実的な気持ちもあるからこその幸せが尊い】

ここから最終回までは、輝くような幸せな日々を描きます。

調子が悪い時は自分の美しさをいまいち生かせないヘアメイクとファッションしかできなかった江美はすっかり魅力が開花してますます美しいし、過去の失敗も肥やしにして強くなる。

仕事の人間関係もばっちりで、大好きな幸子さんと幸せな東京旅行。

ライブでは素敵な先輩に

「年取ったってカッコいいひとはずっとカッコいいんだ」

と教えられ涙する。

この輝く幸せと、現実的な気分の浮き沈みを合わせて書いてるのが私ほんっとうに好き。

ふつうなら

「幸せになれましたとさー」

ってキラキラだけの最終回なんだろうけどね、そうじゃないのがいい。

幸せだし上手くいってるけど、過去に郷愁を覚える時もある。

「私なんてこんなもんか」

とやさぐれた気持ちもある。

でもそんな浮き沈みもちゃんと受け入れて、その上で

「これでいい、じゃない。

 これが、いいんだ」

と己を励ます。

生きていくけれど、

「あー…」

ってなる時もある。

今までの江美ならここで

「あー死にたい」

だったんですよ。

成長して強くなったから

「あー…」

なの。

成熟しても幸せになっても浮き沈みはある、キラキラだけで喜びと興奮だけなんてない。

(雪さんの言葉

 「幸福は麻薬」

 はキラキラと喜びと興奮だけ、というありもしない幸福を言ってると私は思ってる。

 それは幸福じゃなくて刺激なんだよ雪さん)

…これが人生。

それも内包するのが幸福。

って思うから私ほんとうに江美さん編大好きですわー

カルトやエセスピ商法・霊感商法の煽る幸せってこれですから、

「そんなんじゃねーんだよ、人生も幸福も」

って殴ってくれてる気がして痛快です。

…というわけでねえ、大好きな江美さん編言いたい放題は無事これにて終了でございます

をのひなおさん、素敵な作品を本当にありがとうございます。

しょっちゅう体を壊されていて心配ですが…どうか雪さん編最終回もその後も健やかでいられますよう、ひっそり祈っておりますので。

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。

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