情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

被疑者・被告人・保護少年は現代社会の不満のはけ口、スケープゴートと化している…

2008-01-02 09:48:33 | 適正手続(裁判員・可視化など)
 なんてタイトルにすると、それは「犯罪者」をかばいすぎだろうって反応があるわけだけど、刑事裁判の対象となる者、少年審判の対象となる者だけが社会の悪としてクローズアップされすぎているように感じる人は決して少なくはないはずだ。たとえば、防衛省の汚職事件、本来は、兵器などの発注システムそのものを根本的に変えなければならないにもかかわらず、守屋個人の資質のような報道のされ方をすることで、肝心な再発防止策について真剣に検討するべきだという風潮にはならない…。被疑者、被告人バッシングは、システム改善論から目をそらさせる。

 たとえば、いま、少年法を改訂して被害者が少年審判に立ち会えるような仕組みにすることについてパブリックコメントが募集されている(※1)。ちなみに、締め切りは1月4日なので、まだ出していない方は一度考えてみて下さい。

 しかし、本来、まず、開放するべきはこのような仕組みを導入するべきだと提案するに至った議論の過程ではないだろうか。これまでなぜ少年審判は非公開とされてきたのに、急に被害者への公開が「必要」になったのか…?今回は、審議会への諮問とパブコメ募集が同時並行で行われているため、審議会での検討の過程すら示されないままに、いきなり、パブリックコメントを募集された格好だ。そのような状況で意見を求められてもあまりにも情報不足ではないだろうか…。脱線するが、コメントできるだけの情報を開示しろっていうパブコメを送りつけて抵抗するのも一つの方法かも…。

 審議会での議論も匿名で議事録に残されることが多いから、どこまで責任をもって発言しているか分からない。まずは、そういうところを改善することの方が、個別の少年審判に被害者を立ち会わせることよりもよほど社会的な必要度が高いはずだ。

 そうそう、スケープゴートの話だった。

 たとえば、弁護士を主人公とするドラマ番組で、社会のシステム自体に矛盾があることをテーマとしたものが放送されたことがあるだろうか。労働組合と協力して企業の不当解雇に立ち向かう姿、薬害で苦しむ人の国家賠償請求事件に取り組む姿、警察の捜査費名目の官費流用問題に取り組む姿、そういう姿が放送されたことはないのではないだろうか。

 放送されるのは、犯罪がらみの事件だったり、悪徳商法だったり、暴力団がらみの民事事件だったり、ストーカーだったり、離婚だったりするのではないだろうか。

 そして、ワイドショーで取り上げられるテーマも同じようなものではないだろうか…。これでは、諸悪の根源は私、じゃなくて、犯罪者にある、ってマインドコントロールしているようなもんだ。

 本来、司法は、最高裁が人権の最後の砦と言われるとおり、多数派による政策が少数者の人権を不当に侵害するときに、いくら多数派が決めたことだからってそれはいかんぜよって異議をとなえる役割を持っている。

 その司法が被害者の人権というキーワードで、大きくゆがめられようとしている。このような改訂で得をするのはだれか。それは政府でしかない。

 少年法の改定で、被害者の関係者が審判に出席した後、インタビューをされる姿が報道される場面を想像してほしい。いかなる政府の不正が報道されていても、このインタビューによって、その不正に関する報道は小さな扱いをされることだろう。

 人は「テロリスト」としては生まれてこないように、「犯罪者」としても生まれてこない。それなのに、犯罪者バッシングをすることで、犯罪をしなければならないような社会的原因を改善することに目を向けることができなくなってしまう。

 そして、それだけでなく、自分が罰する側、権力の側に立ったように錯覚に陥り、政府を批判的に見ることができなくなってしまう。むしろ、こちらの効果の方が大きいかもしれない。

 「はてな」によるとスケープゴートとは、「集団自体が抱える問題が集団内の個人に身代わりとして押しつけられ、結果として根本的な解決が先延ばしにされること」だという。例として、「学校や学級自体が抱えている問題が、いじめられっ子をスケープゴートにすることによって一時的に先送りになること」、「企業であれば、自らの放漫経営が招いたツケを、膝詰めで納得してくれそうな『いい人』にリストラを迫るという事例」が挙げられている。

 政府であれば、自らの悪政が招いた庶民への負担増を、犯罪者という反論が許されない者を徹底的に叩くことによって、庶民の不満をそらし、悪政に目をむけさせなくする…ということではないだろうか。

