情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

天下り防止に効く「公職任命コミッショナー制度」~朝日オピニオン・社会新報掲載記事の紹介

2009-10-01 06:21:37 | そのほか情報流通(ほかにこんな問題が)
 天下り防止策の切り札といえる英国の公職任命コミッショナー制度、ぜひ、多くの方に知っていただきたく、朝日オピニオン欄に今年6月掲載された紙面を掲載するとともに、社会新報に掲載された小論を掲載します(一部変更)。ぜひ、流通を!

マイニュースジャパンのこちらの記事もどうぞ→官僚主権の象徴「審議会」改革で「公職コミッショナー制度」を導入せよ:http://www.mynewsjapan.com/reports/1120


「英国の公職任命コミッショナー制度をただちに日本でも採用するべし」

 人事を公正に行うことの重要性
 先日、日弁連がはじめて表現の自由をテーマとする人権大会のシンポジウムの調査をするために、韓国を弁護士15名で視察した。その際、韓国国家人権委員会を訪問してきた。この委員会は、日本でも検討されている人権擁護機関のことだ。日本では、独立性に問題があるとして設置に至っていないが、韓国では、行政が行った人権侵害及び差別のみを対象とする機関として設置され、キム・デジュン、ノ・ムヒョンという2代にわたる民主的大統領のもと、大きな成果を上げてきた。
 しかし、リ・ミョンバク新大統領のもと、民主的な制度がどんどん弱体化されており、国家人権委員会も事務局の人数が4分の3に削減されるなどの痛手を被っている。視察団の質問に回答した常任委員のYoo Nam Young氏は、同委員会の弱点として、①憲法上の機関となっていないことのほか、②委員の選考が与党枠9人、野党枠2人と決まっており、政権交代すると、任期切れの委員が次々と与党寄りの委員になってしまうことを上げていた。人選をいかに行うかということが、組織の機能や独立性を維持するうえで、非常に重要なことを改めて実感させられた。
 
 日本の現状
 日本でも、政府が任命権限を握っている組織が本当に市民のために機能しているかというと非常に心もとない。その典型例が審議会だろう。政府が新しい政策を諮問する審議会のメンバーを政府が自ら勝手に決めている。それでは、政府の望むとおりの結果が出るのは当たり前だ。
 そもそも、審議会は法律によってのみ設置することができたが、1983年に国家行政組織法が改悪され、制令によって設置することが可能となった。当時はこのこと自体が民主主義に反するという議論もあったが、もはや、そのような議論をする者もいない。
 せめて、この御旗となる審議会で、市民を優先した検討がなされればいいのだが、実際には、審議会のメンバーには、関係団体の代表や御用学者、官僚OBが指名されており、政官業に都合のいいものになることが多い。正論を言った学者が審議会からはずされたなどという話も耳にする。審議会システムはこれまで政官業の隠れ蓑として利用されてきたといえよう。
  この結果、気づいたらいつの間にか、市民のためにならないような法律や法案ができてしまっていたということが増えてきた。一連の規制緩和策は詳細が分からないまま次々と法律になっていった。その一つがいま話題の派遣法だ。労働者を使い捨てすることができるようにすることを市民が望むはずもない。審議会方式でなければ、成立は難しかったのではないだろうか。裁判員法も成立までに市民がどれだけのことを知らされていただろうか。少し前の教育法改悪、憲法改正国民投票法案なども市民から本格的な反対運動が立ち上げったときには、すでに法案の形はできていた。その時点で、白紙に戻すとか、抜本的修正を行うことは極めて困難である。審議会の問題点はだれしも感じているはずだ。
 この問題は審議会だけの問題ではない。本来、政府からの独立性が求められる機関についても政府の露骨な介入が行われることがよくある。NHKの経営委員会の次期委員長として、現職の総理大臣の知人の名前が事前に取りざたされ、その通りの結果となったのは、つい、2年前のことだった。委員長は、委員の互選で決めることになっているのに、委員にもなっていない者の名前が委員長として決まったかのように報道された。少なくとも委員の過半数が、総理大臣の意向に逆らえないということだ。
 ところが、これまでは、「では、諸悪の根源の政府による人選を変えよう」という動きにはならなかった。その理由は、どう改善したらよいかが明確ではなかったからだろう。ところが、実は、英国では、そのような弊害をなくし、実力本位の人選を行うための制度がすでに確立されている。公職任命コミッショナー制度だ。詳しくは、ぜひ、拙著「審議会革命 英国の公職任命コミッショナー制度に学ぶ」(現代書館)をお読みいただきたい。というのも、拙著には、同制度の内容の紹介だけでなく、同制度の詳細な綱領の原文をそのまま日本語に翻訳したものが掲載されており、日本で同様の制度設計を考えるうえで役に立つはずだからである。

