tetsudaブログ 「日々ほぼ好日」

奈良はミナミが面白い。古事記イヤー(古事記完成1300年)の今年は、奈良県を中南部から盛り上げましょう!

月刊 大和路ならら(2012年6月号)は、まるごと1冊 古事記特集!

2012年05月31日 | ブック・レビュー
「月刊 大和路ならら」は、「ほかでは読めない奈良の魅力を探るカルチャーマガジン」である。発行所は、タウン情報紙「マイタウン奈良」などを発行する地域情報ネットワーク株式会社(奈良市杉ヶ町14-1)だ。奈良の情報ブログ「鹿鳴人のつぶやき」に《「月刊 大和路ならら」6月号では、神と人が紡ぐ壮大な物語として古事記ザ・スペクタクルが特集されています。400円》という情報が出ていたので、早速入手した。鹿鳴人さん、情報有難うございました。

これはすごい。まるごと1冊、古事記特集である。巻頭を飾るのは寺谷まり子さんの「古事記ザ・スペクタクル そして国はなった!!神武東征の険しき道」(全6頁)。続いて坂本久美氏の「古事記の真実」など、充実したコンテンツの数々。いかにも「ならら」らしい手堅い作りで、まさに永久保存版である!数えてみると、全64頁のうち、22頁分が古事記に関するものだった。これはお薦めだ。

なお、表紙の神武天皇像は、御嶽山(おんたけさん)大和本宮(奈良市大渕町)にあるのだそうだ。同神社のHPには《御嶽山大和本宮が建立されました御土地は金鵄神話に縁ある場所として伝えられており、その御神縁を尊び奉りまして御嶽山大和本宮の境内 海抜110mの高所に高さ16mの御尊像をお祀りし、橿原神宮より御分霊の上で入魂鎮座なされました》とある。

先日は「るるぶ古事記」を紹介したが、このように同時多発的に古事記の情報がどんどん出てくると、否が応でも「古事記イヤー」が盛り上がる。先日、私が講話させていただいた「90分でわかる古事記」セミナーも、約80人の方にご参加いただいた(定員40人があっという間にオーバーしたので、追加でもう1回開催した)。川上村や堺市など、遠方からもお越しいただき、「古事記ブーム」を実感した。

皆さん、「古事記本」を携えて、古事記ゆかりの地を訪ねましょう!


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るるぶ古事記 が登場!

2012年05月25日 | ブック・レビュー
 るるぶ古事記(1300年 古代ロマンの旅)
 パーソナル企画・スタジオ彫
 JTBパブリッシング

今年は「古事記完成1300年」の記念すべき年。おかげで書店の店頭には、毎週といっていいほど『古事記』に関する新刊書が店頭に並ぶ。平城遷都1300年の年(2010年)にも、こういう新刊ブームが起きたが、それを彷彿とさせる。新刊書には手軽で分かりやすい本が多く、日本人の心の「古層」を呼び起こす『古事記』が、グッと身近なものになってきた。そしていよいよ、「古事記ツアー」に必携のガイド本が登場した!それが「るるぷ 古事記」838円である。版元の「内容紹介」によると

巻頭カラーグラフでは辰宮太一氏の解説で「古事記」を分かりやすく解説するほか、関連のエリアを古事記のストーリーとともに分かりやすく解説。各エリアページでは、各エリアの「古事記」ゆかりのスポットや古事記の旅の際、訪れたいスポットやお店、味処なども合わせて紹介する。また、各エリアごとに「古事記の旅」のモデルルートも掲載する。古事記を知って、体感できるるるぶならではの一冊。【掲載エリア】島根、鳥取、淡路島、奈良、宮崎

●古事記を知る 著 辰宮太一
国生み/天安河の誓約/天石屋戸/八俣の大蛇退治/因幡の素兎/国造り/大物主神と三輪山/国譲り/天孫降臨/海幸彦と山幸彦/神武東征
【コラム】古事記中巻・下巻を読む 神と人との物語

