情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

グリーンピース「横領」鯨肉「窃取」事件は最高裁基準によれば無罪~市民の知る権利を軽視してはならない

2010-02-17 06:29:38 | メディア(知るための手段のあり方)
 グリーンピース「横領」鯨肉「窃取」事件で参考とすべき国内判例としては、沖縄密約事件最高裁判決が挙げられる。この判決は、報道機関が形式的な違法行為を行った場合に免責される余地があることを認めた重要な判例だ。その内容は次の通り。(※なお、グリーンピースとシーシェパードは違う団体であり、シーシェパードの行為についてグリーンピースは批判的な立場に立っていることを書いておきます。この間、ある人とグリーンピースの刑事事件について話したら後日、先日のシーシェパードの話は面白かったというメールがきてびっくりした。マスメディアの印象って怖い…)


「報道機関の国政に関する報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、いわゆる国民の知る権利に奉仕するものであるから、報道の自由は、憲法21条が保障する表現の自由のうちでも特に重要なものであり、また、このような報道が正しい内容をもつためには、報道のための取材の自由もまた、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値するものといわなければならない。

 そして、報道機関の国政に関する取材行為は、国家秘密の探知という点で公務員の守秘義務と対立拮抗するものであり、時としては誘導・唆誘的性質を伴うものであるから、報道機関が公務員に対し秘密を漏示するようにそそのかしたからといって、直ちに当該行為の違法性が推定されるものではなく、報道機関が公務員に対し根気強く執拗に説得ないし要請を続けることは、それが真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為とされるべきである」


 まず、報道機関の判断がグリーンピースの事例に適用されるかどうかという問題があるが、この点は、専門的なNPOが社会に告発するために行った行為なので、適用されると考えることに異論はないと思う。

 最高裁のポイントは、

①真に報道の目的からでたもの
②その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限り

の二つ。

 このうち①は告発目的だったのであるから、本件でも妥当する。

 問題は②だ。この点、手段の相当性については、「必要性の程度および行為の方法・態様がもつ危険性の程度を手がかりに判断」(内藤謙『刑法講義総論(中)』(1986)731頁)するとされている。

 つまり、手段を取る必要性の大きさと手段の危険性の大きさを総合的に考えるということだ。

 必要性については、業務上横領を告発するには、横領された鯨肉の現物を確保することが最も証拠としての価値が高いうえ、荷物が自宅に配達されてからでは、その証拠を確保することは困難となる。しかも、業務上横領の内容は組織的継続的なもので、税金が投入された事業から億単位での不正が行われている可能性があるというもので、その点からも必要性は大きい。

 他方、手段の危険性については、現場となった運輸会社のトラックターミナルは、日中は門が大きく開扉されており、荷物を送ろうとする者や荷物を受け取ろうとする者も出入りできる場所であるうえ、グリーンピースのメンバーは一人で日中、従業員が複数いるなか、誰からも問いただされることなく、鯨肉入りの段ボールを確保した。したがって、建造物の平穏が現実に害された事実はない。
 また、横領された鯨肉の入った段ボール箱を継続的に追跡し、伝票で常習者であるとされる者にあてられた荷物であることも確認した上で、これを確保しており、他の無関係の箱をもってきてしまう可能性も皆無であり、手段に伴う行為の危険性は極めて小さかったといえる。

 したがって、最高裁の判例に従ってもGPメンバーの行為は、「実質的に違法性を欠き正当な業務行為とされるべきである」こととなる。

 もっとも、最高裁は、手段の相当性について、

 「取材の手段・方法が贈賄、脅迫、強要等の一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、その手段・方法が一般の刑罰法令に触れないものであっても、取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙する等法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合にも、正当な取材活動を逸脱し違法性を帯びるものといわなければならない」

 と判示しており、一般の刑罰法令に触れる場合は相当性を欠くと判断しているかのように思える。

 しかし、本件の場合は、情報を得るためにどうしても必要な行為、すなわち、情報=横領された鯨肉=を確保する行為及びそれに伴う構内立ち入り行為そのものの違法性が問題とされているのであり、刑罰法令に触れるから即違法性があると判断するのでは、最高裁のような違法性についての検討は不要となり、形式的に法に触れる行為はただちに違法だとすればよいことになる。それでは妥当な結論が導けないからこそ、最高裁は違法性について検討をしているのであるから、本件でも、単に法令違反だから違法性が失われることはないとすることはできない。

 現に、民事裁判でさえ、形式的な窃盗行為が相当性あるとされた事例もある。

 信用金庫の職員が信用金庫内の不正行為を摘発するために信用金庫が管理している顧客に関する信用情報等が記載された文書を信用金庫の許可なく業務外で取得したために、懲戒解雇された事案において、

 第2審の福岡高裁は、

 「印刷した文書及び写しは、いずれも被控訴人の所有物であるから、これを業務外の目的に使用するため、被控訴人の許可なく業務外で取得する行為は、形式的には、窃盗に当たるといえなくはない」

としたうえで、しかし、

「控訴人らが取得した文書等は、その財産的価値はさしたるものではなく、その記載内容を外部に漏らさない限りは被控訴人に実害を与えるものではないから、これら文書を取得する行為そのものは直ちに窃盗罪として処罰される程度に悪質なものとは解されず、就業規則75条2項4号には該当しないというべきである」(平成14年7月2日判決/判例タイムズ1121号162頁)

と判示している。

 
形式的に法に触れればすべて違法という考え方を最高裁ですらとっておらず、その基準に従えば、本件が無罪となる方向で判断されるべきであることは以上のとおり、はっきりしていると考える。

3月11日には、欧州における表現の自由研究の第一人者ホルフォーフ教授が来日し、欧州人権裁判所における基準と本件における当てはめについて、法廷で証言する予定だ。

裁判所は、ぎりぎりの場面での市民の情報取得行為の違法性について、正面から検討する姿勢を示している。歓迎するべきことだ。

冒頭の図は、http://www.greenpeace.or.jp/campaign/oceans/whale/t2/whalecircle_htmlより

【追記】意味なくタイトルに実名を入れてトラックバックされても困るんだよね~(苦笑)

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