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川上村は、お年寄りが元気な村! 観光地奈良の勝ち残り戦略(94)

2015年06月13日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
今年の4月から、微力ながら川上村(奈良県吉野郡)の村おこしのお手伝いをしている。なので新聞を読んでいても、村に関する記事に自然と目が行く。最近では5月28日、川上村などが行ってきた伝統ある「吉野林業」が林業遺産に選ばれたニュースは目を引いた。積年の努力が認められ、ご関係者はさぞ喜んでおられることだろう。
※トップ写真は、村のHPから拝借した

しかしたいていの記事では「過疎化や高齢化と戦う川上村」という構図で紹介される。産経新聞奈良版のコラム「鹿角抄」(4/30付)は丹念な取材をもとに、比較的公平に報じていた。見出しは「故郷思う気持ち 村改革の励み」。執筆されたのは浜川太一記者である。

先日、統一地方選挙の取材で川上村を訪れた。村は民間研究機関「日本創成会議」(座長・増田寛也元総務相)が昨年5月に発表した推計で30年後の若年女性の減少率が全国2位となり、「消滅可能性都市」と名指しされた。村の現状は、想像以上に深刻だった。「1軒もスーパーがない」「学校の同級生はどの学年も3、4人だけ」「増え続ける空き家の管理が大変」―など。村民からは厳しい現実や不安の声を多く聞いた。

一方、自分たちの力で村をよくしたいという思いや、村への強い愛着を多くの村民が持っていることも実感した。同村高原(たかはら)地区で民宿を営む民辻松造さん(72)は人口が減り続ける村の現状に、「いよいよ1人天下や」と冗談交じりに言って笑った。多い時で年間3千人いた宿泊客は、今は1千人に届かない。地区の消防団の高齢化も不安要素で、村の「衰退」を日々実感している。それでも、「生まれ育ったふるさと。死ぬまで守らなあかん」と力を込める。

「何があっても村からは離れたくない」。林業とこんにゃく製造を営む同地区の大辻利子ささん(67)も同じ思いだ。「不便なことは多いけど、ここが私の地元やからね。“おばちゃんパワー”で毎日笑って川上をもっと明るくしていきたいね」。そう言いながら、力強くガッツポーズを見せた。

帰り道、取材中に誘ってもらった「村で唯一」というカラオケ喫茶に立ち寄ってみた。朝の農作業姿からおしゃれに返信した「ママ」の中平高子さんは、ふきのとうやこごみなど、村で採れた春の山菜を使った手料理をごちそうしてくれた。「これが村の味。川上も捨てたもんじゃないでしょう」。中平さんは誇らしげに笑った。

消滅可能性の危機という厳しい問題に直面しているが、自分の故郷に誇りと愛着を持って暮らす多くの人々がいる川上村。村民の故郷を思う気持ちほど、今後の村の改革に向けた心強い支えはない。この村は消えたりせず、きっとたくましく生き続ける―。そう思った。(浜川太一)


一方で、こんなニュースも報じられた。川上村の介護保険料は全国平均(5,514円)や県内平均(5,231円)よりずっと安い4,500円。天川村(8,686円)のほぼ半額なのだ。産経新聞奈良版(5/13付)「介護保険料 天川村8686円 全国一の高額 27~29年度 県内平均は639円増」によると、

奈良県は平成27~29年度の65歳以上の高齢者が負担する介護保険料(基準月額)を発表した。各市町村の平均は前回(24~26年度)と比べて639円増の5231円だった。全国平均は5514円で、高い順から数えると県は全国40位。一方、天川村は8686円で、全国で最も高い保険料となった。

保険料は介護保険制度が始まった12年以降、利用者数の見通しなどを考慮し、市町村が3年ごとに基準額を決定する。各市町村の平均額は3年ごとに増加しており、今後高齢化率が上がるにつれて負担額は増えるとみられる。今回、県内各市町村では、明日香村が据え置いた以外はすべて引き上げられた。

天川村は人口約1600人のうち、65歳以上が4割を超え、介護施設に入所している高齢者も増加している。また前回、財政安定化基金から1800万円を借り入れたことから、今回はその返済も重なって高額となったという。次に高いのは黒滝村の7800円で、全国3位。続いて十津川村の6750円だった。

一方、保険料が最も低かったのは御杖村で3900円、続いて川上村の4500円、下北山村の4725円だった。実際の保険料は前年度の所得に応じて決まり、6~7月ごろに、各市町村から利用者へ通知される。


