tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

名仏いろいろ(6)南円堂の不空羂索観音

2008年10月25日 | 仏像
興福寺南円堂(なんえんどう)は、西国霊場第9番札所として名高い。そのご本尊で初期鎌倉彫刻の代表作とされるのが、写真の不空羂索観音坐像である。
※興福寺のサイト
http://www.kohfukuji.com/cgi-bin/kohfukuji/dispdata.cgi?id=but00048

不空は「ふくう」、羂索は「けんじゃく」または「けんさく」「けんざく」などと読む。空(むな)しからざる(=不空)投げ縄(=羂索・けんさく)で、衆生を救う観音さま、という意味だ。秘仏で、毎年10/17の大般若(だいはんにゃ)経転読会の日以外は、非公開だった。


南円堂

それがなんと、今年は「興福寺国宝 特別公開2008」として、1か月以上も特別公開されるというのだ(期間=10/18~11/24 無休)。同時に、いつもは入れない五重塔初層(1階)にも入り、薬師・釈迦・阿弥陀の各三尊像を拝観できる。
http://mytown.asahi.com/nara/news.php?k_id=30000000810190001


五重塔に並ぶ列

また今日(10/25)からは、恒例の「北円堂 特別開扉」(11/9まで 国宝の無著・世親像などが拝観できる)も行われるから、これは見逃せない。拝観料は、南円堂、五重塔、東金堂がセットになって千円だ。北円堂(300円)や阿修羅像などが拝観できる国宝館(500円)は別途必要になる。
http://www.kohfukuji.com/kohfukuji/01_index/f_main2.html

私は10/19(日)にお参りしてきた。初めて拝見する南円堂の不空羂索観音は、聞きしにまさる素晴らしい仏さまだった。鎌倉時代、運慶の父・康慶(こうけい)の作で、三目八臂(さんもくはっぴ・目が3つで手が8本)、像高は3m44cmで、これが高い台座の上に乗っているから、なおさら大きく感じられる。


背景は東金堂

天平仏の面影を残す気迫のみなぎったお顔は、見る者を圧倒する。ヒノキの寄木造に漆箔(しっぱく)が施され、体全体がぼんやりとした金色の光を放っている。仏さまの手からは紐(羂索)が伸び、拝観する者はその先に触れてご利益を授かることができる。何とも有り難い工夫だ。

円形のお堂というものは、誰かを供養するために建てられるそうだが、北円堂は元明・元正天皇が藤原不比等追善のため、南円堂は藤原冬嗣(藤原北家)が父・内麻呂追善のために創建したものだ。


北円堂

この南円堂は院政期以降、庶民の観音信仰に支えられ、今も線香の煙が絶えない。その南円堂ご本尊の尊顔を拝することができる貴重な機会が、この特別公開である。

今日からは正倉院展が始まり(10/25~11/10)、奈良は1年で最も賑わう時期になる。しかし正倉院展と興福寺特別公開を1日で回る、というのはちょっとムリがある。
http://www.narahaku.go.jp/exhib/2008toku/shosoin/shosoin-1.htm

奈良市内にはビジネスホテルなどがたくさんできている。ぜひ奈良にお泊まりいただき、比較的空いている夕方の正倉院展や、朝の奈良公園の風情、昼間の南円堂や北円堂と国宝館などを満喫していただきたいと思う。国立博物館前の飲食施設「ふれあい回廊 夢しるべ 風しるべ」もお忘れなく。
※「夢しるべ 風しるべ」の歩き方(当ブログ内)
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/s/%CC%B4%A4%B7%A4%EB%A4%D9
※東横イン奈良新大宮駅前
http://www.toyoko-inn.com/hotel/00183/index.html
※コンフォートホテル奈良
http://rurubu.travel/hotel-detail/6269A11.html
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名仏いろいろ(5)大願寺の焼けずの観音&おちゃめ庚申

2008年08月28日 | 仏像
奈良検定テキスト(『奈良まほろばソムリエ検定 公式テキストブック』山と渓谷社刊)の「大願寺」(宇陀市大宇陀区拾生)の項に、面白い記述があった。

《十一面観音菩薩立像は西国三十三ヶ所観音霊場の開基として名高い長谷寺の徳道(とくどう)上人が神亀元年(724)に彫ったもの、あるいは弘仁時代(810~23)の作という。明治18年(1885)に本堂が焼失した際に頭部と両腕が欠損したが、のちに発見されて復された。そのため「焼けずの観音」として、火災厄除けの霊験が加わった》《「おちゃめ庚申」の名で親しまれる漫画風の庚申石仏は天保14年(1843)の作である。寺は薬草料理でも知られる》。
http://www.mapple.net/spots/G02900061201.htm