 公職任命コミッショナー制度の概要
 一言で、この制度を紹介すると、その特徴は、①公募と②第三者が関与することによる透明性の確保の2点だ。すなわち、公的な法人において大臣が任命する長などの人事(省庁の役人を除く)について、公募制とするとともに、第三者的な立場の「独立した査定者」が書類選考や面接に立ち会い、透明度を高めることで、実力本位の採用を可能としているのだ。
 
公職任命コミッショナー(Commissioner for Public Appointments)とは
 公職任命コミッショナーとは、大臣が特殊法人などの公的機関の代表者や役員を任命する際、任命が公正に行われるように監督することを職務としている。1990年代半ばの保守党政権時代に、特殊法人などの公的機関に与党のコネで任命される事例が多かったため、世論の非難を浴びた。そこで、1994年に設置された公職倫理基準委員会(Committee on Standards in Public Life)が、提案した勧告に従って設置されることとなった。

公職任命コミッショナーの組織
 公職任命コミッショナーを支える組織は、公職任命コミッショナー事務所(the Office of the Commissioner for Public Appointments )と呼ばれる。
  具体的に、任命をチェックする役割を果たすのは、「独立した査定者」(an independent assessor)と「独立した監査者」(an independent auditor)だ。
  前者は、実際の任命手続に直接関与して透明性を高め、後者は、任命手続終了後、手続が適正に行われた否かをチェックする。

 
対象となる公的機関
 公職任命コミッショナーが、権限として対象とする公的機関は、公的医療機関を運営するトラスト(health bodies)、省外公的機関(non-departmental public bodies。独立行政委員会、特殊法人、審議会・諮問委員会など)、公営企業(public corporations)、国営化された企業( nationalised industries)、水道・ガス・電気などの公益事業を監視する公的消費者機関(the Utility Regulators)などである。
  英国の公的機関は、当然、日本とは異なるため、上述した組織名が必ずしも日本のものと一致するわけではない。
  しかし、おおざっぱにいえば、省庁以外の公的機関で、大臣が任命する人事の多くが公職任命コミッショナーの対象となる。
  日本でいえば、独立行政委員会、独立行政法人、公営企業、第3セクター、諮問委員会などがその対象となる。以下、公職任命コミッショナーの権限内の公的機関を「対象公的機関」と総称することとする。
  対象公的機関としては、分かりやすいのは、放送・通信に関する独立行政委員会であるOFCOM(英国情報通信庁)、英国公正取引庁(Office of Fair Trading)、BBC経営委員会(BBCトラスト)などであろう。

  対象となる任命
  公職任命コミッショナーが対象とする人事は、「対象公的機関」において、大臣が任命するポストに関するものだ。
  すなわち、それら機関の「代表者」(chair)及び機関を運営する役員会あるいは理事会(英語ではboard)のメンバーである。以下、代表者は「代表者」と呼称し、メンバーは「役員」と呼称することとする。
  2007年度には、2621件の任命が公職任命コミッショナーの対象とされた。

「任命要領」(the Code of Practice)と「7つの原則」
  対象公的機関では、任命手続は、公職任命コミッショナーが定めた実施要領(the Code of Practice)に従って行われる。以下、この実施要領を「任命要領」と呼称する。
  この任命要領は、以下のとおりである。
 ①最終的な任命は大臣によってなされること
最終的な任命は大臣によってなされるため、任命基準と手続について当初から大臣と協議しておかなければならない。いったん、手続が始まったら、任命基準は変更してはならない。

 ②実力本位で選考・任命されること
実力本位は大原則である。しかし、この大原則が日本では軽視されている。
  実力本位による選考が、多様性をもたらすとされている。

 ③独立した詳細な調査がおこなわれること
独立した査定者が関与しない限り、任命することは許されない。
独立した査定者は、公職任命コミッショナー事務所でのガイダンスセミナーを受け、同事務所作成のハンドブックや任命手続におけるチェックリストを受けとり、それらに従って、業務を行わなければならないとされている。