●島根 須佐之男命と大国主神が活躍する「出雲神話」の地
・須佐之男命と大国主神
・須佐之男命活躍の地へ
・出雲 神話ゆかりのスポットへ
・八百万が集まる神話の聖地・出雲
・大国主大神が鎮まる出雲大社
・出雲大社のお祭り 神迎祭/神在祭/神等去出祭
・出雲そば
・島根県立古代出雲歴史博物館
・神門通りでおみやげ探し
・出雲の注目SPOT
・松江
・松江1dayさんぽ
・玉造温泉街
・松江の注目SPOT

●鳥取 霊峰・大山を有し大国主神が若き日を過ごした地
・白兎海岸/白兎神社
・大国主神が試練のときを過ごした地
・神々ゆかりの地
・ジオパークにも認定 鳥取砂丘
・鳥取の注目SPOT
・倉吉の注目SPOT
・米子の注目SPOT
・鳥取、島根の『古事記めぐり』1泊2日ドライブコース

●淡路島(兵庫県) 国生みし神話が宿る“はじまりの島"
・国産み神話の舞台 沼島
・御食国、淡路島のごちそう
・淡路島の注目SPOT
・淡路島の『古事記』めぐり1泊2日ドライブコース

●奈良 記紀が編纂された古代国家形成の地
・記紀に残る日本最古の道 山の辺の道
・カムヤマトイワレビコゆかりの地 橿原
・記紀編纂はじまりの地 飛鳥をサイクリングで巡る
・葛城古道ウォーキング
・平城宮跡を中心とした佐保、佐紀路
・奈良市内のみどころ
・東大寺/春日大社/興福寺/奈良公園周辺/薬師寺/唐招提寺
・ならまちをぶらり散策
・奈良グルメ
・奈良みやげ
・記紀編纂を1泊2日で旅する
・持統天皇の恋路を1泊2日で巡る

●宮崎 「天孫降臨」「海幸彦山幸彦」そして神武天皇船出の地へ
・高千穂 天孫降臨の舞台を訪ねる
・美々津
・西都原古墳群
・宮崎タウン
・日南海岸
・霧島
・宮崎の『古事記』めぐり1泊2日ドライブコース

 地図で読む『古事記』『日本書紀』 (PHP文庫)
 武光 誠
 PHP研究所

奈良のほか、島根・鳥取、淡路島、宮崎と、エリアの選択も適切である。地図も豊富で、タウンガイドやグルメ情報も豊富なので、これ1冊で、古事記ゆかりの地を楽しく巡ることができる。編集スタッフのなかには、『るるぶ奈良』の取材でお世話になった、長谷川ゆかりさんや八木孝さんのお名前もあった、懐かしい! なお「背景を含め、もう少し詳しく知りたい」という方には、『地図で読む「古事記」「日本書紀」』590円という文庫本があるので、併読されることをお薦めする。両方買っても1500円ほどで済む。

敬遠されがちな『古事記』が、このように鞣(なめ)されて提供されることで、同書に関心を持つ方がますます増えることだろう。まもなく「神話博しまね」も始まる。ぜひ『るるぶ古事記』を携えて、古事記ゆかりの地をお訪ねください!
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記・紀にみる日本の神々と祭祀の心

2012年05月16日 | ブック・レビュー
記・紀にみる日本の神々と祭祀の心
武智功
奈良新聞社

奈良新聞社取締役地域情報部長でいらっしゃる武智功氏の著書『記・紀にみる日本の神々と祭祀の心』(奈良新聞社刊)1,905円を読んだ。これは快著である。B5版フルカラー133ページで、きれいな写真と行き届いた解説がぎっしりである。版元の「出版情報」によると