 では、それをいかに改善するか…これはとても難しい。とりあえず、私たちが取り組んでいるのは、NPJにおけるいろいろな訴訟の紹介~弁護士の訟廷日誌(※2)~だ。社会のシステム上の問題点を追及したり、システム上の問題点から生じた損害の回復を求めたりする事件が約100件紹介されている。正月休みにぜひ、一度のぞいてほしい。
  

※1:少年事件でも、「犯人」つるし上げで、被害者感情を満足させようという姑息な手段…パブコメで批判しよう! http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/s/%BE%AF%C7%AF%BF%B3%C8%BD

※2:http://www.news-pj.net/npj/npj-cal.html
 








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5 コメント

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犯罪者バッシングの何処が利便性かってば… (田仁)
2008-01-02 18:47:22
何処からも反論が来ないか、来ても簡単に論破出来ると高が括れる点でしょ!!所詮刑務所に入ってるとか、罪を犯してる点そのものは揺るがないから。
「品格」論議と同じ、相手が客商売とか、雇用被雇用の関係とか、(兎角大局的な事に物申さないが)弱いと見た相手は徹底的に叩く!!!って、島国根性の発露で。
ま、「丸山をぶん殴りたい」とかも御同様で、政府の雇用・経済政策には噛み付かないが、相手になってくれそうな気の弱そ気な左翼は悪く言えるとか。
但し、水から入ってると蓋をしなくても茹っちゃう「茹で蛙」の例とかもあり、電通様が後ろに控えてる弱い者イジメの時間潰しに余りにもカマケ過ぎると、自分の首も何時しか絞まっちゃってるのが決定的な難点ですが。
経済政策的にも、時間的にも。
ツイにミスター円の榊原さんとか、凄い危機感煽る本とか出しちゃいましたね?あぁ~あ!せめて政権交代を10年か5年前かにやって居れば…。
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個人と社会の区別と関係 (東西南北)
2008-01-03 04:46:11
 この認識をがっちりさせることが学習・教育運動だと考える今年が始まりました。おめでとうございます。毎年、毎年の正論の繰り返しが情勢を正論へ近づけていく言論の力だと思います。個人と社会の区別と関係でいえば、個人を潰すのはいつも社会であるが、個人は社会を正す可能性を持っているということであり、ここに生まれながらに犯罪者ではない人間の真実がある。

 人間は「よくわからない存在」ではない。よくわからない社会を人間らしく科学していくのが人間である。よくわからない自然をよくわかるようにしていく自然科学の歴史のように、よくわからない社会をよくわかるようにしていくのが人間の力だ。
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Unknown (あゆ)
2008-01-03 22:07:19
刑事政策学で犯罪の遺伝子のお話ありました。遺伝子ないなら環境要因はおおきいですよね。遺伝子がもしあるなら、これは先天的だから本人に責任は問えませんよね。国や社会が治療とか面倒見ることになりません?

どうなんでしょう?
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本人を責めるだけでは問題は解決しない (ヤメ蚊)
2008-01-03 23:09:51
…のは間違いないですよね。まずは、収容人員の過剰を解決しないと先に進みそうにありません。
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あゆさんへ (東西南北)
2008-01-04 08:20:31
「遺伝子ないなら環境要因はおおきいですよね」

 大きいという量的な問題ではなく質的な問題です。人は生まれながらに犯罪者ではないのですから。完全に社会、経済、政治などの環境が人間を犯罪者にしたという因果関係が成立します。しかし、同じ環境でも犯罪者にならない「強い」人間もいるじゃないか?という俗論がありますが、それは人間が犯罪者になる程度は押しつぶされていないというだけであり、質的にはどの人間も社会、経済、政治が原因して人間性を押しつぶされているのです。個人を潰すのはいつも社会であるが、個人は社会を正す可能性を持っているということであり、ここに生まれながらに犯罪者ではない人間の真実がある。

「遺伝子がもしあるなら、これは先天的だから本人に責任は問えませんよね。」

 犯罪の責任は行為にあるのであり、人間の存在自体にあるのではないですよ。ですから、犯罪が遺伝するという悪質な観念を仮定した場合でも、人間の行為が犯罪であれば責任はあります。が、この場合に問題となるのは、犯罪の遺伝というものが特殊な個人にだけある特質なのか、それとも人類に共通する特質なのか、です。後者であれば、何を犯罪とするかはその時代の社会の合意、多数しか基準はなくなります。治安維持法も合法だとあります。前者であれば、犯罪を実現した場合、刑務所へ隔離して責任をとって貰うことにありますが、もちろん、医療的な治療が必要になるか、または、無期懲役で死ぬまで隔離かのいずれかであり、死刑は必要性がないですね、隔離で社会の安全は保障できるからです。
 
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