阪口直人の「心にかける橋」

衆議院議員としての政治活動や、専門分野の平和構築活動、また、趣味や日常生活についてもメッセージを発信します。

ミャンマー・カチン族のマノー祭りを実施(2)-アウンサンスーチー氏は信頼を回復できるのか

2018年08月29日 15時50分07秒 | 政治


 マノー祭り初日の夜は、シンポジウムを実施した。私は座長を務め、カチン州が置かれた状況に対して何ができるのか、カチン族の方々を中心とした約25人の参加者と車座になって意見交換を行った。

 シンポジウムのテーマは、どうすればアウンサンスーチー国家顧問に彼らの声が届くのか、また、彼らの生存権を脅かしている環境破壊的なミッソンダムの建設を止め、2010年から続く内戦によって10万人を超える国内避難民を生み出している状況を変えるにはどのようなアプローチを行うべきかであった。

1.カチン州の問題についてアウンサンスーチー氏を含めた政権の認識は?

アウンサンスーチー国家顧問に対しては辛らつなコメントが相次いだ。

 民主主義や人権を守るために自らの命を懸けて闘うのがノーベル平和賞受賞者でもあるアウンサンスーチー氏のイメージであった。4度にわたって面会した私自身の印象もまさにその通りであったし、国際社会を味方につけて政権交代を目指し、憲法改正や軍の改革にも取り組む姿勢を世界が応援していたはずだ。ところが、ロヒンギャ問題への対応で名声は地に堕ち、国内の諸問題に対しても十分な指導力を発揮できていない。また、約束したミッソンダムの問題解決にも有効な手を打てていないと不満の声が噴出した。

 スーチー氏は信用できない。もともとカチンの問題に関心がない。現地に来ることもない。約束を破るのはビルマ族の考え方。彼女の父親であるアウンサン将軍もお世話になった日本を追い出した。このようなネガティブな声が相次いだ。ミャンマーには政府が二つあり、彼女が軍を掌握しない限り何もできない。一方で、軍に影響力を持とうがするゆえに肝心の市民の声を聞かなくなったとの声も寄せられた。

 しかし、期待通りではなかったとしても、アウンサンスーチー国家顧問の力を利用し、政府を動かし、あらゆる方法で国際社会にも問題提起する視点が必要である。そして、国家指導者として今目の前にある問題を解決することが彼女の政治力、国際的信用を回復させ、ミャンマーにおける様々な問題解決に立ち向かう上での力になる。このような認識に立ち、特にミッソンダム問題についての解決策を探ることにした。

2.ミッソンダムを巡る状況

 私は2015年11月にミッソンダムの建設凍結地を訪問し、当時の状況についてこのブログでも問題提起をしている。また、2016年3月にワシントンで講演し、ミッソンダムの問題解決を切り口にした民主化支援と、そのための日米の協力を問題提起した。

 阪口直人ブログ『心にかける橋』ミャンマー・カチン州の和平の展望とミッソンダム建設予定地への潜入

 阪口直人ブログ『心にかける橋』ワシントンで講演―日米協力によるミャンマーへの民主化支援を提言


 ミッソンダムはミャンマー北部カチン州、ミャンマー最高峰・標高5881mのカカボラジ山などヒマラヤを源流とするメカ川とマリカ川が合流してイラワジ川が始まる地点(ミッソン)にて、中国国有企業「中国電力投資公司(CPIC)」が36億ドルを投資してミャンマー企業と合同で2009年から建設を進めてきた水力発電用巨大ダム。(高さ152メートル、設置出力3,600メガワット)

 もともと発電量の約9割が中国に輸出される予定で、契約によるとダムは完成後50年間に渡って中国が運営・管理する。開発に伴いカチン族の約50の村が水没し、強制移住される村民は1万人を越える見込みであり、カチン州全体の50%に環境破壊の影響がおよぶとされる。

 環境破壊と人権蹂躙の象徴とされていたミッソンダムダムだが、2011年3月に発足したミャンマー新政府のテイン・セイン大統領はその年の9月30日、軍事政権が進めてきたミッソンダムの建設凍結(任期の2016年3月30日まで)を表明した。この決断によってテイン・セイン政権に対する欧米の評価は高まり、ミャンマーは投資ブームに沸くことになる。しかし、あくまで凍結であり、工事を中止するか再開するかはアウンサンスーチー率いる新政権に委ねられることになった。

 2016年4月以降、中国側は工事再開を求めている、2016年8月に訪中したアウンサンスーチー国家顧問は調査委員会の報告を待って判断するとした。スーチー国家顧問の報道官によると、彼女は環境破壊の恐れが少ない複数の小型水力発電所を代替案にしようとしている。しかし、在ミャンマー中国大使は工事を中止した場合、違約金8億ドルを支払うか、他の事業に優先的に関与することを求めると発言している。