川上村は、介護保険料が奈良県で2番目に低いのだ。乱暴にいえば、それだけ元気なお年寄りが多いということになる。私も、川上村ではたくさんのお年寄りとお会いするが、皆さんとてもお元気で、トシをとれば取るほど元気になる人もいる。しかも奈良県全体の介護保険料は、全国で低い方から8番目だ。

以前、当ブログで『限界集落の真実 過疎の村は消えない』という本を紹介した。「過疎の村のほとんどは、消えるどころか問題もなく存続している」という指摘で、これは目からウロコだった。しかし今、世の中は、先の増田寛也元総務大臣が『日本創成会議』で公表した試算に基づき、「人口減少に歯止めがかからない、これはエライこっちゃ」と騒いでいる。

そもそも人口減少はそんなに悪いことなのか。週刊新潮(4/30号)が《悪い話ばかりじゃない「人口減少社会」の利点検証》という特集を組んでいたので、買ってみた。そこに、こんな古田隆彦氏(現代社会研究所・所長)の話が出ていた。

“人口減社会”は、果たして悪いことばかりなのか。「人口減少に見合った社会をつくること、つまり、成長拡大社会から成熟濃縮社会を目指すことで、むしろ、私たちの生活は豊かになります」と指摘するのは、現代社会研究所の古田隆彦所長である。

「徳川吉宗が8代将軍に就いていた1730年ごろ、江戸時代の人口はピークを迎え、3200万人に達したと推定されています。しかし、その後の70年間では、飢饉や天変地異によって、人口はおよそ300万人減少しました。ところが、まさに、その時期、蘭学などの学問が栄え、さらに、歌舞伎、戯作などが花開いたのです」

なぜ、人口が減少すると、文化が爛熟するのか。「農民は耕作面積の拡大が可能になったことに加え、労働力不足に対応すべく、新たな農機具を開発しました。その結果、コメの収穫量が拡大し、木綿や菜種など換金作物の生産にも手を伸ばせるようになった。豊かになった農民が都市部で貨幣を使うことで、経済は活性化した。その生活の“ゆとり”が江戸文化を勃興させました」(同)

14世紀のヨーロッパでも、同じようなことが起こったという。「ペストの大流行によって、約7400万人だったヨーロッパの人口は、わずか10年の間に約5100万人にまで激減しました。ですが、働き手が減っても、工夫をすることで農業生産量は保たれていた。賃金は高騰し、農業生産者にとって黄金時代を迎えている。その富が都市部に流れ込んで、フィレンツェのような都市国家を繁栄させ、ルネサンスを生み出した。ルネサンスは、芸術のみならず、羅針盤や火薬などといった目覚しい科学技術の発展ももたらしたのです」(同)

人口減社会によって、否応なしに迫られる産業構造の転換が功を奏した格好なのだ。「現在の日本でも、トイレットペーパー業界などは、すでに人口減社会を見越した取り組みを始めています。人口減に比例して、トイレットペーパーの需要は落ちこんでいますが、柔らかさとかデザインなどの付加価値をプラスすることで、値段を高くし、業界全体の売り上げを拡大させています」(同)

経済規模が変わらないままに、人口が減れば、当然、一人当たりの取り分は増え、その分、豊かな生活を送れることになる。「日本では7軒に1軒が空き家だと言われているが、十分に住むことができる家も少なくない。スウェーデンなどの北欧でも、30年以上前に空き家問題が生じました。それによって“ダブルハウジング”という考え方が浸透した。平日は都市部の家で、週末は郊外の家で過ごすというライフスタイルです」日本でも普通のサラリーマンが当たり前のように家を2軒持つことが夢ではなくなるという。


「日本創成会議」にしても、様々なレポートにしても、単に算術的に若年人口が減って限界集落化する、ということばかり取り上げ、その「本質」や「実態」をとらえていない。「力強くガッツポーズ」する前期高齢者の姿や、採れたての「ふきのとうやこごみ」を出すカラオケ喫茶のありようが見えていない。そもそもGDPなどの数字には、ご近所さんとの農作物の交換とか「おすそ分け」は反映されない。それらは村の中に入りこまないと分からないのだ。

以前、ブータン国王が提唱して話題になった「国民総幸福量」(GNH)という尺度がある。精神面での豊かさを「値」として、当該国民の社会・文化生活を国際社会の中で評価・比較・考察することを目的としたものだ。GNPやGDPが、当該国の社会全体の経済的生産と物質主義的な側面での「豊かさ」だけに注目し、それを「金額」として表現していることを批判して登場した。

私が本格的に川上村に関わるようになってまだ2ヵ月と少しなので、見えていないものも多い。また気づいた点を、当ブログで紹介させていただきたい。川上村の皆さん、これからも村を元気に盛り上げてまいりましょう!

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