tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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田中利典師/随想随筆(3)日本人は無宗教ではない

2016年06月03日 | 奈良にこだわる
いよいよ明日(6/4)午後3時から「勝谷誠彦の山伏な日々」(勝谷誠彦さんの単独講演と、田中利典師と勝谷さんの対談)が金峯山寺で開催される。参加無料だが要申込。まだ残席があるようなので、ぜひお申し込みを(申込先:金峯山青年僧の会 Tel 0746-32-8371 )! 詳しくは、こちら
※画像はいずれも、利典師のFacebookから拝借

さて本題である。金峯山寺長臈(ちょうろう)で、このたび種智院大学客員教授に就任された田中利典師は、中外日報(宗教・文化の専門紙)に随筆を連載しておられる(全4回)。その第3回(「随想随筆」5/27付)が師のブログ「山人のあるがままに」に掲載されたので、以下、全文を紹介する(第2回は、こちら)。

日本人は無宗教ではない/寺社フェス向源(こうげん)にて
この5月、東京の増上寺、神田神社や日本橋界隈(かいわい)で催された寺社フェス「向源」(主催・向源実行委員会)に参加した。「神道vs仏教vs修験道」というトークショーに出演したのである。本番を終えて、控室に戻ると、何人かの知人の訪問者に混じって、見知らぬ青年が私に声を掛けてきた。

「先生がお話になった『日本人は無宗教ではない』という話に大変感激をしました。私は無宗教を標榜していますが、高野山や伊勢神宮をはじめいろんなところへ出かけて、仏教や神道に触れようとしています。ただ、どこかの宗教に入るとなるといろいろ制約を受けそうで、窮屈な感じがして腰が引けます。どうしたらいいのでしょうか?」というような質問だった。

寺社フェス向源とは、宗派や宗教を超えて、神道や仏教などを含めた様々な日本の伝統文化を体験できるイベントで、今年で6年目を迎えた。私の出演したトークショーだけでなく、声明公演や坐禅の体験会、写仏や写経、祝詞の奏上、ワークショップ「お坊さんと話をしてみよう」などなど、多彩な企画が催行され、若い世代を中心に7日間の期間中には1万5千人余が集ったそうである。くだんの若者も、向源に魅せられて来たのだった。



さて、彼の質問に対する私の答えである。「まだ慌ててどこかの宗教に決める必要はないですよ。大いに悩み、大いにいろんな所をお尋ねなさい。例えて言うなら、今のあなたは富士山に登りたいと思いながら、富士山の周辺をうろうろ旋回しているようなもの。いずれ自分に相応(ふさわ)しい登り口が見つかり、山に入りたくなります。それまで納得できるまで探していればいい。ただし、山の周りを回っているだけでは山には登れません。山に登るにはいつかは道に入らないといけないですよ。」とお話ししたのである。

前稿でも触れたが今や無仏の時代、無宗教を標榜する時代である。また今まで継承されてきた檀家制度も機能不全に陥りつつあり、呼応するが如く、アマゾンの僧侶派遣業のようなものも出てきた。時代は変わる。そして時代は求めるのである。

私はいつまでも日本人に無宗教などと言わしておきたくない。法話会や様々な試みを通して、少しでも悩み苦しむ現代社会の人々に寄り添うことが肝要なのだと思っている。

けだし「山の周りを回っているだけでは山には登れません。山に登るにはいつかは道に入らないといけないですよ」は、名言である。本稿を読まれたKさんは利典師のFacebookに「宗教の定義が、世界と日本で違うだけの事でしょう?日本人で、本当の意味での無宗教だなどと思っている人など、私もほとんどいないと思います」と書かれ、師は「そのとおりです。というか、宗教という日本語は明治に一神教のいう、レリジョンをそのように訳したところに問題がありますね」と返された。これに対しKさんは「信仰の方がまだしも、近い気はしますが…」。私もこれには全く同感である。信頼できる英英辞典(オンライン版『ロングマン英英辞典』)を引くと、

religion
1[uncountable] a belief in one or more gods:
2[countable] a particular system of this belief and all the ceremonies and duties that are related to it:


と、1番目に出てくるのは「信仰」(1つまたは複数の神を信じること)であり、「宗教」(特定のシステム)は2番目だ。文中の青年は「どこかの宗教に入るとなるといろいろ制約を受けそう」と、「特定のシステム」(宗教団体)に属することを懸念しているのであり、信仰心がない訳ではないのだ。私も「特定のシステム」に属しているという意識はないが毎朝、仏壇にお茶やお水を手向け、手を合わせる。お寺や神社では、必ず神仏を拝む。ほとんどの人はそうしているだろうから「日本人は無宗教ではない」。

いまだに外国人に対して「私は無宗教で…」などと言う日本人がいて、当の外国人は驚いている。もうそろそろ、これは止めにしよう。



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