 このような状況に対して、日本にできることは何か、シンポジウム後の個々へのインタビューも含めると下記のような意見に集約される。

1.アウンサンスーチー国家顧問と直接対話できる人に切羽詰まった我々の声を伝えて欲しい。

2.8億ドルの違約金の代わりに中国に事業への優先権を与えるのは論外。今後、ミャンマーは完全に中国にコントロールされる。受け入れがたい恐怖である。

3.環境や人権に配慮した開発を行うのであれば、日本を優先的にパートナーにすることはむしろありがたい。違約金を当面肩代わりして頂くことで、日本を開発のパートナーにすることは可能なのか。

4.代替案としての小型水力発電所建設を受け入れるかどうかは事業内容による。しかし最大限、環境に配慮したものであるべき。カチン族のアイデンティティーであるミッソンを始めとした自然を破壊するものであってはならない。

5.以前、日本はミャンマーへの約5000億円の円借款の債務免除を行った。(2013年1月に約3000億円、5月に約2000億円)しかし、軍事政権を助けただけだった。貧しい民衆を助けるための援助をして欲しい。我々は恩を忘れることはない。

 カチンの人々の切実な声を国際社会に対し、そしてミャンマーのリーダーに対して届けることができるよう努力を続けたい。ひとつひとつの問題を解決することで、国内、そして国際社会の信用も回復に向かい、アウンサンスーチー氏が命を懸けてでも実現を目指したミャンマーの民主化に向けて、少しずつであっても歩みを刻めるはずだ。


マノー祭りの夜、カチン族の方々と車座になっての意見交換を実施(2018年8月25日)


カチン州のミッソンダムの建設凍結地を視察(2015年11月)


アウンサンスーチーNLD議長(当時)とミャンマーの民主化について意見交換(2012年1月9日)


カチン州の国内避難民キャンプにて(2015年11月)





ミャンマー・カチン族のマノー祭りを実施!(1)

2018年08月28日 17時51分32秒 | ボランティア

 まさか、松阪市の奥地でミャンマー北部の少数民族・カチン族の伝統祭事を実施できるなんて! 8月25日、26日に実施したマノー祭りは全ての関係者の努力が結実した奇跡のようなひとときでした。沢山の写真で紹介したいと思います。

 私は2015年11月、アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)が政権交代を果たしたミャンマー総選挙の監視活動を行いましたが、その直後にカチン州に入り、内戦を巡る状況や環境破壊の象徴とされるミッソンダムについて調査を行いました。この時、案内して下さったのが今回の実行委員長を務めた上村眞由氏です。

 異なる言語を持つカチン族の諸族は、連帯への思いを込めて毎年この祭りを行ってきましたが、2011年に始まったミャンマー政府軍とカチン独立軍の戦闘により10万人を超える国内避難民を生み出し、マノー祭りも7年間実施されていません。従って、カチン州から祭司や関係者を呼び、日本各地にいるカチン難民や数多くの難民申請中の方々と一緒に、ふるさとカチン州に似た風景が広がる松阪市飯高町波瀬にてこの伝統的なお祭りを実施しました。目にも鮮やかな彩り豊かな民族衣装、そして誰でも参加できる踊りを、参加者は心から楽しめたのではと思います。

 前日には交流会を行い、歌や踊り、カチン料理を楽しみました。松阪市内から50キロ余り離れた山深い地の学校跡に100人近いカチン族の方々を受け入れ、カチン料理を始め、700食あまりを共に作るなどボランティアの方々のお力添えがあっての素晴らしいイベントになりました。私は踊りは大の苦手ですが、何となく踊れてしまったような気がしています?

 なお、内戦により多くの国内避難民になっているカチン族の人々をサポートするため、9月17日には松阪市クラギ文化ホールでチャリティー・コンサートも行います。平和活動に尽力するソプラノ歌手・下垣真希さんの歌や、世界的二胡奏者の演奏もあります。申し込みは上村眞由(まさよし)さんまで(携帯:090-2683-4915)
























民主化しなくても豊かになれる今、日本の民主化支援の在り方はー朝日新聞GLOBEの取材を受けて

2018年08月24日 12時21分20秒 | 政治

 国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)の一員だった頃から25年来のテーマであるカンボジアの選挙制度改革。衆議院議員の時に全力で取り組んだこのテーマについて朝日新聞のGLOVE +が記事にしてくれています。少し長いのですが、木村文さんの文章が非常に良く書かれていますので是非、お読みください。

 「民主化を進めれば援助や投資も入って豊かになれる。民主化せよ」社会や経済への支援とセットにした西側社会のこれまでのやり方は、民主化を進めなくても援助や投資を行う中国の存在によって通用しなくなり、民主化支援の在り方が新しい局面に入ったことを実感します。私は国民情報の電子化を主導したことを教育や医療のサポートに活かすのが日本独自の民主化支援につながると考えています。