奈良新聞社は、弊社取締役の武智功による『記・紀にみる 日本の神々と祭祀の心』を発行、全国の書店で販売しています。これは平成20年9月から22年3月にかけての奈良新聞の連載等を加筆・修正したもので、「古事記撰上(せんじょう)1300年」を記念した出版物です。同書は「古事記」「日本書紀」から見た、大和の国を中心とした信仰や祭祀などについて分かりやすくまとめたもので、記紀、神話、神道、祭りの世界などへの入門書ともいえます。

天地開闢(かいびゃく)、高天原(たかまがはら)、国生み、黄泉国(よみのくに)、天岩屋戸神話、出雲の神々、神武東征といったテーマごとに、豊富な写真や解説・ルビを付けて、フルカラーで紹介。著者は、かつて日本人の多くがそうであった「謙虚に生きる姿」を取り戻し、神や自然を畏れ敬い、生かされていることに感謝しながら暮らすことや、祖先から受け継いだ御魂(心身)を大切にし、正月などの節目の行事を「心身更新」の機会とする必要性を強調しています。なお、巻頭の「発刊に寄せて」を著者と交流が深い天理市の石上神宮の森正光宮司が、また「序」を神職で歴史学の大家、上田正昭・京都大学名誉教授が執筆しています。


奈良新聞(4/22付)のコラム「國原譜(くにはらふ)」でも紹介されていた。考えてみれば、「国原」も、舒明天皇の「国見歌」(万葉集)に登場する言葉である。「大和には群山(むらやま)あれど とりよろふ天の香具山登り立ち国見(くにみ)をすれば 国原は煙(けぶり)立ち立つ海原(うなはら)は鴎(かまめ)立ち立つ うまし国ぞ蜻蛉島(あきづしま)大和の国は」。

タイトルを「フルコトブミ」と読んだのは、江戸時代の国学者・本居宣長。現代では「こじき」と読むが、今年はその『古事記』が撰上(せんじょう)されて1300年ということで、出版や旅行業界などは大いに力が入っている。特に島根県は「神々の国しまね」というスペシャルサイトまで用意して、観光客の誘致などに力を注いでいる。一昨年の「平城遷都1300年」の時の奈良を思い出させるような勢いがある。

それに負けじ、ということでもないが、弊社でもこの節目の年にあたり、記念出版物「記・紀にみる 日本の神々と祭祀の心」を発刊した。新聞連載を集約したもので、「古事記」「日本書紀」から見た、大和の国を中心とした信仰や祭祀などについて分かりやすくまとめている。「古事記、神話や神道、祭りの世界への入門書」といった趣きで、フルカラーの豊富な写真が目を引く。ある年代より上は、知っている神話の数々が登場するので、懐かしく読む方も多かろう。神話の世界を全く見聞きしたことがない若い世代にこそ、ぜひ読んでもらいたい1冊でもある。(恵)


同書の内容は、2008年〜2010年にかけて奈良新聞に連載された記事がモトになっているそうで、私も読んだり切り抜いたりしているはずであるが、あまり記憶がない。「奈良まほろばソムリエ検定」の受験や「平城遷都1300年祭」に気をとられて、記紀にはあまり関心が行っていなかったのだろう。しかし『記・紀にみる日本の神々と祭祀の心』は、とても詳しくカッチリと書かれた本であるし、何より県下の神社や行事を中心にまとめられているところが有り難い。

入門書というより、中・上級者向けの本である。県観光局の『なら記紀・万葉 名所図会―古事記編―』を卒業した方に、ちょうど良いレベルだ。ぜひ、お読みいただきたい。

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奈良県 謎解き散歩

2012年04月16日 | ブック・レビュー
奈良県謎解き散歩 (新人物往来社文庫)
大宮守友 編著
新人物往来社

以前「定年を機に、奈良のことを勉強したい」とおっしゃっていた安村さん(現在、AFSの近畿方面広報担当)から、「奈良の面白い話を集めたエピソード集のような本はありませんか?」という質問を受け、答えに窮したことがある。「仏像入門」とか「奈良の寺社」のような個別の分野では分かりやすい入門書があるが、奈良県全体のことを取り上げていて、しかも面白い話ばかりを集めた本というのには出会ったことがなかったのだ。