あの堅いテキストにしては珍しく、観光ガイドに使えるような情報が載っている(本来そうでなければならないのだが、そこが執筆陣の限界だ)。だから、このお寺は気になっていたのだが、地図を見ると道の駅「宇陀路 大宇陀」のすぐ裏手だったので、8/13に宇陀松山を訪ねた折に立ち寄ってみた。



広い道路から1本入っただけなのに、一転して閑寂な雰囲気が漂う。うっそうとした木々に囲まれた山門には、「薩埵(さった)山」の文字が見える。宇陀松山藩第4代藩主・織田信武の直筆だそうだ。



門をくぐると、正面に毘沙門堂(室生山の大杉で彫った毘沙門像を祀る)、右手に本堂が目に入る。ここに観音さまがお祀りされているのだ。寺務所に声をかけると自由に参拝して良いとのことだったのでお堂に入ると、正面に「焼けずの観音」、向かって右には室生寺の観音を写したという十一面観音が祀られていた。これらの画像はネットにはあまり出回っていないので、希少価値があるだろう。


「焼けずの観音」さま


十一面観音

冒頭写真の「おちゃめ庚申」は、本堂と毘沙門堂の間の小さな祠(ほこら)の中で見つけた。なるほど、これは面白い。マンガ風ともいえるし、飛鳥の石仏とも共通したユーモラスな面持ちである。歴史街道(朝日放送)のHPによると、

《「おちゃめ庚申(こうしん)」と呼ばれる石造の青面金剛がまつられている》。《漫画的な戯画が浮き彫りされており、そのユーモラスな姿に親しみが持てる。青面金剛は憤怒の恐ろしい顔をしているのが普通で、このようなおちゃめな青面金剛は珍しい。石材は近くで産出される花崗岩を使っており、地元の石工が庚申講から依頼されて製作したと見られる》。
http://asahi.co.jp/rekishi/04-04-16/01.htm

なお、人気の薬草料理(3800円)は、予約が必要なので、ご注意いただきたい(3月下旬~12月上旬の11:00~14:00)。
http://kimonodaisuki.blog.so-net.ne.jp/2007-06-28

道の駅の裏手なので、食事や休憩のついでに気軽に立ち寄れる。道の駅には地元の名産がたくさん並んでいるし、ブルーベリーのソフトクリームも美味しい。いちどお訪ねいただきたい。
http://www.kkr.mlit.go.jp/road/michi_no_eki/contents/eki/n06_udajioouda/index.html
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名仏いろいろ(4)聖林寺のご本尊

2007年12月26日 | 仏像
毎日新聞奈良版に好評連載中の「チャレンジ!奈良検定」に、こんな問題が出ていた(7/12付)。

Q.桜井市にある聖林寺(しょうりんじ)の本尊は。
A.(ア)十一面観音(イ)阿弥陀如来(ウ)子安延命地蔵菩薩(エ)不動明王

正解は、子安延命地蔵菩薩である。 これは、超有名な(ア)の十一面観音と答えさせようと仕組まれた引っ掛け問題だ。ご存じ「乾漆十一面観音像」は、もとは大神神社(三輪明神)の神宮寺だった大御輪寺(だいごりんじ・大三輪寺とも)にあった仏さまだ。現在は客仏として、聖林寺に祀られている。
※十一面観音像の写真
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0c/c0/8b5cf7f0608d9da71bde6b328bcedf83.jpg

この観音さまは、和辻哲郎が『古寺巡礼』(岩波文庫)で絶賛しているほか(入江泰吉の写真も掲載)、ありとあらゆる仏像関係書で紹介されている不朽の名仏である。それに対し、ご本尊の子安延命地蔵菩薩は、ほとんど知られていない。

それどころか、いとうせいこう&みうらじゅんの『見仏記』(角川文庫)では
《頭の中には、あの魅惑的な十一面の顔しかない。「うわっ」 ところが、堂内で我々を待ち受けていたのは、マンガみたいな顔をしたどでかい石仏だった。優雅な十一面観音とは、およそ縁もゆかりもない圧倒的にユーモラスな地蔵である》などと紹介されている。