 朝日新聞GLOBE記事『民主化しなくても豊かになる?不公正なカンボジア政権への日本の選挙改革支援とは』


カンボジアの選挙人登録の電子化など、民主化支援を切り口にした取り組みについては下記のブログなどでも報告しています。

 阪口直人ブログ『心にかける橋』民主化支援を切り口に日本の可能性を切り拓く





カンボジア総選挙は自由・公正だったのか?ー最先端の選挙制度と後退した民主主義

2018年08月04日 11時50分16秒 | 政治

 7月29日にカンボジア総選挙が行われ、与党人民党が125議席全てを獲得する見込みになりました。非公式の集計によると人民党は約480万票を獲得。次点であるフンシンペック党の約37万票を大きく引き離しています。投票率は82.89%。有効得票の76.78%を人民党が獲得したことになります。一方、無効票は前回比でおよそ6倍に増え全国で約60万票。首都プノンペンでは14.52%が無効票でした。無効票の中には前回の総選挙で接戦を演じ、昨年11月、国家転覆を図ったとして解党に追い込まれた野党第一党CNRPの名前が書かれたものが数多く見られました。選択肢のない選挙に対する国民の怒り、無力感を強く感じました。(選挙管理委員会の公式発表は8月11日です)

 私がカンボジアの総選挙に関わるのは1993年以来、今回が5回目です。1992~1993年にかけて国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)の一員として自分自身が選挙人登録を指導する立場にいて、当時戸籍のなかったカンボジアにおいては選挙人登録に不正が行われる余地があることを実感。その後の選挙でも野党側だけでなく、国民の多くから二重登録など選挙人登録の不正が指摘され続けてきました。

 そんな経験に基づき、衆議院議員だった時には、カンボジアと日本双方の閣僚や議会の要職にある人々などに選挙人登録の電子化を働きかけました。結果、国民IDを電子化して選挙管理委員会のホストコンピューターに情報を連結する形で実現し、生体認証による本人確認、スマートフォン上で投票場所の確認ができること、開票所ごとに選挙結果をウェブ上で確認ができることなど先端の技術が導入されました。

 生体認証によって個人を識別できるようになった結果、前回2013年の総選挙で967万人だった有権者は838万人に大幅に減りました。また、地方選挙の選挙人登録者も2012年の920万人から2017年の787万人に大きく減っています。

 2013年の総選挙では与党人民党の得票率は48.83%で獲得議席は68議席。野党救国党は44.46%で55議席でした。救国党や一部の国際選挙監視チームは、二重投票が数多く行われ選挙結果に影響を与えた可能性を強く指摘しています。より正確な有権者数で行われていれば2013年の選挙結果は変わっていたかもしれません。

 欧米諸国は野党第一党を国家転覆を図ったとして解党させ、国民の選択肢を奪う結果になったことに対し厳しい見方を示しています。アメリカの下院がフン・セン首相などに対する入国制限等の制裁法案を可決しました。ホワイトハウスは今回の選挙は「自由でも公正でもない欠陥的な選挙である」との声明を発表しています。またEUは関税の優遇措置の撤廃を検討中で、これが実行されると欧米への輸出依存度が高い繊維産業に大きな打撃を与えることになります。

 カンボジア和平は日本が平和構築と民主化支援に大きく関わり一定の成果を挙げた唯一のサクセスストーリーと言えるでしょう。しかし、国連が史上初めて暫定的な統治を行い、世界各国が協力して目指した理想に比べて現実はどうか。問題点については厳しく指摘し、進歩した点については評価する。それが、国連ボランティア中田厚仁氏、文民警察官高田晴行氏が勤務中に襲撃を受け殺害される犠牲を払いながらもカンボジア和平をリードした日本の責任だと思います。今回の選挙に公式見解を示さない判断をした日本政府の態度は責任放棄だと思わざるを得ません。

 投票日の夜は、日本から唯一駆け付けた国会議員である藤田幸久参議院議員をはじめ、カンボジアに数十年関わってきた方々と意見交換をしました。考え方は様々でも人生を懸けてカンボジアに向き合ってきた本気の思いを熱く感じ、これからも向き合っていく思いを新たにしました。


選挙監視員としてのIDカードを見せた上で、名前を書いて投票所に入ります。


投票所の警備を行う警察官の責任者にヒアリングを行っています。

↓投票に来た人々は慣れた様子で列を作っています。


↓開票状況を監視するため投票所に入ろうとすると、二つの投票所で警察官に止められました。投票所の責任者に確認した後、入場を許されますが、しばらく足止めをされました。監視活動について十分に理解されていなかったようです。


↓人民党系のNGOの選挙監視員たちは、無効票を数えていました。



投票結果は人民党の圧勝でした。この投票所では無効票は報告されていませんでした。


投票日の夜は、長くカンボジアに関わってきた仲間たちとこの国の民主主義について議論