新・日曜炭焼き人の日記

炭遊舎のホームページで書いていた「日曜炭焼き人の日記」を引きついで書いていきます。

検定教科書の問題点

2017年01月09日 | 日記

 スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式でしたスピーチが、高校の英語教科書に取りあげられている。

 ジョブズはまず自分が大学を出ていないことから話し始める。そしていきなりみずからの出生の秘密を明かす。生みの母は未婚の大学院生だった。妊娠した段階ですでに、生まれてくる子の養育者を探し始める。弁護士夫妻が引き取ってくれる予定だったが、女の子でないと分かったとたんにおりてしまった。別の夫婦が見つかったが、女は高卒、男は中卒だとわかり、生みの母は逡巡する。生まれてくる子にはかならず大学へ行かせたい。やむなく「子どもはかならず大学へ行かせる」という念書を書かせて引き取らせる。18年後、ジョブズはなんとかリード大学へ入ったが、数か月でドロップアウトする。ドロップアウトしながら、そのままずるずると1年半ほど大学に残り、気が赴くまま卒業に必要な単位とは関係なく授業に出席する。その大学には書道の授業があった。手書き文字の美しさに心を奪われる。美しい字を書くにはどうすればよいか、字と字の間隔は等間隔でなくてもよいことを知る。マッキントッシュ・コンピューターの美しい文字がここから誕生する。
 お金がないジョブズは友人の部屋に居候し、コーラ瓶を拾い集めて売り、毎日曜夕方には、ハーレクリシュナ寺院が貧しい人たちに配給している食事をもらいに何時間も歩く。
 20歳のとき親友と2人で、会社を立ち上げる。マッキントッシュはその後の10年で従業員4000人を抱える大企業に成長する。優秀な社員を多く抱える会社に成長したが、自分が作った会社から追い出されてしまう。将来のビジョンについて他の経営者と意見が合わなかったからだった。ひとりになっても自分がしたいことをするべきだと考えたジョブズは、コンピューターでアニメを作る映画会社ネクスト、ピクサーを立ち上げる。「トイ・ストーリー」はピクサーが作った最高傑作だった。ところがネクストがアップルに買収され、ジョブズがアップル社へ返り咲く。
 その後、膵臓ガンに襲われ、手術によって一命をとりとめたこと、1960年代の出版物「全地球カタログ」にめぐり合い、その最終号の表紙の美しさとそこに記されたStay Hungry, Stay Foolishのことばにめぐり合ったことを語ってスピーチを終える。
 
 高校の教科書では、このスピーチのほぼ全体を取りあげてあるが、出生の秘密はそっくりそのままカットされている。未婚の母を教科書に登場させるのはまずいようだ。しかしスタンフォード大学の学生たちは、この部分に心をわしづかみされ、その後のジョブズの話にのめり込んでいったことは疑いない。インターネット上に公開されているスピーチのようすを見ても、食い入るように見つめる学生たちの姿が映し出されている。
 さらにスピーチには友人たちの名前、奥さまの名前も出るが、教科書では削除されている。基本的に固有名詞は教科書に載せてはいけないらしい。コーラ、ハーレクリシュナ寺院、映画製作会社ネクストとピクサー、映画「トイ・ストーリー」などはすべて削除されるか、それが出てくるエピソード全体がカットされている。なじみがある固有名詞は、聞いている人、読んでいる人の想像力をかき立てる。それを削除してしまうのは、民間企業の宣伝になってはいけないなどの配慮が優先され、それを教材にして学ぶ人のイマジネーションを萎ませてしまう結果になる。
 教材としてリライトされたスピーチを読むより、生のスピーチを聴きたい。






最新の画像もっと見る

コメントを投稿