情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

道警幹部に裏金関係で失われる社会的評価があるのか~対道新名誉毀損訴訟判決を読もう!

2009-05-07 00:42:28 | メディア(知るための手段のあり方)
 日本のメディアの悪いところは、抜かれたネタについて正当な評価をしようとしないことだ。何度か取り上げたように(末尾関連記事掲載)、道新が道警の裏金疑惑を書いていた時、道警の反撃が始まったが、結局、道内の、いや、日本のメディアは、道新裏金取材班を見殺しにした。つけあがった道警は、当時の総務部長が、道新取材班の著作「追及・北海道警『裏金』疑惑」(講談社文庫)及び同班らの共著「警察幹部を逮捕せよ!泥沼の裏金作り」(旬報社)について、名誉毀損で訴えた。まぁ、逆ギレと評価するしかない暴挙だ。まさか、こんな裁判で道警本部総務部長側が勝つなんて思ってもいなかったが、すでにご存じのとおり、4月20日、【竹田光広裁判長は「記述は原告の社会的評価が低下しないとはいえない」と述べ、執筆した記者2人の責任も認めて被告側全員に計72万円の支払いを命じた】(朝日 http://www.asahi.com/national/update/0420/TKY200904200127.html)。

 この判決の重要部分が、http://www.geocities.jp/shimin_me/hokkaidou1.htm#28 に掲載されているので、是非とも、必ず、何があろうとも、一読して欲しい。


 まず、名誉毀損だとしている部分の些末さに驚くだろう。訴えた対象の本は、道警での捜査費名目の裏金について解き明かした過程などを書いたものだが、裏金自体を問題にしているわけではない。些末なやりとりのみで、しかもわずか4つだ。

 「その時、総務部長は本部長から『よくもこんな下手をうってくれたな』と叱責されたらしい。」(本件記載A)

 「そして,ほどなく,道警内部からはこんな話が伝わってきた。『佐々木総務部長が,例の電話の件で,芦刈本部長に激しく叱責されたようだ。なにを下手なことやっているんだ,つて』」(本件記載B1)

 「この答弁を聞いた瞬間,取材班のひとりは,三カ月ほど前の疑惑発覚直後のことを思い出していた。そのとき,佐々木総務部長は,記者を『身内』とでも思ったのか,こう語ったのである。『わかるでしょ。理解してよ』」(本件記載B2)

 「その後,四月中旬になって,佐々木氏は道警本部庁舎内で偶然に出会った取材班の記者にたいし,こんな言葉をかけてきた。『いやいやいや,いったい,どこまでやられるかと思ったよ』もちろん,笑顔だった。」(本件記載B3)

 これについて、判決がどう判断しているか、よく読んでほしいが、イントロとして、AとB1についてどう書いているか少し紹介しよう。

 判決は、

【本件記載Aとその前後の記載部分を,本件記載B1とその前の記載部分をそれぞれ併せて読めば,いずれも,読者は,原告が道警の経理について調査をさせないよう道幹部に働きかけをしたが,その行為が報道されてしまい,そのことについて,芦刈本部長から叱責されたと理解するものと考えられる。
 原告が,道警の経理問題について調査されることを防ごうと道幹部に働きかけをするのであれば,その行為の性質上,マスコミ等に知られないようにすべきことは容易に推察できることから,そのような働きかけをしたと報道され,上司である芦刈本部長から叱責されたと記載された場合,原告の対応が不十分なものであったという印象を読者に与えるものと考えられる。
そうすると,組織において,部下が上司から叱責されることが日常的にあり得るからといって,原告の社会的評価が低下しないとはいい難い。】

という。

 しかしね、働きかけをしたこと自体は、名誉毀損の訴えの対象になっていないんだよ、ベイビー。

 ということは、働きかけをしただけで充分、社会的評価は低下しており、それを上司から叱責されたかどうかなんてのは、二の次でしょう。「働きかけをしたことを書かれたことは名誉毀損にはならないが、叱られたことは名誉毀損になるぞ~」って、理解できる?

 例えば、「宿題を忘れたから先生に怒られました」という記事のうち、社会的評価を低下させるのは、「宿題を忘れた」であって、「先生に怒られた」という部分は、もう、落ちた社会的評価に少し味付けを加えるに過ぎない…そう思いませんか?