 ④機会均等原則が遵守されること
全ての手続において、性別、人種、年齢、障害、宗教、婚姻状態、性的指向、性転換、出身コミュニティなどで差別されてはならない。

 ⑤清廉潔白さが必要であること
任命された公職者が公務と利益相反することがないように留意することとされている。利益相反か否かを重点的にチェックするべきケースとして、①株式を有するなど公的機関と債権債務関係がある場合、②省庁が専門分野から積極的に採用した場合、③特定の集団・組織に所属している場合、④過去及び将来の報酬として任命されたと受け止められうる場合、⑤コネクションによるものと考えられる場合を挙げている。

 ⑥手続が公開され、外部から見えやすくなければならないこと(公開性と透明性)
 市民の信頼は、公開性と透明性にかかっていると考えられている。そこで、口頭のやりとりを含む全ての過程が文書化され、2年間保存されることとされている。

⑦手続は、ポストの重要性に比例して厳しくされること(比例原則)
 この原則に沿って、上位レベル、下位レベルの2段階の機関に分けて適切な手続が用意されている。しかし、注目される任命などについては、上位レベルの機関での手続が望ましいとされる。また、この原則が、適切な手順を回避するための口実とされてはならないともされている。

 任命綱領に従ってなされる公職任命
  公職任命が任命要領に従って行われる場合、独立した査定者が任用計画当初から候補者を大臣に具申するまでの間、全てに関与する。具体的には、応募条件や応募書類のチェック、広報・広告のチェック、書類選考への参加、面接への参加などだ。
  つまり、公職の任命が前述した7原則に沿ってなされるように、常に第三者が任命過程に参加しているというイメージだ。
  しかも、各手続きでいかなる手順が必要とされるかが事細かく決められている。
  このような手続をとることで、公職への国民の信頼を勝ち得ようとしている。密室人事天国日本とはまったく姿勢が違うことに驚かされる。
  詳細な手続きは、拙著を参照されたい。

 英国での実績と日本での導入による効果
 この制度によって、英国では、公的機関において、実力本位による選任と透明度の高い選任が実現され、市民の信頼を勝ち取ることに成功している。そのことは、この制度に基づいて人選をする公的機関が増えていることからも分かる。
 日本でもこの制度がたとえば審議会ででも採用されれば、審議会にNGO職員や真摯な研究者などの専門家が選ばれることになり、政府や省庁の案に盲従せず、市民にとって必要な法制度が実現されることになるだろう。
 また、審議会だけでなく、広く公的機関で採用されれば、天下り防止にもなる。ご存知のように、天下りには、民間企業への天下りと、独立行政法人・特殊法人・公益法人などいわゆる公的な法人への天下りの2つがある。公的な法人への天下りは、それらの団体に税金が投入されたり、行政的な機能を有するために、民間への天下りよりも弊害が大きい。ところが、政府発表によれば、2007年8月16日から1年間に退職した中央省庁の課長・企画官以上の国家公務員1423人のうち742人が独立行政法人・特殊法人・認可法人・財団法人・社団法人などの非営利法人へ再就職しており、これらの団体への再就職比率は52.1%にのぼる。
 英国の公職任命コミッショナー制度は、すでに述べたとおり、公募制及び「独立した査定者」の立ち会いにより、透明度を高め、実力本位の採用を可能とする。この制度を採用すれば、公務員だったという理由だけでの採用は不可能となる。天下りを一般的に禁止することで、「天下りの弊害」を防止するのではなく、公募者と同じ基準で実力本位の採用をすることで、「弊害のある天下り」を防止するというわけだ。
 日本でも、公的な法人のうち独立行政法人などの長は主管大臣が任命することになっている。大臣が元官僚をその長に任命すれば、それ自体、天下りであることはいうまでもない。しかも、その長が独立行政法人人事を掌握するため、当該法人全体が天下りの受け皿になる可能性が大きい。
 公職任命コミッショナー制度を採用することで、そのような恣意的な大臣人事を防止し、弊害のある天下りを効果的に防止することができる。また、国からの補助金収入が一定以上の割合を占める社団法人・財団法人の長などについてもこの制度を導入すれば、さらに効果があがるはずだ。
 
  
 


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