tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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同時進行!平城遷都1300年(9)

2007年10月30日 | 平城遷都1300年祭
約5か月ぶりに「同時進行…」第9弾をお届けする。前回(6/9)以降の大きな動きといえば、やはり「平城遷都1300年記念事業実施方針案」の決定・発表だろう。

この「案」の前提には、荒井知事が国土交通省に要望すると公表(5/30)した「大極殿回廊」と「朝堂院」(ちょうどういん)の復原、および宮跡の「国営公園化」という3点セットがある。

「案」の概要は8/3付の同協会ニューズレター(第7号)に掲載されているが、その後の情報も合わせて、以下に紹介する。
※参考:平城遷都1300年記念事業協会ニューズレター
http://www.1300.jp/newsletter/index.html

1.記念事業の構成

記念事業は、宮跡の国営公園化と記念イベントで構成。イベントは「平城宮跡事業」(宮跡で行う事業)と「広域連携事業」(県内各地とタイアップして行う事業)に大別する。
(1)平城宮跡事業
・第一次大極殿(=すでに工事中)、大極殿回廊、朝堂院などの施設を復原し、そこで古代衣装・食・音楽等を楽しみながら実体験できる場や機会を提供。
・記念式典をはじめ、催事・展示・物販・飲食、参加体験等の祝祭フェアなどを季節リレーで展開。
(2)広域連携事業
・平城宮跡をゲートウェイ(玄関)として、年間を通じて充実した広域ネットワーク型イベントを開催。
・市町村、社寺・博物館、企業・団体等の多くの人の参加を得て、秘宝・秘仏等の展示・展覧会、伝統行事、国際的なコンベンション・シンポジウムなどのイベントを実施、あるいはコーディネート。

2.推進スケジュール

(1)国営公園化
概算要求(8月)→政府予算案(12月)→国予算成立(3月)→閣議決定(4月)
(2)記念事業実施計画
実施方針の決定(9月)→実施計画案とりまとめ(12月)→県民からの意見募集・関係機関との調整(1~2月)→実施計画決定(3月)

あらましは以上だが、要するに知事が交代して方針が変わり、仮設パビリオンの建設ではなく「復原施設の活用」「国営公園化」をベースとした事業を行うということである。

これに対し、朝日新聞から疑問の声が上がった。9/19付夕刊の《荒井知事「国営公園化」で波紋 遷都祭に完成困難》という記事だ。

《パビリオンを造らず、国営公園として古代宮都の中枢部を復元するとしたが、開会までの工事完了は難しい状況。担当者は頭を抱える》《予想入場者を下方修正し、近鉄奈良線につくる予定だった臨時仮設駅構想も撤廃したため、計画変更後の総事業費もはじき出せないでいる》《県庁内では「年度内に(会場の)設計ができないと間に合わない」と焦りの声も出始めている》

ただ予算面では、8/29には平城宮跡の「国営公園化」が国土交通省の来年度予算の概算要求に盛り込まれ、また10/19には、遷都1300年を機に観光交流を促進しアクセス道路や公園を整備するという事業に、国交省からの補助金(地域自立・活性化交付金)の交付が決まった。タイムスケジュールを別とすれば、知事の目論見は一歩一歩実現に向かって進んでいると言えるだろう。
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/02/021019_.html

先日、同じ朝日新聞に、知事へのこんなインタビュー記事が載った。見出しは《小滝ちひろ記者が奈良県知事 荒井正吾さんに聞く》(10/27付)。

《お金の算段はできる。時間については完成とはいかなくてもそこそこはできる》。「盛り上がりが見えない」という記者の問いには《前もって高ぶらなくて大丈夫。粛々と祝います。事業は奈良の展示力(案内、動線、説明)とは何かを探し、発見する作業》。

しかし、それは《全く完成されていない》《宗教的な精神性の高いものが多い奈良の素材には失礼かも知れないが、おもしろみを加えることに欠けていないでしょうか》と知事は語る。

記事の末尾で小滝記者は、東大寺大仏殿の柱の穴くぐり(=大仏さまの鼻の穴の大きさにくり抜いてある)に行列ができていることを例に、《ちょっとした遊び心をあちこちで形にすれば、展示力の強化はそう難しくないように思えるのだが、どうだろうか》と読者に問いかけている。

この問いは、私がいつも引用する観光コンサルタントの話「女子供を軽んじるな」「東京ディズニーランドに学べ」と、再びダブって頭に響いてくる。

新薬師寺で売っていた200円の絵はがき(バサラ大将像のCG復元画像)には、元画像掲載サイトへの無料アクセス権がついていた、西大寺の大茶盛は、巨大な茶碗でお抹茶をいただくというミスマッチが面白かった、薬師寺の天武忌(於:明日香村)では、菊の御紋のクッキーをいただいた(もらった全員が紙に包んで持ち帰った)、正倉院展では、展示よりミュージアムショップの正倉院グッズに引きつけられた、など、高尚なものからちょっとズレたところが印象に残っている。

観光客を引きつける勘所は、「大仏殿の柱くぐり」のようなちょっとした仕掛け・遊び心にあるのかも知れない。この記事は、奈良への誘客を考える良いヒントになった。

※同時進行!平城遷都1300年(8)
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/1051e96909c74e7f374e36456c6814b7

