情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

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評議での議論に問題があるとして強引な評議設計が正当化される?~判例時報2050号

2009-10-25 22:24:30 | 適正手続(裁判員・可視化など)
 判例時報2050号(10月21日号)に、「評議設計はなぜ必要なのか―評議の課題と設計の方法」という論文が掲載されている。この論文は、「裁判員裁判におけるコミュニケーション・デザインの学際的研究会」の成果を発表するもので、法曹三者が実施した模擬裁判や独自に行った模擬評議などの結果を分析し、評議を円滑に行うための一定の指針を示そうというものだ(3回シリーズなので、指針は最終回に掲載される)。

 第1回目の2050号掲載の論文では、
裁判員制度における評議(後ろに引っ込んで検討し判決を導く議論)の問題点として次の6点を指摘している。

①事件の経過が把握されていない
②事件の経過と争点が整理されていない
③争点と意見が関連付けられない
④各人がバラバラに意見を出し議論が深まらない
⑤議論が蒸し返される
⑥結論とそれまでの議論が結びつかない

 う~ん、衝撃の吐露…。こんなにたくさんの問題、しかも結論を導く上で相当重要な問題を抱えた裁判員裁判によって人生を決められてしまうなんて…。しかも、普通の裁判を選ぶこともできないなんて…。

 研究会で検討の材料とされたのが、事後強盗という非常に争点が多数あり、かつ、それぞれが難しい犯罪だからよけいなのかもしれないが、実際に事後強盗で起訴される人も相当数いるわけだから、ほとんどの犯罪は争点そのものはそんなに難しくはないから…、なんて言っても仕方がない。

 ただし、ここで問題としたいのは、「だから、裁判員制度という制度の在り方を見直すべきだ」という方向にはいかず、「だから、評議の場を裁判長が仕切るべきだ」という方向にいくことが予定されていることだ。

 制度的な欠陥が「素人に任せると、全然、まとまらないから、裁判員の拘束時間を短くするためにも誘導が必要だ」などと裁判官主導評議の理由付けに使われ、さらに問題が悪化するのでは、たまらない。
 
 
 特に⑤を問題視する姿勢は重大な問題だ。

 なぜなら、慣れない裁判員が「さっきは、この点について、みんなと同じだと意見を述べたけど、本当は、やっぱり違うと思う。さっきは、みんなと違うと思う理由を言うことが恥ずかしくてできなかったけど、少し慣れてきたから話せそうだ」と思ったり、「さっきのところはやっぱり違うと思えてきた」なんて考えたりすることはよくあると思われるにもかかわらず、「蒸し返し」が禁止されたら、貴重な見解を検討する機会が失われてしまうからだ。

 研究会が指摘する例でも、蒸し返す際、次のとおり、明らかに裁判員が緊張しており、蒸し返しを提案することに勇気が必要なことが分かる。

 「だけれども、彼の証言の中には、えー、なぜ、一度はもらったものを、な、『なんでそんなことを言うんだ』っていうような、ひょう、しょう、証言はあったと思うんですけど、「取り返させたくない」っていう証言はなかったと思うんですけれども、」

 このように緊張している裁判員に、いったん決まったことはもう議論とはしません…、と言ってしまえば、簡単に委縮してしまい、貴重な意見が抹殺されてしまうだろう。こんな強権的な議事進行がなされることにだけはならないようにしてほしいもんだ。

 しかし、この論文は、⑤について、「このように議論が蒸し返されてしまうと、議論がなかなか前に進まなくなり、十分に議論を深めることができないまま、評議が時間切れとなってしまう」と評価しており、強権的な指揮が推奨される恐れがある。

 問題は、判決の予定まで決めてしまうような制度となっていることだろう。結論がでなければ、1週間でも、1か月でも評議をしなければならない。そうしてこそ、議論が深まるのではないだろうか。

 今後掲載される論文が、審理を尽くすことを防ぐようなものにならないように、注視したいと思う。

※イラストは http://www.courts.go.jp/okayama/about/koho/4_5_okayama_forum_kekka.html より。
 


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