ところがつい先日(4/11発行)、大宮守友編著『奈良県謎解き散歩』 (新人物往来社文庫)800円という文庫本が出た。早速買って読んでみると、これが面白い。奈良の歴史や神社仏閣・史跡のあらましをはじめ、奈良にまつわる雑学・トリビアが満載である。「これから奈良検定2級を受けよう」という方にも格好の入門書になる。これはぜひ、安村さんに薦めたい本である。

版元の紹介文には《古代史のメイン舞台となった飛鳥をはじめ、「大和国」奈良県は、いたるところに遺跡・古墳・古寺社があります。卑弥呼の墓とも言われる箸墓古墳から、「咲く花の匂うがごとき」平城京まで、今なおさまざまな謎とロマンを秘め、古代史ファンの探究心をかきたてます。また、吉野山の桜や、宇陀山地などの豊かな自然を求めて、多くの観光客が訪れ、茶道具や手漉き和紙などの伝統産業も健在です。1300年の奥深い歴史が現在にもなじんでいる奈良県の世界遺産や人物・宗教・民俗・産業・地理・自然などの謎解き散策を、本書を片手に楽しんでみませんか》。

地元・啓林堂書店の「奈良の書籍」のコーナーでもトップに取り上げられていて、《あなたの知らなかった奈良がここに! 平城京、飛鳥、斑鳩など魅力溢れる土地の紹介から県民性、産業など様々な角度から奈良に迫ります。奈良県はまさに豊かな自然・歴史・仏教美術・伝統産業の宝庫!これを知らずして奈良は語れない! 本書片手にぶらりと奈良を旅してみて下さい。目印は表紙のせんとくんです》と紹介されている。

目次は《第1章奈良県ってどんなとこ? 第2章奈良県歴史散歩 第3章歴史・考古・史跡編 第4章人物・宗教編 第5章民俗・産業編 第6章地理・自然編》で、編著者の大宮守友氏は《1952年、奈良県生まれ。國學院大學大学院文学研究科日本史学専攻修士課程修了。小学校・高等学校教諭を経て、奈良県立図書情報館主査。図書情報館古文書講座講師などを務める》という方である。

読んでいると、細かい事実関係の誤認(例:東大寺大仏殿が「世界最大の木造建築物」と書かれているが、現在の最大はスペインの「メトロポール・パラソル」)とかフリガナの誤り(例:法隆寺の救世観音は「ぐぜかんのん」ではなく「くせかんのん」、天理市の大和神社は「やまとじんじゃ」ではなく「おおやまとじんじゃ」、十津川村は「とつがわ」ではなく「とつかわ」。ちなみに十津川警部は「とつがわ」)が散見されるので、奈良検定を受験される向きは、ご注意いただきたい。

いずれにしても、楽しく読んでいるうちに自然と奈良の知識が身につく格好の入門書であるので、ぜひお読みいただきたい。安村さん。これからの季節、自転車もいいですが、奈良の勉強も怠りなく。
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下山の思想(五木寛之著)の要点整理

2012年02月19日 | ブック・レビュー
下山の思想 (幻冬舎新書)
五木寛之
幻冬舎

毎朝、食事をしながら「おはよう日本」(NHK総合テレビ)を見るのが日課になっている。2/8(木)のニュースでは、五木寛之著『下山の思想』(幻冬舎新書 777円)を取り上げていた。この本は、日本の成長を登山にたとえ、下山することの大切さを説く、というふれこみである。YAHOO!ニュース(2/16配信)にも、「五木寛之『下山の思想』が初首位〜再生への道しるべに共感の声」という記事が出ていた。