※写真は興福寺東金堂。室町時代の再建だが、天平当時の姿をよく再現している(07年6月撮影)。

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8 コメント

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観光 (横田)
2007-10-30 10:57:11
そういや、観光のルーツはお伊勢参りだったかなあ。
唐招提寺ではハート形の団扇ですね。別のお寺では放生会。
TDLも米の宗教観の影響が無いとは言えないです。魅力的な悪役は許されないの。(ぎりぎり抵触するといえば腕白のダックかな)

人間くささ、といえば判りやすいかしらん。高尚なお坊さん、やんごとなきお方も、元は人間として生まれたのであり、木の股で生まれたと申す訳でもないし^O^
そこへ行くと天理でしたか、おんだ祭りもありますね。
従来のお仕着せ(お役所)的なイベントに対する概念がそのまま適用できそうにない所が、奈良たりえる、とやっと気づいてきたのかな?これは私も気づかなかった。

ちなみに信貴山の秋の茶会は、私を案内してくれたお茶にちょっと詳しい知人に言わせると「お茶の鉄人レース」と称してもおかしくはない、でした。今の静的な茶道の姿から見ると想像もしない所が面白かったです。
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驚き (南都)
2007-10-30 23:30:15
奈良では「驚き」がアピールするのだと思います。
「驚き」があるからこそ人は奈良に憧れるのでは、と。
鹿が闊歩するシーンや自然と歴史景観が一体となった奈良の風情は実はそのものが「驚き」だと思います。
西大寺の茶碗も大仏殿もすべて「驚き」です。
奈良ならでは「驚き」で、是非やって意味のある展開になればいいですね。
似つかわしくないパビリオンも駅舎新設も確かに真っ平御免です。こういうのは「驚き」でも何でもないですから。
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サプライズ (tetsuda)
2007-10-31 06:34:45
横田さん、南都さん、コメント有難うございました。

> 従来のお仕着せ(お役所)的なイベントに対する概念がそのまま適用できそうにない所が、奈良たりえる

そういうことなのですね。もしかしたら古代から、奈良はそういうことが満ちあふれていたのかも。

> 奈良ならではの「驚き」で、是非やって意味のある展開になればいいですね。

確かに、バサラの復元画像も菊の御紋のクッキーも正倉院グッズも驚き=サプライズでした。良いキーワードを教えていただきました。これを深掘りできないか、ちょっと考えてみます。
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大極殿と金堂 (酒仙堂)
2007-11-02 14:00:52
 さっき仕事の一環で今日から公開が始まった平城宮跡大極殿復原工事現場と唐招提寺金堂解体修理現場に行ってきました。以前平城宮跡でガイドをしていた時の仲間に会って、話していたのですが大極殿の復原が200億円、荒井知事が提唱している回廊を復原するとなるとさらに700億円ぐらいかかるとか。お金ももったいないし、あの平城宮跡ならではの広々とした開放感がなくなるのでもう復原は打ち止めにして欲しいですね。気になったのは宮跡のあちこちで見かけた“荒れ”です。内裏の柱を表現したツゲの木は綺麗な円筒が崩れかけています。資料館の植え込み前のツツジは蔓性の植物に覆われています。ボランティアガイド氏いわく、予算の削減からくる整備不足だそうです。資料館では重文の木簡を公開中です。
 金堂の見学会はこれが最後だとか。大極殿はたぶん今後も公開するでしょうから、天平の甍をま近で見る最後のチャンスの方をお勧めします。
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復原 (tetsuda)
2007-11-03 15:19:53
酒仙堂さん、コメント有難うございました。

> 大極殿の復原が200億円、荒井知事が提唱している回廊を復原するとなるとさらに
> 700億円ぐらいかかるとか。お金ももったいないし、あの平城宮跡ならではの
> 広々とした開放感がなくなるのでもう復原は打ち止めにして欲しいですね。

私も以前から主張しています。「なら県民電子会議室」でも議論になりましたが、特に若い人は「原っぱでは恥ずかしい。掘り起こせ、復原せよ」の一点張りで、議論が全くかみ合いませんでした。

> 天平の甍をま近で見る最後のチャンスの方をお勧めします。

そうでしたか。うーん、行きたいなぁ。
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えっ、若い人が・・・。 (酒仙堂)
2007-11-05 10:13:37
 寂しいですね、若い人がそういう意見だとは。電子会議に参加される人って色々と考えているんでしょうからなおさらです。“モノ信仰”やテーマ・パークに我々の世代より慣れ親しんでいるからなのでしょうかね。
 いぜん朱雀門でガイドをしていた時、お客さんが目の前に広がる空間を見て「なんにもなくってもったいない」と言うので、立場を忘れムキになって反論したことを思い出しました。
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矛盾 (横田)
2007-11-05 17:40:48
某駅を地下化して地上をすっきりしろというのなら、1000年以上も保たれた地上の空間の価値にも気づいて欲しいものですね・・・。
正しい情報をもっと提供し続ける必要がありそうです。建造物に対する直接的な史料は残っていない、など。
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無知との遭遇 (tetsuda)
2007-11-06 06:08:52
酒仙堂さん、横田さん、コメント有難うございました。

> 寂しいですね、若い人がそういう意見だとは。

何も知らずに発言しているのです。「客寄せパンダ」程度の認識です。「観光客が増えるのだから、良いことだろう」と。かつて明日香村の発掘ラッシュのとき、小林秀雄がそれを諫める文章を書いていたのを思い出しました。

> 正しい情報をもっと提供し続ける必要がありそうです。
> 建造物に対する直接的な史料は残っていない、など。

この点は、ほとんどの人が誤解していて、完全に当時のものが復原されると信じ込んでいます。粘り強く情報を発信し続けなければいけません。
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