 さらに、その後、判決は、このAとB1が真実であるかどうかについて、判断する際、取材した記者が叱責があったことを多数の道警関係者から聞いている旨証言したにもかかわらず、

【原告(=総務部長)が,平成15年12月当時に総務課に所属していた職員全員と警務課に所属していた幹部全員に対して,芦刈本部長が原告を叱責したという話を聞いたことがあるかどうか,被告佐藤(=道新記者)からその点に関する取材を受けたことがあるかどうかなどを尋ねたところ,いずれも,叱責がされたという話は聞いたことがなく,取材も受けていないなどと回答した】

ということをもって、真実ではないと認定した。

 そりゃ、元総務部長から、叱責の話を知っているか、取材を受けたか、と聞かれて、「は~い、知っていま~す。取材されてそのとおり答えましたよ~」と答える部下がいるはずがない。普通に考えて、そんなことを言ったら、道新を打ち負かし、怖いもの知らずとなった道警の目の届くところで生活することはできないだろう。


 しか~し、判決は、

【原告本人からの問い合わせに対し,同人に不利益なことを新聞記者に話したことを認め難いことを考慮しても,原告自らが周囲に話をしていたというのに,原告が聴取した全員が叱責に関する話の存在すら否定するというのは考え難い。
 また,被告佐藤らが取材をしていたのは,道警における不正経理の存否等についてであって,たとえ不正経理と関連する事情であったとしても,原告が芦刈本部長から叱責されたということが重要なものとは考え難く,被告高田(=取材班責任者)及び同佐藤も報道するような事実でないことを認めていることなどからすると,他の取材を行うついでであったとしても,このような事情について,約20人という多数人から具体的に裏付けを取ったという点もやや不自然である。
 そして,被告佐藤の陳述書には,叱責がなされた場所が総務部総務課のある大部屋の本部長室前の共用スペースであったなどという記載部分があるところ,上記認定事実記載のとおり,本部長重の出入り旦旦近には,複数の秘書係の職員がおり,かつ,総務課職員が勤務する部屋ともつながっていたと認められるから,そのような他の職員が容易に見聞きできる場所で,立場上道警の最高位にある芦刈本部長が,それに次ぐ地位の総務部長であった原告を叱責するということは不自然なものといわざるを得ない】

という不自然な判断をしている。

 こんな認定をしたら、口封じをしたもん勝ちだろう。あきれて物も言えないだろ、イェ。

 しかしナ、こんなあきれ果てた判決をちゃんと批判してるマスメディア(創などの雑誌を除く)があるとは聞いていない。どうなんだ。そのことがもっとあきれるぜ。警察が組織防衛に走るのはある意味仕方ない。だから、本当はオンブズマンなんかで監視する仕組みをつくらなきゃいけないんだ。でも、報道機関は、監視するのが仕事だろう。なぜ、この判決を批判しないんだよ~。



「本当なんだ~!大筋でホントなんだ♪」

【関連記事】
北海道新聞が危ない…ついに道警に謝罪か?怒れ560万道民 (http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/5c8e5e68a2ba8afa0056241c05aa9201)

道新謝罪記事掲載~ (http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/6cc4f111f6ce1c8743a6663c754c0a85)

道新が「自殺」した経緯~労働組合の報告から (http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/3f32cbdcb2dae5d7b4be3749c6a14efc)

道新が「自殺」した日~パート2 (http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/d963ecf4bef37d57dcc1c61655569df8)

北海道新聞が警察に屈した日~共謀罪という武器を手にすることになるのは… (http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/c8ae9fbb5c2740826e6c8bb821038954)

道新よ,立ち上がれ~裏金疑惑関連で警察側が名誉毀損で提訴! (http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/302fe75d333a44efd3273ca01e9b816e)

道警VS道新の名誉毀損訴訟に,大谷昭宏,宮崎学両助っ人乱入~21日第1回弁論予定,見逃す手はない (http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/cd792f270b1173b73dc08fa62dc2884c)

大谷氏ら逆提訴~&~北海道はこれでいいのか!『道政・道警・裏金報道』を考える集い (http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/af754572f60473129b4db5eb81d675a9)

  


★キャンペーン中「私は、民主党が導入しようとしている政治家の相続税脱税防止規定(世襲防止強力対策)に賛同します。民主党がこの規定を実効的なものにすることを期待します」
 

 








【PR】







★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
★「News for the People in Japanを広めることこそ日本の民主化実現への有効な手段だ(笑)」(ヤメ蚊)
※このブログのトップページへはここ←をクリックして下さい。過去記事はENTRY ARCHIVE・過去の記事,分野別で読むにはCATEGORY・カテゴリからそれぞれ選択して下さい。
また,このブログの趣旨の紹介及びTB&コメントの際のお願いはこちら(←クリック)まで。なお、多忙につき、試行的に、コメントの反映はしないようにします。コメント内容の名誉毀損性、プライバシー侵害性についての確認をすることが難しいためです。情報提供、提案、誤りの指摘などは、コメント欄を通じて、今後ともよろしくお願いします。転載、引用はこれまでどおり大歓迎です。


最新の画像もっと見る