情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

犯罪を暴くための調査はどこまで許されるのか~グリーンピース事件を事例として

2009-03-24 01:28:46 | メディア(知るための手段のあり方)
 今日は、青森出張だった。行きの飛行機はタッチダウン寸前に速度を増しゴーアラウンドの後に、再度着陸を試み、成功した。この段階で、成田空港のMD11機の事故を知らなかったため、割と脳天気に様子を見守っていたが、乗客の多くはMD11機の惨事を知っていたらしく、かなり肝をつぶしたようだった。知らないってことは、強いこともある…。

 もちろん、それは冗談で、知っていれば、防御姿勢をとるなどして、仮に事故が起きても身を守ることができたかもしれないわけで、知ることがとても大事であることは基本的には間違いない。

 でっ、青森。そう、グリーンピースの「横領」鯨肉「窃盗」事件の公判前整理手続きの2回目。これも「知る」ためにしたことがテーマとなっている。

 現在のもっとも重要な争点は、鯨肉が横領されたかどうかを裁判の争点にするか否か、だ。

 法的にはいろいろな議論があるところだ。不法領得の意思がないと主張する場合、正当行為を主張する場合、憲法21条の保障下にあるために違法性がなくなると主張する場合、国際人権規約の情報収集の自由の保障下にあるため無罪となると主張する場合、それぞれで、鯨肉が横領されたこと自体がどう関わってくるか、非常に面白い議論になる。

 ここでは、その議論を紹介するのではなく、メディアにとって、横領の有無を争うことが非常に重要な意味を持つことに触れておきたい。要は、実質的に、横領の有無を争点とする必要性が大きいということだ。

 まず、ジャーナリストであれば、政府や税金がからんだ重大な不正を暴くために一定程度法に触れるようなことをする必要があることは理解してもらえるはずだ。国家的犯罪を暴くためには、少々、無理をしなければならないこともある。そうしなければ、政府が隠そうとしていることを暴くことはできない。たとえば、内部告発者の話を裏付けるために、資料を見たいと思う。内部告発者がその資料をとってくることは形式的には窃盗に当たりうるし、それを促したジャーナリストも教唆犯とされうる。

 このように、一定程度法に触れる行為であっても有罪とされるべきではない場合もあるわけだ。もちろん、その前提として、実行者が、重大な不正があると信じるだけの事情があったことが必要となるのは当然だろう。実行者の勝手な思いこみで、法に触れるようなことをしてもその行為が救われるべきだとは思えない。

 上のグラフの四角い部分が、不正があると信じるだけの事実が行為時点であったと裁判所で認定された場合、ということになる。

 そして、丸い部分は、不正が真実であると裁判所で認定された場合だ。多くは、不正があると信じるだけの事実が行為時にあったと裁判所で認定された場合と重なるが(黄緑)、はみでる部分がある(緑部分)。

 この緑の部分がどういう意味を持つか少し考えてほしい。


 この部分に含まれるケースは、勝手な思いこみで取材したら結果的に真実だった、という場合もあろうが、現実に問題となるのはそういうケースではない。



 この緑の部分が実際に問題になるのは、たとえば、取材源を明かすことができないため、不正があると信じるだけの事情があることを裁判所に明らかにすることができないけれども、実際に不正が真実であったというようなケースである。

 取材源の秘匿は記者にとって最も優先すべきことである。したがって、自らが裁判で裁かれようとしていても、取材源を明かせない場合もあろう。

 しかし、取材源は明かせなくても、別の手段で不正が真実だと証明することができる場合があろう。

 そう、その場合が緑の部分にあたる。この部分こそが、重大な不正を暴く場合に記者が直面する現実だ。

 したがって、不正が真実であるかどうかが裁判の争点になるかどうかは、記者全体にとって非常に重要な意味を持っているというわけだ。

 このグリーンピースの事件は、実行者がNPOの職員だった。しかし、この職員は、極めてジャーナリスティックな目的と手段で証拠の収集にあたった。本件は、ジャーナリストにとっても、重大な先例となるだろう。

 少なくとも、このような情報収集が簡単に有罪認定されるようでは、不正を暴くというジャーナリストの社会的役割を果たすことができなくなってしまう…そう思う記者が多いはずだ。特に、不正が真実であったかどうかを判断することなく、裁判が終わったら、何のために、危険を冒したのかと悔やまれるだろう。

 この裁判はそういう意味で非常に重要な意味をもっている。すべてのジャーナリストが、その本来の役割を果たすことができるようにするために、この裁判を支援されるようお願いします。


 ※弁護側が提出した文書は、  http://www.greenpeace.or.jp/press/reports/pd20090323oc_html のサイトにあります。


 


 




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