《作家・五木寛之が昨年12月に発売した『下山の思想』(幻冬舎)が、2/20付オリコン“本”ランキングBOOK(総合)部門で週間4.7万部を売り上げ、初の首位を獲得した。2008年の同ランキング開始以来、これまでに五木氏の作品は『親鸞 上』(講談社)や『人間の覚悟』(新潮社)など、多くの作品がTOP10入りをしてきたが、総合トップは今回が初。編集部は「30〜40代の読者の方々が自身のブログなどで紹介してくださったり、60〜70代の読者の方からは感想を綴った長い手紙が届くなど、発売当初から反響がありました」と、幅広い年代からの支持を明かしている》。

《2011/12/26付で30位に入り、2012/1/16付ではこれまでの最高位である2位を獲得していた同書は、人と国の新たな姿を示す画期的思想として新聞やテレビで紹介され、徐々に注目を集めてきた作品。今月8日にNHK総合『おはよう日本』で取り上げられたことが決め手となり、発売から10週目にしてトップとなった》。

《著者独自の世界観で現代社会の再生への道を説いた同書には、「『下山』とは諦めの行動でなく、新たな山頂に登る前のプロセス」であり、「人はどんなに深い絶望からも起ち上がらざるを得ず、日本は敗戦から見事に立ち直り登頂を果たすことができた。そんな今こそ、実り多き明日への『下山』を思い描くべきではないか」と、力強い言葉が綴られている。東日本大震災からまもなく1年を迎えるにあたり、自分たちが進むべき道について改めて考えさせられる1冊として、今後の動向も気になるところだ》。

ベストセラーには時代のニーズが現れるので注目しているし、3月には「奈良の精神文化」に関する講話もお引き受けしているので、「これはチェックしておかねば」と、オンエア当日(2/8)の退社時、啓林堂奈良店に立ち寄った。幻冬舎新書のコーナーには置いていなかったので店員さんに聞くと、「今朝から、すべて売れてしまいました」とのこと。テレビの威力は大したものである。しかし「(同書店の)奈良ビブレ店にはあるかも知れません」とのことだったので足を運ぶと、棚に数冊並んでいたので早速買って、帰りの電車の中で読み始めた。

この本は、五木寛之が「日刊ゲンダイ」紙の創刊当初から執筆している「流されゆく日々」欄に掲載されたエッセイ(五木によれば「雑文」)をまとめた「エッセイ集」であり、「下山の思想」というテーマを掘り下げた「思想書」ではないので、ご注意いただきたい。41本のエッセイのうち8本、多めに見ても計19本だけが「下山の思想」に関するものであり、残りは「いま死と病を考える」(8本)や「ノスタルジーのすすめ」(11本)など、直接には「下山の思想」とは関係ないものなので、ガッカリされないように。

武士道 (PHP文庫)
新渡戸稲造
PHP研究所

「BOOK」データベースには《どんなに深い絶望からも人は起ちあがらざるを得ない。すでに半世紀も前に、海も空も大地も農薬と核に汚染され、それでも草木は根づき私たちは生きてきた。しかし、と著者はここで問う。再生の目標はどこにあるのか。再び世界の経済大国をめざす道はない。敗戦から見事に登頂を果たした今こそ、実り多き「下山」を思い描くべきではないか、と。「下山」とは諦めの行動でなく新たな山頂に登る前のプロセスだ、という鮮烈な世界観が展望なき現在に光を当てる》と出ている。

私が以前、当ブログに書いた「新渡戸稲造著『武士道』の要点整理」(06.6.5)は、今でも毎日20〜30人のアクセスをいただいているので、これまでざっと4万人がご覧になった計算になる。忙しい現代人はダイジェストで中身を知りたいだろうし、英語の授業(『武士道』の原文は英語)でこの本を使っている学生は、予備知識を仕入れたいのだろう。20万部を突破した『下山の思想』の中身を手っ取り早く知りたい方も多いと思うので、以下、同書から要所を抜粋しておく。