だから、私が奈良検定1級受験者用の「体験学習プログラム」でこのお寺を訪ねることになったとき、最も期待したのは、正真正銘のご本尊を拝むことであった。

このお地蔵さんは、江戸時代の僧・文春が、姉が何度も出産で苦労したことから一念発起し、4年7か月に及ぶ托鉢で集めた浄財で建立したものだそうだ。江戸期には、難産で苦しむ女性がこの周辺にも多かったのだろう。だから今もこのお寺は、安産・子授けの祈祷寺として栄えている。

それが写真の仏さまである。丈六仏というのか、とにかく大きいお地蔵さんだが、拝みに来られる女性たちにとっては、さぞ優しく頼りがいのあるお姿に映ったことだろう。

聖林寺に拝観に来られる方は、このご本尊の横をドヤドヤと通り過ぎて、耐火構造の収蔵庫に安置されている十一面観音さまの方に向かうが、江戸時代から今日まで、悩める女性を優しく見守り続けてきたこの仏さまも、ぜひ拝んでいただきたいと思う。

※写真は、いずれも8/12撮影。
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なら奈良館

2007年08月16日 | 仏像
まずは写真をご覧いただきたい。山田寺仏頭(興福寺蔵)の後ろに、新薬師寺の十二神将像がずらりと並んでいる。奈良が誇る超一級の国宝が、一枚の写真に収まっているのだ。

これは、近鉄奈良駅ビル(4~5階)の「なら奈良館」だ。以前は近鉄が運営する「奈良歴史教室」だったが、現在は奈良市が引継いでこの名前に変わっている。高さや外観が不評の駅ビルだが、こんな良い施設もあったのだ。

広告などでは実物大の「大仏さまの左手」ばかりが取り上げられるので、私は「子供向けの施設なのか」とカン違いしていたが、実際に訪ねてみると驚きの連続だった。

薬師寺西塔の木製模型、法隆寺や唐招提寺の(実物大の)木組み模型、奈良町一帯(江戸時代)の立体復原模型、お水取り風景の復原模型、そして圧巻が写真の山田寺仏頭(加藤登紀子似!)と十二神将像の実物大の模造品。

このほか、たくさんのパネルやビデオ映像で、奈良の歴史や世界遺産が学べるようになっている。猛暑の屋外と違って涼しいし、何より駅のすぐ上という好立地だ。入館料も安い(大人300円、高校生200円、小中学生は無料)。私は写真の仏さまだけで、十分満足だった。
http://www.narakan.com/index.html

希望すれば、「なら・観光ボランティアガイドの会」による無料ガイドも利用できる。ついでに食事をするなら、8階に「北京料理 奈良百楽」がある。

親子で楽しく学べる「なら奈良館」。暑い昼間に訪ねたい、奈良のお薦めスポットである。
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名仏いろいろ(3)壺阪大仏のご尊顔

2007年08月05日 | 仏像
今年の11月11日(日)、壺阪寺(南法華寺 奈良県高市郡高取町)で石の大仏さまが完成する。

この仏さまは、仏教の聖地・インド原産の花崗岩を使った「釈迦如来坐像」である。高さは約10mなので、東大寺の大仏さま(14.8m)よりは低いが、屋外にあり基壇が5mもあるので、そびえるような大きさだ。なおこの寺には、高さ約20mの観音立像(石像)もある。

大仏さまは、01年からインドのカルカラ市にある壺阪寺の工房で作られていて、この5/25からは頭部が境内に安置されていると知り、訪ねてみた。
※慈悲の心、日本最大級(奈良新聞 07.5.26)
http://www.nara-np.co.jp/n_all/070526/all070526a.shtml

さすがにお顔だけでも、とても大きい。2m以上はありそうだ。瞑想する半眼や優しい口元が素晴らしい。目の前で見ると、眉間の白毫(びゃくごう=光を放つ毛)もよく分かる。日本の仏さまより、東京国立博物館で見たガンダーラの仏さまによく似たお顔立ちだ。
※「仏像の道」展(ブログ内)
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/9b88922d9713f1617011cd1c8584ef21

この日は晴れて強い日射しだったが、立つ位置を変えると影の方向が変わり、表情も変わる。それを目の高さで見ると、変化がとてもよく分かる。

この写真を撮ったのは6/16だ。7/10、このお顔はすでに完成していた胴部にクレーンで取り付けられ、今は螺髪(らほつ)などの取付け工事中なので、もはやこのアングルからお顔を拝むことはできない。

「竹中工務店」の看板のついた足場は、あと3か月で撤去され、開眼供養の日を迎える。完成した大仏さまも、ぜひ拝ませていただこうと思っている。
コメント (6)
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