情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

「市場原理」を持ち込まれた時点で負けだった~弁護士会の針路はいかに…日弁連会長選挙再投票

2010-02-22 06:44:03 | メディア(知るための手段のあり方)
 何度か書いた日弁連会長選挙、再投票は3月10日に行われることとなった。一番の争点は、人数も含めた法曹養成制度のあり方だろう。庶民派の宇都宮候補は、年間の司法試験合格者を1500人とし、ロースクール卒業資格を与える予備試験制度も機能させるようにしたいと言っている。これに対し、執行部派の山本候補も増員へ歯止めをかけざるを得ないじことを意識したためか、2000人よりも減らすと言っているようだが、どうもはっきりしないし、予備試験制度についても明確なことを述べていないように思う。

 個人的には、現在、ロースクールに通っている学生も多くいる中、急激な制度改革は困難かもしれないが、現状のロースクール制度をそのまま放置することもまた責任を果たさないことになるのではないかと思う。

 そもそも、予備試験ひとつとっても困難な問題がある。

 予備試験とは、法科大学院修了者と「同等の学識及びその応用能力並びに法律に関する実務の基礎的素養を有するかどうかを判定することを目的とし、短答式及び論文式による筆記並びに口述の方法」により行われる(司法試験法5条)。

 ロールスクールが年間100万円以上の授業料がかかること、したがって、3年間行けば、生活費も含め、600万円以上の負担となることから、そのような負担ができない人にも門戸を開こうということで設けられた制度だ。

 したがって、この予備試験に合格した人は、ロースクール生と平等に司法試験を受けることとなる。

 そうすると、社会人や金銭的に余裕のない人はこの予備試験を真剣に受験することになるだろうし、それなりのレベルの受験生が出てくるはずだ。

 そうすると、本番の司法試験では平等に採点するのだから、場合によっては、予備試験合格者の方がロースクール卒業生よりも合格率が高いなんてことが起きる可能性もある。

 そうなったら、ロースクールで高い金を払うよりも予備試験を受けて合格しようとする人、早めに予備試験を受けて早めの合格を目指す人が出てくるだろう。

 予備試験合格での受験を開始したら、5年間はロースクール卒業資格では受けられないという歯止めはかけてある(3回不合格した再度資格を得なければならない)。
 
 ところが、たとえば、大学2年で予備試験に合格すれば、3年、4年、ロースクール1年、2年、3年のうち3回受験のチャンスが得られるうえ、もし、すべてで不合格で会っても、翌年はロースクール卒業生としての受験資格が得られる。

 たとえば、大学4年で予備試験に合格したら、ロースクール1年、2年、3年、卒1、卒2のうちの3回受験できる。とすれば、卒1、卒2の2回は受験機会を残したいとしても、ロースクール生2年での受験で合格なんていう人も出てくるだろう。

 そうなったとき、ロースクールはいったいどういう位置づけがなされるようになるのだろうか…。

 考えれば、ロースクールは合格者増ありきで考え出された制度だった。従来の司法試験では、研修所が小さくて、合格者増に耐えられない。そこで、実務的な勉強をロースクールで行えば、研修期間が少なくて済むため、小さい研修所でも回せるというような話だったと思う。

 当時、多くの心ある弁護士が疑問を呈した。

①そもそも、市場主義によってよりよい弁護士市場が出現するなんてありうるのか?
 
 これって、あなたが弁護士に依頼するときのことを考えれば、分かりやすい。「費用は安い方がいいから、レベルの低い弁護士でいい」って思いますか?思わないでしょう。自分の頼む弁護士はベストであってほしい、だれもがそう思う。市場原理うんぬんが通用するのは、値段に見合った物やサービスが得られることで満足をするからです。例えば、レストラン。安けりゃそれなりの味だし、最高の味を求めれば、値段だって最高になる。ところが、弁護士はそうはいかない。弁護士だけではない。医師だってそうだし、タクシーだってそうだ。同じサービスが期待される分野では、違う値段にしても、それが適正な競争を生み出してはくれないのだ。違う値段のタクシーがあったら、だれでも安い方に乗る。それは同じサービスだと分かっているから…。そうすると、その市場での市場原理とは、労働者搾取が激しいものが勝つという原理…。


②当時年間合格者を3000人にすると言われたが、そんなにニーズがあるのか?

 これがありえなかったことは、いまの若手弁護士の状況を見れば一目瞭然。いまは過払いバブル(サラ金の過払い金による報酬バブル)が残っているが、法改正によって過払いが発生しなくなっており、これが一段落したら、若手はどうやって食っていくのだろうか?
 弁護士は、月額事務員に40万円(税金やボーナスなど含む)、家賃に20万円、書籍購入など諸経費に30万円、自分の給料に30万円としても120万円、それに所得税などを考慮すると、月額160万円は収入がなければならない。月に22日勤務するとして、最低でも1日8万円は収入が必要だ。つまり、時給1万円。家賃が払えないと思うと、ちょっと苦手だなって思う分野でも無理して受けるかも知れない。そうなれば、被害をこうむるのは依頼者だ。リーガルエイドを充実させて弁護士を依頼できない層からの依頼であっても経費と見合うだけの収入が得ら得るような仕組みをつくらない限り、数年後、弁護士の不祥事が多発するだろう。


③増やすにしてもロースクール制度ではなく、当時の司法試験のままでよいのではないか?つまり、研修所を増やせばよいはず。そうしないと、合格者が多すぎるということになっても、ロースクールを簡単に潰すことはできないから、調整ができなくなるのではないか?

 これも現にそうなっている。簡単には減らせない。しかも、3000人にまで増やすという当初の予定までもは増やせないために、ロースクール生に負担がかかっている。つまり、
合格率が平均で3割をきり、5割を超えたところは、一ツ橋、東京、京都の3校のみという悲惨な状況だ。



 今の状況でよいと考える弁護士がいたら、それは、ロースクールでたっぷり金をもらっている教授(制度に対する皮肉です。真面目に取り組んでいる方が多いことは知っています)、あるいは弁護士を安く使える大事務所の経営者、大企業だけではないか?

 改善が必要なことを踏まえた上で現実に見合った解決方法を選択することが望まれる。

 改善が必要なことを直視しないままに現実を無視しない解決方法を、と言われても、それでは、本気で改善しようとしているかどうか疑わしい。

 合格者数問題は、弁護士の利権の問題ではなく、市民の司法サービスのあり方の問題だ。

 弁護士だけでなく、広く議論をするべきではないだろうか?





 
 


 

 



【ツイッターアカウント】yamebun


【PR】






★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
★「News for the People in Japanを広めることこそ日本の民主化実現への有効な手段だ(笑)」(ヤメ蚊)
※このブログのトップページへはここ←をクリックして下さい。過去記事はENTRY ARCHIVE・過去の記事,分野別で読むにはCATEGORY・カテゴリからそれぞれ選択して下さい。
また,このブログの趣旨の紹介及びTB&コメントの際のお願いはこちら(←クリック)まで。なお、多忙につき、試行的に、コメントの反映はしないようにします。コメント内容の名誉毀損性、プライバシー侵害性についての確認をすることが難しいためです。情報提供、提案、誤りの指摘などは、コメント欄を通じて、今後ともよろしくお願いします。転載、引用はこれまでどおり大歓迎です。


最新の画像もっと見る