林住期 (幻冬舎文庫)
五木寛之
幻冬舎

下(お)りる・降りる、下(くだ)る、下(さ)がる、これらの言葉には、どこか負の感覚がともなう。プラス・マイナスでいえば、圧倒的にマイナスのほうだろう。

要するに「下から上へ」の動きはプラスであり、「上から下へ」の行動はマイナスと見られているらしい。それはかつてそうだったし、いま現在もそうである。

上昇するということは、集中するということだ。これまでこの国は、集中することで成長してきた。戦後60数年、私たちは上をめざしてがんばってきた。上昇する。集中する。いわば登山することに全力をつくしてきた。

前に1冊の本を書いた。『林住期(りんじゅうき)』という題名の本だった。そのタイトルは、古代インドの、人生を4つに分ける思想からとったものである。「学生期(がくしょうき)」「家住期(かじゅうき)」「林住期」「遊行期(ゆぎょうき)」。中国にも似たような言葉がある・「青春」「朱夏(しゅか)」「白秋」「玄冬(げんとう)」の4期である。登山というのは、ある意味で前半の2期にあたるのではあるまいか。そして、後半の2つの季節に相当するのが、「下山」であるような気がする。人間の一生でいうなら、50歳までと、それ以後である。今の時代なら、さしずめ60歳で定年退職してから後と考えるのが自然だろう。

登るときは必死で、下界をふり返る余裕もなかったかもしれない。だが、下りでは遠くの海を眺めることもあるだろう。平野や町の遠景をたのしむこともできるだろう。足もとに高山植物をみつけて、こんな山肌(やまはだ)にも花は咲くのかと驚くこともあるだろう。岩陰からふと顔を出す雷鳥に微笑するゆとりもあるだろう。

この国が中国に抜かれるまで、世界第2位の経済大国であったということが、じつにすごいことだったのである。まさに一時代を画した歴史の奇蹟といっていい。私たちはそれを誇っていい。しかし、すごいことというのは、相当な無理をしなければできないことである。そして、当然のことながら、ずっとすごいことを続けることはできない。そこには相当な無理があった。無理をしなければすごいことなどできない。その証拠が、年間3万3千人から4千人の自殺が10数年も続いていることだろう。

下山する、ということは、決して登ることにくらべて価値のないことではない。一国の歴史も、時代もそうだ。文化は下山の時代にこそ成熟するとはいえないだろうか。私たちの時代は、すでに下山にさしかかっている。そのことをマイナスと受けとる必要はない。実りある下山の時代を、見事に終えてこそ、新しい登山のチャレンジもあるのだ。少子化は進むだろう。輸出型の経済も変っていくだろう。強国、大国をめざす必要もなくなっていくだろう。そして、ちゃんと下山する覚悟のなかから、新しい展望が開けるのではないか。下山にため息をつくことはないのだ。


抜粋は以上である。『足るを知る経済―仏教思想で創る二十一世紀と日本』という著書がある安原和雄氏(元毎日新聞記者)は、ブログ「安原和雄の仏教経済塾」で『下山の思想』を詳しく紹介され、以下のように感想を述べられている。

足るを知る経済―仏教思想で創る二十一世紀と日本
安原和雄
毎日新聞社

<安原の感想>(1) ― 「下山することの価値」に着目
時代は「下山のとき」、という認識が本書『下山の思想』の出発点であり、ユニークな視点となっている。たしかに著者の五木さんも指摘するように、山に登ることは三つの要素、すなわち山に登ること、山頂をきわめること、さらに下山すること、が切り離しがたくつながっている。ところが下山することの価値はこれまでほとんど無視されてきた。その盲点に着目したのが本書の魅力である。この盲点に光を照らすためには次のような「ローマ帝国崩壊」に関する著者の図太い歴史観が支えとなっている。その骨子は以下のようである。

私たちは歴史について、ある偏(かたよ)った先入観を抱いているようだ。それは時代の変化が、一朝(いっちょう)にしておこるように思っている点である。例えばローマ帝国の崩壊という。ある日、大きな事件がおこって、たちまちにして帝国が滅びたように考える。これは明らかに間違ったうけとり方だ。「ローマは一日にしては成らず」という。だとすれば、同時に、「ローマは一日にして滅びず」ともいえる。歴史は一夜にして激変はしない。長い時間をかけて変化がきざし、それが進行する、と。

さらに以下のように説きすすめてもいる。

下山の時代がはじまった、といったところで、世の中がいっせいに下降しはじめるわけではない。長い時間をかけての下山が進行していくのだ。戦後半世紀以上の登山の時代を考えると、下山も同じ時間がかかるだろう。しかし、下山の風は次第にあちこちに吹きはじめている。いつか人々は、はっきりとそのことに気づくようになるはずだ、と。

<安原の感想>(2) ― 脱「経済成長」と脱「軍事力」と
上述のように「下山の時代」の到来を繰り返し説いている。では下山時代の特質はどのように認識したらよいのか。その一つは経済力、軍事力の否定である。例えば次のように指摘している。

・私たちも大志を抱くべきだ。しかしそれは果たしてどのような国の姿だろうか。
・経済力ではあるまい。軍事力でもない。
・私たちはふたたび世界の経済大国という頂上をめざすのではない。
・輸出型の経済も変わっていく。強国、大国をめざす必要もなくなっていく。

これは「経済力と軍事力」の神話の否定であり、いいかえれば脱「経済成長」と脱「軍事力」を意味し、脱「日米安保体制」にもつながっていく。もともと日米安保は日米間の経済同盟(経済成長と経済協力の同盟)であり、同時に軍事同盟(在日米軍基地を足場とする対外軍事侵攻と日米軍事力の一体化をめざす同盟)である。だから、経済成長や軍事力を否定する以上、やがて脱「日米安保」となるほかない。「経済力と軍事力」の神話の否定はもちろん脱「原子力発電」にもつながっていく。

<安原の感想>(3) ― 夜の濃さの再発見、そして心の余裕を
もう一つはGDP(経済成長を測るモノやサービスの量を示す概念)では把握できない非経済的、非市場的価値の重視である。例えば以下の指摘に注目したい。

・下山は「林住期」から「遊行期」への時期だ。そこに人生のつきせぬ歓びと、ひそかな希望を思う。
・日は堂々と西の空に沈んでいく。それは意識的に「下山」をめざす立場と似ている。
・(大震災と原発惨事のため)節電の運動が普及して、街は暗い。しかし夜の濃さを再発見したような気がして、節電の街があまり不安ではない。
・下山の過程は、どこか心に余裕が生まれる。遠くを見はるかすと、海が見えたり、町が見えたりする。

人生のつきせぬ歓び、ひそかな希望、堂々と西の空に沈んでいく日(太陽)、暗い街で夜の濃さの再発見、心の余裕 ― などはいずれも経済成長とは無関係であるが、精神的充実感を味わうのに大切な要素である。経済成長や日米安保への精神的奴隷ともいえる惰性的な生き方から精神の離脱をめざし、「生き生きと生きよう!」というのが「下山の思想」のもう一つの提案と受け止めたい。


同書に、登山と下山の折り返し点は「人間の一生でいうなら、50歳までと、それ以後」とあるように、50歳を超えた私のような者にとって「下山」の思想は納得できる話ではある。しかし「若い人は共感できるだろうか」という疑問が残る。だからAmazonのカスタマーレビューでも、若い人の感想には厳しいものがある。

ベストセラーは時代を映す鏡であるといわれる。「下山」の時代を迎えた日本が、これからどの方向をめざすべきか、「新たな山」はどこにあるのか。その回答は同書には書かれていないが、「ちゃんと下山する覚悟のなかから、新しい展望が開ける」ということも確かである。ゆとりを持って来し方をふり返るのも、悪くはない。
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